オープン化に逆行する?フルデジタル化

フルデジタル化による問題点,スムーズなワークフローの構築とは

本レポートは8月後半に実施した「印刷のワークフローに関するビジネス動向アンケート/JAGAT」(JAGATのWebページ、同「特別ページ」への登録者、JAGAT会員へのFAX配布)の結果とコメントです。
関連セミナーとして9/3に「オープン化に逆行する?フルデジタル化」(テキスト&グラフィックス研究会 拡大ミーティング )を開催した際に発表した内容です。


  • グラフィックアーツのフルデジタル化は「デジタルカメラ→DTP→CTP」でほぼ達成され、その普及が始まっている。
  • ところが、個社内においてこのようなワークフローのフルデジタル化を進めれば進めるほど、外部との制作・製造のコラボレーション作業はトラブル多発状態となってきている。
  • アナログ時代は、版下・カラーポジ・網フィルムを流通させて協力会社との分業体制を容易に組めたことに比べると、フルデジタル化を達成すればするほど、協調した制作体制におけるワークフローの柔軟さは大きく後退してきたといえるのではないだろうか。
  • グラフィックアーツに関わるユーザーの立場で、外部との協力作業をスムーズに進めるために、どのようにオープンなフルデジタルワークフローを構築したら良いのかが課題となってきた。
  • そこでJAGATでは,印刷会社におけるワークフローに関する取り組みについての2002年8月にFAX/メール調査を実施した。このページはその集計結果とコメントである。
  • アンケートから分ったことは、生産設備のデジタル化は達成してきたが、印刷会社のビジネスからは切り離せない、外部協力会社や外注先、さらには顧客とのデジタル・コラボレーションの足腰が未だ整備されていないことが見えてきた。


  • 「ワークフロー」という言葉については、1999年のJAGATトピック技術セミナー 特別講演でお話いただいた、神奈川工科大学情報工学科 速水治夫教授によると、米国のファイルネット社が1985 年にWorkFloTMという、「ペーパー・フロー」を電子的に自動化する製品を出荷したときに初めて使用された」という。ワークフロー管理連合(WfMC)という団体では「ワークフロー」を、「ビジネスプロセス全体あるいはその一部の自動化であり,これによってドキュメント・情報・タスクが,手続き規則に従って,担当者から担当者へ引き継がれる」とある。ビジネスプロセスは、企業目的を達成するための活動や作業のつながりであり、「ワークフロー」は「仕事の流れ」という意味ではなく,その「自動化」という意味が含まれているとしている。(出展:ここまで来たワークフロー管理システム: (1) ワークフロー入門−PDF約200KB, 情報処理学会誌,Vol.39, No.11, pp.1160-1165 (1998))


    【アンケート対象:印刷会社・製版会社・デザイン制作会社様、回収257社の集計】

    1. DTPデータ入稿時に仕様書は添付されていますか
     [ ]1. 詳細が記入された仕様書が添付されている
     [ ]2. 媒体(MOなど)ラベルにソフト名とVer.程度の記入
     [ ]3. 仕様書はあるが添付されていない(場合が多い)
     [ ]4. その他(    )

    (コメント)
    入稿データへの仕様書添付は1/4と少なく、メディアにアプリケーション名とバージョンが記入してある程度というのが半分弱を占めている。しかも1/3は仕様書はあるが使っていないと回答している。印刷会社においては顧客側から、入稿するデータの作られ方や形式などに関わるトラブルが日常化していることの要因を解消する手段として、顧客側での入稿仕様書などの添付を促進する活動も必要である。


    2. DTP入稿データの検査はどのように行っていますか
     [ ]1. 全編集機器にチェックソフトを導入し検査している
     [ ]2. 限定した編集機器にチェックソフトを導入し検査している
     [ ]3. 特にチェックソフトを使用せず検査している
     [ ]4. 入稿データは検査していない
     [ ]5. その他(    )

    (コメント)
    入稿データの検査体制については、全部または一部のDTP機器に、プリフライトなどのデータチェックソフトを入れて検査しているという結果になった。一方で残り半分の回答はチェックソフトを使用していなかったり、チェックしていないという。
    定期刊行物など、入稿状況がわかっているデータではいちいちチェックしなくても問題が起きないというケースもあるだろうが、より広い顧客層からデータ入稿していただくワークフローを目指すには、どのマシンでもデータが点検できるような体制にしておくことが望ましい。
    3. DTP作業においてデータベースをどのように使用(一部でも)していますか
     [ ]1. 文字(組版)・レイアウト,画像について使用している
     [ ]2. 文字(組版)・レイアウト関係について使用している
     [ ]3. 画像関係について使用している
     [ ]4. データベースは使用していない
     [ ]5. その他(    )

