CIDフォント
CIDフォントについては5月号の本欄でAcrobatを取り上げたときに少し触れた。CIDとはCharacter IDentifier(文字識別子)の頭文字をとったもので,CIDフォントとはアドビのCID-Keyed Font Formatに基づくフォントをいう。CIDに対して従来のPostScriptフォントをOCF(Original Composite Format)フォントと呼ぶ。
OCFは1バイト・コードである。ただ1バイトだけではもちろん日本語の文字を十分に使うことはできないから,複数の1バイトファイルを組み合わせて1書体を構成する。「composite(合成)」という言葉の所以である。一方,CIDフォントは2バイト・コードであり,文字のアウトラインなどの情報を持つフォントファイルと,フォントファイル中の文字と文字セットとの対応を記述したCMapという2つのファイルから構成される。つまり,Mac版83年版(83pv),Windows 95用(90ms)など,各文字セットごとにCMapファイルを切り替えて,フォントファイル中の文字と対応づけて文字を呼び出す仕組みだ。CIDフォントにする主なメリットは,フォントの作成が容易になることとフォントの容量が小さくて済むことである。
CIDフォントにはNaked-CIDとSFNT-CIDの2種類がある。Naked-CIDは以前よりアドビからATM(3.9J)という商品で販売されていたが,今回リリースするCIDフォントはSFNT-CIDで,詰め情報と異体字切り替え情報を持っている。ちなみに,詰め情報及び字体切り替え情報はフロントエンド側のみ必要で,出力側にはSFNT-CIDはいらない。
モリサワは26書体のCIDフォントのリリースを発表したが,テキスト&グラフィックス研究会では9月のミーティングで同社の中村信昭氏にお話をうかがった。モリサワは,多バイトの文字コードへの対応と外字対応のためにCIDへの移行を決定した。また,マルチプラットフォームへの第1歩としてWindows版のCIDフォントもリリースする予定である。
製品形態
モリサワでは,CIDの開発に合わせて従来のOCFを見直して文字そのものの改訂を行った。これはフォントフォーマットとは直接は関係ない。改訂には「文字改訂」「別字改訂」「データ改訂」「異体字改訂」の4種類がある。「文字改訂」と「別字改訂」は点画の増減なので注意が必要である。また,「データ改訂」はデザインや仮想ボディ内の文字位置の変更,「異体字改訂」は,異体字のハネや画線の長さなどの改訂である。販売済みのOCFフォントについても修正用パッチプログラムを用意して対応する。
CIDは,当初7月販売開始の予定が遅れているが,全26書体を発売,それぞれ低解像度用,高解像度用を同時にリリースする。中ゴシックBBBとリュウミンL-KLは従来はパッケージとして販売していなかったが,最近のRIPでは書体をバンドルしないものもあるため,CIDフォントではすべての書体をパッケージで発売することにした。1書体の価格は,低解像度用(1,200dpi以下)は49,000円,高解像度用(1,201dpi以上)は298,000円である。
販売延期の理由
不具合の発見
リリースが遅れている理由の一つは,開発したCIDフォントにおいて,@チルダ(~)の文字幅の相違,AFOND情報の相違,Bボールドの出力不全,CCIDで追加した「凜」「熙」の2文字のビットイメージが欠落していた,という4つの不具合が発見されたことである。
@26書体すべての画面上のチルダの文字幅が広めに設定されていた。
AATM用でインストールした場合のFOND情報と,ビットマップのみの場合のFOND情報とが違っていることが発見された。FOND情報にはフォントのいろいろな情報が入っているが,今回問題となったのはWidMax,Ascent,Descentの値である。WidMaxは,その書体の最大の文字の幅を示す数値である。AscentとDescentはそれぞれ文字のベースラインより上,下の範囲を示す数値である。
ATMで画面表示するときにWidMax,Ascent,Descentの値を参照して各書体ごとにメモリを確保するのだが,日本語の場合,WidMaxの値が4096以下になると文字の左右が欠けるなどの不具合が発生することがある。また,ATMとビットマップでWidMax値が違うと,WidMaxを参照するアプリケーションでは文字組みの体裁が変わってしまう。今回,中ゴシックBBBで,ATMでインストールしたときのWidMax値が4157,ビットマップの場合が4096ということが発見されたため適正な値に変更した。Descent/Ascentも同じような問題である。OCFで組んだときに文字の上下が欠けることがあったが,これはDescent/Ascentの数値が不適正だったからで,CIDではすべて適正な数値に変更した。
BCIDでボールドを指定して出力すると,文字が重ねて印字され画面上のボールドとは異なった出力になる。アプリケーションによってはエラーを発生して出力されないこともある。
以上の不具合について,アドビは,フォントパッケージに注意を喚起する文書を入れて販売を開始したが,モリサワはB以外の不具合を修正してから販売する方針である。
互換性の問題
販売遅延のもう一つの理由はOCFとCIDの互換性に問題があったことである。モリサワとしては互換性をアナウンスしてからリリースしなければならないと考え,発売に先だって登録ユーザに対して互換性についての文書を発送する。
OCFとCIDではリュウミンL-KL,太ミンA101,見出ゴMB31の3書体のWidMaxが大きく異なっている。例えば,DTPでよく利用されているあるアプリケーションは,縦書きのときにWidMax値を参照するため,OCFを使用した場合とCIDを使用した場合とで組体裁が違ってしまう。この点をユーザに十分理解していただいてから販売を開始する。また,OCFもCIDに合わせたリニューアル版を出していくつもりである。また,ほとんどのDTPソフトでは問題ないのだが,行間がAscent+Descent+Leadingで設定されているアプリケーションでは違いが発生することがある。
フォント開発の難しさ
中村氏には,この他,OCFとCIDの混在利用時の注意点やプリンタ利用時の注意点について非常に詳細に説明していただき,またバージョンアップやバッチプログラムの配布などあらゆるケースを考えたモリサワの対応について説明していただいた。詳細についてはモリサワから小冊子が配布されているのでそれを参照されたい。モリサワの精力的かつ誠意ある対応には頭が下がる思いである。
ただ,今回のお話をうかがって強く感じたのはDTPにおけるフォント開発の難しさである。モリサワはCIDフォントを開発するにあたってアドビから説明を受けたのだが,そのときに初めて明らかになった問題も少なくなく,その大部分は,上述のようにDTPが欧米の組版の考え方を基本にしていることから生じている。CIDはフォント開発の容易さというメリットがあるはずなのに,逆に彼我の間に横たわる問題を浮き彫りにする結果になったのは興味深い。すでにCIDに続く新しいフォントフォーマットとしてOpenTypeが登場しているが,マルチプラットフォーム環境に向かってしばらくは複雑な状況が続くと思われる。
(http://www.nets.or.jp/interjoin/)
(テキスト&グラフィックス研究会)
(出典:プリンティングインフォメーション 1997年11月号より)
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