「デジタルアーカイブ」見学会報告

文化財や社会的資料,情報をデジタル化し,保存,継承する「デジタルアーカイブ」が注目され,商用化への道も開かれつつある。東京大学・武邑光裕先生の研究室では,デジタルアーカイブ・デジタルミュージアムのための技術(インタフェースや各種手法)の応用展開に関する共同開発を行っている。

通信&メディア研究会では,東京大学・武邑研究室を訪れ,武邑先生より,その事例を見せていただき,アーカイブの可能性と,武邑先生が海外と一緒に行っているプロジェクトについてのお話しを伺った。

武邑光裕先生略歴

日本大学芸術学部,京都造形芸術大学を経て,1999年より,東京大学大学院新領域創成科学研究科メディア環境学分野の助教授。専攻は電子メディア美学,サイバー文化論。デジタルアーカイブ情報学の視点から,日本の伝統美学をデジタル情報発信するプロジェクトなどを推進している。

武邑先生の考えるデジタルアーカイブ

本来,アーカイブ型コンテント(音声,画像,テキスト,動画など)がユーザの手によって可変的に編集されたり,新しい情報へと変貌を遂げていくような,固定化されていないコンテントの流通を促進することが望ましい。ところが,日本ではコンテントが流通しあって変貌を遂げていくことに対する認識があまりなかったのではないかという。

古代色の「色合わせの妙」(色のアーカイブ)

京都において,日本の文化資源の持つ世界的な意味に気づいて,3年かけて行ったプロジェクトである。

文化的資産がダイナミックな文化の連鎖へ異種配合され,新しいものへと生まれ変わることがおきないと,デジタル化する意味がない,ということで,京都の「色」に注目されたという。

武邑先生は,明治の初めに諸大名たちが持っていた古代紋様の資源を研究された。それらは,シルクロード,ユーラシアを通って京都に集積されたものである。紋様は,植物,花,動物,自然界の現象,幾何学の五種類に分けられるという。

デジタルで色を抽出し自然染料の復刻を行い,完成された色合わせのパターン表を作成してみると,それらの配色は,今日でも通用するものであることがわかった。デジタル化のコンテントの中に,高度な色合わせのパターンが使えるのではないかと考えた。例えば,デジタルアニメーション,ゲーム,パワーポイントなどである。

2,3,4,6色の組み合せを各500パターンずつ作った。RGB化し,「グローバルゼーション」と名づけた。パターン表からひとつ選択し,バックグランド,タイトル,サブタイトル,などに各色を流し込むことで,完成されたデザインが可能となる。京都には,季節によっておもてなしに使う色を変えるような奥ゆかしい文化がある。そのような日本の色の文化を世界化していこうと,実装できるアプリケーションを開発しようとしている。

これらは1200〜1300年前から日本に集積された古代紋様の自然染料の高度な色を使っている。今日,デジタルのディスプレイやテレビに接する時間が長くなっているので,表示は目や体に優しい色がこれからますます要求される。色が人間の健康に大きな影響を与えるともいわれている。古代色は,全てエコカラーなので,目に優しい組み合せである。この色合わせの妙を,現代の生活にどんどん取り入れていきたいという。日本に流れ着いた色資源を,デジタル上で世界に返すような,能動的に産業,社会,文化に影響をもたらすようなものを手がけていきたいと言い,それによって「日本の資産を世界化できるビジネスモデルが成立できるだろう」と述べられた。

コンテクストナビゲーション

次に,武邑先生が2年間かけて開発したインタフェース「コンテクストナビゲーション」を見せていただいた。これは,1ページに膨大なコンテント全てを表示させることが可能なものであり,ウィーンのJAVAのプログラマと共に開発した,HTMLの次の次世代ブラウザであり,HTMLよりずっと簡単に作れるものである。ユーザがページ数という概念から脱出できるもので,ミュージアム系にも非常に向いている。

2001年6月に,ウィーンで開催される,古代文明などの膨大なマテリアルを集めた世界初の展覧会で,JAVAベースの世界初のCD−ROMコンテントとして発表される。

日本では,パッケージツールで販売する。これは,サーバ側が有償となる。CD−ROM,DVDをオーサリングツールとしてパッケージで販売することも考えている。

具体的には,以下に説明する「京都図鑑」,「京なび」をご覧いただきたい。

京都図鑑

1999年スタートした郵政省,文部省の事業の一環として,全国の小学校高学年用に,修学旅行の事前の勉強のために作ったインタフェースが「京都図鑑」である。京都に関する500項目を「人・物・事」に分類し,写真と文字が紹介されるもので,例えば,「祇園」を選ぶと,「祇園」に関連する項目がクモの巣状につながり,さらに他の項目をクリックすると次はその項目を中心としたツリーができる。この技術を使っているのは,スミソニアン博物館と,このサイトだけである。

京なび

武邑先生らの技術の最初の利用例で,ヴァージョン0.5に相当する。これも,クモの巣状になったインタフェースによって京都の街をナビゲートするサイトである。郵政省のマルチメディアパイロットタウン構想の一環として,「京都市マルチメディア・モデル美術館展開事業」として運営されているものである。京都の見どころを独自に収集,情報発信するとともにインターネットを通じて他のサイトとリンクして京都情報を集大成したものである。直感的に京都の街そのものを渡り歩いていくイメージの仕組みを提供している。

クモの巣状のツリーは,ユーザの関心をひきつける重力関数を空間の表現効果の中に取り入れたもので,2.5次元的操作であるという。これは,今までのハイパーテキストの概念では表現できないものである。このツリー構造は,簡単に作れるツールがあり,HTMLよりずっとラクに作れるものであるという。

今後の展開

現在は,全世界のミュージアムアーカイブに特化したアーカイブミュージアム用のヴァージョンを作ろうとしている。ヨーロッパのクリスタルミュージアムとウィーンナショナルギャラリーなどでの採用が決まっている。現在,海外でコンテントを作っている。

この先には,P2P(ピアtoピア)への応用がある。音楽流通やメディア産業が使うディストリビューション(流通)システムでも使え,個人サーバのP2Pへの応用もあり,個人間のストックマーケットを加速させることが可能となる。膨大なシェアリングの空間を作ろうというイメージである。

なお,このようなコンテント発信は,日本では,個人から始まるであろうと武邑先生は睨んでいる。これからは,個人のコンテクストビジネスが圧倒的に増えるであろう。音楽,洋服,ワインのソムリエなど,コンテクストをディストリビューションさせるポータルが重要となってくる。

これを特化したコンテントサーバが世界中から出現すると,デジタルコンテクストディストリビューションのビジネスが可能になるだろうという。

2001年2月28日通信&メディア研究会見学会

「デジタルアーカイブ」より(文責編集)

会報「VEHICLE」2001年3月号 Vol.12 No.12 通巻144号
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