    (コメント)
    データベースはワークフローを自動化する一つの大事な手段である。しかしデータベースを使用していないという回答が3割弱ある。 データベースは構築コストとデータ利用の費用対効果の検討が必要であるが、ワークフローの自動化という観点から利用範囲の拡大を検討してみては如何であろうか。


    4. 3のデータベースは主にどの生産品目に使用(一部でも)していますか
     [ ]1. 商業印刷用カタログ
     [ ]2. 定期刊行物
     [ ]3. 書籍関係
     [ ]4. ちらし・折込類
     [ ]5. マニュアル・名簿・リスト
     [ ]6. 帳票・証券類
     [ ]7. その他(    )

    (コメント)
    データベース利用を印刷品目別に聞いたものであるが、最も利用率が高いのがちらし・折り込みで、次が商業印刷物、マニュアル類、定期刊行物と続く。
    5. どのような自動処理を(一部でも)行っていますか
     [ ]1. perlなどを使用したテキストファイルの加工,整形出力
     [ ]2. タグなどを使用した流し込み
     [ ]3. テンプレートなどによる流し込み
     [ ]4. 自社開発または専用ソフト(どのような    )
     [ ]5. 自動処理は行っていない
     [ ]6. その他(    )

    (コメント)
    DTPにおける自動処理そのものを聞いているが、技術的なハードルが少し高い、perlなどで自らプログラムのスクリプトを書いて自動処理させているという回答は15%と少ない。タグによる流し込みは最も多く36%にもなるので、この2つの回答の差分は手作業でタグを書いているということになるのだろうか。自社開発や専用ソフトで自動処理している回答とperl利用を合わせて、4割は何らかの自動処理を行なっていることになるが、このようなよりレベルの高いスキルを、ぜひとも印刷のプロとして身に付けて欲しい。


    6. CTPの導入について
     [ ]1. 導入している
       ↓稼働率(全版数に対する割合)はどの程度ですか
      ([ ]0〜20% [ ]20〜50% [ ]50〜70% [ ]70%以上)
     [ ]2. 1〜2年以内に導入する予定である
     [ ]3. 導入していない

    (コメント)
    CTPは着実に普及していることがアンケートからも分る。2002年末には国内のCTP台数(半歳以上のアルミプレート機)が1,000台、世界中では10,000台の大台を突破するだろうと予測されている。
    しかし、課題は印刷会社内におけるCTP利用率(全PS版に対するCTP版の比率)が、必ずしも高くなっていない会社も多いということである。CTP比率が7割を超えているという回答はわずか2割しかないのは、どこに原因があるのだろうか。
    再版の多い仕事や雑誌のように広告ページのフィルム入稿が混在する。また、外注による平台校正や印刷作業などフィルムの方が便利であり、CTP化の足を引っ張っているということだろう。しかし、デジタルワークフローの前提はCTPであり、プルーフまでを含めたプリプレス工程のフルデジタル化である。


    7. CIP3を使用していますか
     [ ]1. 使用(一部でも)している →(対応印刷機   台)
     [ ]2. 使用していない
     [ ]3. 1年以内に使用(導入)する予定
     [ ]4. その他(    )

    (コメント)
    一部のオフセット印刷機でもCIP3に対応しているという回答は1/4、そして1年以内に対応印刷機を導入するが1割で、来年には回答を寄せていただいた印刷会社の1/3は、CIP3/4対応印刷機を設備することになる。ちなみに現在のCIP3対応印刷機の設置台数は、合計185台/67社に及んでいた。もっとも対応印刷機であっても日常的に使用しているのか、その利用率はという詳細までは今回は分らない。

    CIP3/4関連資料:
    (JAGAT記事)「JDFを活かすも殺すもユーザしだい」
    (PAGE2002コンファレンスより 小森コーポレーション 中島様資料)PDF約340KB:「CIP4/JDFについて」


    8. 印刷外注(協力会社)とのデータのやり取りの方法は
     [ ]1. 専用線
     [ ]2. ネットワークサービス(WAM NETなど)
     [ ]3. インターネット
     [ ]4. オフライン(運搬など)
     [ ]5. その他(    )

    (コメント)
    電子送稿に用いられている通信線の種類などではインターネットの利用が最も多い。また印刷の仕事は電子データだけでは済まないで、大部分は現物配送も伴なっていることが分る。しかし、現物配送に回答していないところもあり、電子送稿だけで済んでいるのだろうか、興味あるところだ。

    (ちなみに、JAGATの月刊誌「JAGATインフォ」と「プリンターズサークル」の2誌は、広告ページ以外は写真データも含めて電子送稿中。代理店から入稿する広告ページはデジタル化してきたが、未だ版下やフィルムで入稿されるものが一部残っている (-_-;)・・・)


    9. 工程進捗管理の方法はどのようにしていますか
     [ ]1. リアルタイムで進捗情報を社内公開している
     [ ]2. ジョブ毎に進捗情報を社内公開している
     [ ]3. プリントアウトした進捗情報を社内配布している
     [ ]4. コンピュータ管理していない
     [ ]5. その他(    )

    (コメント)
    ワークフローをデジタル化するということは、伝票の電子情報化に留まらず、工程指示管理+スケジュール管理+人員(リソース)管理+コストチェックなどを行なう、プロジェクト管理が社内LANの中で実現されていて、さらに印刷制作の原稿や部品データがリンクされ管理されることが求められる。印刷用に開発されているデジタルワークフローのためのJDFやDATABASE-AMPACを利用するためにも、その前提として社内の業務管理システムのリアルタイム処理化などが実現していなければ、話が始まらない。その視点からは、「工程情報がリアルタイムで把握されていない」、「ジョブごとに把握されていないなど」ところが大半を占めており、「コンピュータ管理せず」も3割弱あって、お寒い状況ではないだろうか。

    10. 外部とのデータのやり取り(電子送稿)について(一部でも)
    10-1 原稿・部品データの電子送稿について

     [ ]1. 原稿・部品データの電子送稿は行っていない
     [ ]2. スムーズに行けば原稿・部品データを電子送稿したい
     [ ]3. 原稿・部品を電子送稿しているがアプリの違いが課題
     [ ]4. 原稿・部品を電子送稿しているがバージョン違いが課題

    (コメント)
    制作会社などとのDTPソフト・アプリ違い・バージョン違いに対しては、印刷会社から顧客側対してある程度標準化した推奨入稿仕様書の利用を促進いただくために、顧客自身の団体のひとつのである、(社)日本雑誌協会の広告EDI研究会で作成した「雑誌広告共通・データ入稿仕様書」を紹介してはどうだろう。


    10-2 リモート校正について
     [ ]5. リモート校正は行っていない
     [ ]6. スムーズに行けばリモート校正したい
     [ ]7. PDFでリモート校正している(一部でも)
     [ ]8. PDF以外のフォーマットでリモート校正している(一部でも)

    (コメント)
    何らかの電子データによって、ネットワークを介したリモート校正を行なっているという回答が1/3を超えている。またスムーズに行けば利用したいを含めると、利用への取組みは半分ということになる。
    色校正までのリモート校正は技術的なハードルが高いが、日本雑誌協会では取組みの範囲はプロセスカラーの雑誌広告という範疇ではあるが、「JMPAカラー基準」を設定して既にそのアプローチが進んでいる。その背景には、従来は40日ほどかかっていた広告制作期間(掲載発注から書店に雑誌が並ぶまで)を納期半分にすることで、デジタル広告メディアとの熾烈な競争の中で、雑誌広告でも新鮮な広告掲載が提供できるという競争力を付けようとしたことにある。
    このための大目標が「デジタル校了」で、その取組みが効を奏しつつあり、広告出稿のクライアント団体である広告主協会までも巻き込んだ活動に発展してきた。この活動は、色校正基準を伴ったオープンなワークフローを組み立てることが出来ることを意味する。
    近い将来にはJMPAカラーを理解した顧客から、商業印刷物など雑誌広告以外の印刷におけるプロセスカラーのデジタル校正の基準の一つとして要求されてくるかもしれない。
    10-3 CTPデータの電子送稿について
     [ ]9.CTPデータの電子送稿は行っていない
     [ ]10.スムーズに行けばCTPを電子送稿したい
     [ ]11.自社工場やグループ内のみCTPを電子送稿している(一部でも)
     [ ]12.外注印刷のためにCTPを電子送稿している(一部でも)

    (コメント)
    回答からはCTPデータによる外注印刷はほとんど行なわれていないことが分る。印刷会社にとっては、他の印刷会社への印刷外注を抜きにした仕事は考えられないだろう。ところがCTPが普及するにつれて、従来の網フィルムを渡していた感覚でCTPデータを外注先に渡そうとしても、CTP設備が無い。たとえCTPがあっても、いろいろ検証しないと相手先にCTPデータが送れない。または異なるCTPシステムでは、データを渡すことが技術的に難しいなどの課題が見えてきた。
    プリプレスベンダーが、今後「CTPワークフロー製品」を普及しようとするときには、相互に協調し合って異機種システム間におけるCTPデータの互換性とワークフローの連携を、きちんと検証しておいて頂く必要があるだろう。
    CTPデータをPDFで渡すと言っても、PDFの中身(特に文字・ラインワーク系データ)が問題であるし、1ビットTIFFはデジタル網フィルムであると標榜しても、出力機の解像度に合わせたデータにした上で、さらに網点(スクリーニング)特性が希望どおりに出力できるか、どうしてもその検証が必要である。さらに、CTPデータと一緒に送るデジタルプルーフのカラーマネージメントの課題もある。
    全印工連の2005共創ネットワークの一つである「印刷OEM」グループでは、「印刷物とはOEM提供品」であり、同じ顧客向けの印刷物を複数の印刷会社で刷っても「きちんと品質保証」できなければならないというコンセプトで活動している。CTPデータの電子送稿による印刷外注を考えたときには、受け入れ側の印刷会社がこのような品質基準で対応してくれると、ワークフローの観点でもより柔軟でオープンなコラボレーションができることになる。


    10-4 受発注伝票や工程情報のやり取りについて
     [ ]13.受発注伝票や工程情報のやり取りは行っていない
     [ ]14.伝票類や工程情報のやり取りが必要になっている
     [ ]15.定型フォーマットでやり取り(Web,電子メール)している
     [ ]16.工程情報に紙伝票を使用([ ]PCから出力,[ ]手書き)

    (コメント)
    Webや電子メールを利用して、定型フォーマットで電子情報がやり取りされているのは、未だ15%程度である。これからブロードバンドなど、通信はますます安価で利用しやすい情報の運搬経路になる。その上で電子送稿されるデータには、原稿などの素材データ、校正データ、最終(印刷)出力データなどのコンテンツデータの他に、従来は紙伝票などでやり取りされている情報の電子伝票化が大きな課題である。付加コメントには管理情報データ(仕様指示、作業指示、訂正指示、履歴管理など)、品質データ(色、フォント、組版体裁など)、検査データ(校正、検版など)などがある。これらについてデジタル的な書式を統一して、電子送稿時には原稿や校正データに付加して工程間でやり取りすることが必要になってこよう。

    11.外部とのデータのやり取りの必要性は(□大、□中、□小)

    (コメント)
    外部とのデータのやり取りの必要性が「小」という回答が1割弱あるが、このような自己完結型企業としての強みを持っているのだろう。しかし、大部分はデータのやり取りは重要な印刷ビジネスを水平分業する手段と考えているようだ。



    12.ワークフローのオープン化は(□有利 □どちらとも □不利)

    (コメント)
    ワークフローのオープン化が自社ビジネスに及ぼす影響は、まだ未知数であるが半分以上である。しかしデフレスパイラルの時代の印刷経営は、唯我独尊による1社単独での生き残りは非常に難しくなるだろう。他社とのコラボレーションやアライアンスを、今までよりも広い窓口で行なうことを考えるのであれば、ワークフローのオープン化は決して不利にはならないと考えるべきではないだろうか。
    このアンケートから見たコメントの結論になるが、これからワークフローをオープン化させていくときにどうしても必要なことは「我が社の強み」「この分野はわが社にお任せください」と言い切れる独自性である。他者とのコラボレーションを生かしての「共創力」と我が社の「独自力」の両輪を、ぜひとも持って欲しい。





     「印刷ワークフロー・シリーズ」の今後の予定

    2002年11月29日
    ・テキスト&グラフィックス研究会 techセミナー
     「オープンコラボレーションを目指すワークフロー構築へ向けて」


    2003年2月5-7日
    ・PAGE2003
     「印刷ワークフロー・トラック」

    (JAGAT 研究調査部 相馬 謙一)




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