W3C/慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス
SFC研究所プロジェクト助教授 北川 和裕 氏
W3C(World Wide Web Consortium)は,XMLで言えば情報交換のための基盤として最も基礎となる部分についてだけの標準化である.例えば,電子カルテに関するXMLの評価はW3Cのやることではなく,医者や病院関係の情報に詳しい方々がやることである.
<中見出し>ユニバーサルWebアクセス
<本文>W3Cは,ユニバーサルWebアクセスに向けて活動している.ユニバーサルWebアクセスとは,あらゆるところから自由にWebにアクセスができることである.
第1に文化の壁を越えることで,いろいろな言葉が理解でき,いろいろな国の言語で情報を表現することが可能となることである.フランス人やドイツ人の人名も表記できなければならない.このためには,ユニコードが基本になる.
第2は機械の壁を越えることで,パソコン,iモード,デジタルテレビ,電子レンジや時計などの家電製品など,出力装置や機械に依存せずにどのような機械を使ってもWebアクセスが可能になることである.
第3は人間の障害を越えることで,目の見えない方,耳の聞こえない方などが差別を受けてはいけない,平等であるべきだということである.
つまり,W3Cは世界中のあらゆる人が,あらゆる機械を通じて,Webにアクセスすることを可能にする技術開発,標準化を行っている.
<中見出し>デファクトスタンダードの作成
<本文>W3Cは財団法人など,法律で定められた組織や団体ではない.世界に3つあるホストが運営を担当する,ある意味ではバーチャルな組織である.ホストの1つは,米国MIT(マサチューセッツ工科大学)のLCS(コンピュータサイエンス研究所)である.2つ目はフランスのINRIA(日本の電気通信総合研究所にあたるところ)で,ヨーロッパを担当している.3つ目は,東アジア地区を担当する慶應義塾大学である.
W3Cは,会費を負担する会員で支えられる組織でありボランティアではない.現在は,IT産業,新聞社,出版社,証券・銀行などの金融機関,通信社,印刷会社などいろいろな分野から,全世界で500の組織が会員になっている.
W3Cは標準化団体ではあるが,ISOやJISのような政府に認められた標準を作るものではない.デファクトスタンダード(業界標準)を作成するもので,最終的な成果物は,英語で「Recommendation」といい,日本語では「勧告」と言っている.勧告を作り上げていく段階で,現状のコンピュータ環境でどのように動作するか,実現可能かなど標準化案を実装して検証し,最終的に動作した段階で勧告にしている.したがって,この標準化案実装の検証段階で各種サービスの提供が始まり,その結果,業界で使われる事実上のスタンダードの地位を確立していくことになる.
では,W3Cが作る勧告は,ISOやJISの標準化トラックに上がらないかというとそうではなく,ISOやIETF(Internet Engineering Task Force)と非常に密な関連をとっており,実際にいくつかのW3Cの勧告がISOやIETFの標準化トラックになっている.
<中見出し>W3Cのチームとメンバー
<本文>W3Cにはチームとメンバーという2つの分類がある.チームは,MIT,INRIA,慶應義塾大学のいずれかに所属する教員や研究員(全世界で60名程)が実際の運営にあたり,ベンダーや会員参加組織からは独立して中立的な立場で,技術的な観点やいろいろな視点から標準化の技術開発や実際の標準化作業を行っている.
実際の作業を行うWG(ワーキンググループ)を立ち上げる場合には必ずW3Cの担当チームが決められ,そのチームの担当者とそのチームのメンバーからなるスタッフコンタクトとがWGの実際の運営にあたる.これとは別にWGの議長が存在し,チームのメンバーか外部からの招へい者が就任する.
メンバーは会費を負担し,標準化要望の提起や標準化議論に参加し,自分の意見を述べることができる.日本では,W3Cが一部の企業に牛耳られているかのような誤解があるが,最終的な決断は投票によっており,決してそのようなことはない.
<中見出し>メンバーのメリット
<本文>メンバーは,個々の技術の標準化を提案することができる.W3Cではよほどのことがないかぎり,ゼロから規格を作ることはない.まず,技術をオープンにして広く普及させたいというメンバーからの提案(サブミッション)をもらう.利用者の利益になるかなどいろいろな視点からその提案を検討し,標準化の必要性があると判断したものを標準化トラックに取り上げ,担当チーム,担当WGを決めて標準化活動を開始する.したがって,メンバーでなければ,W3Cの基本的な技術規格を作ることはできないし,規格化を検討するWGにも参加できない.
1つの規格が勧告になるまでには,いくつかのステップがある.最初にドラフト案を作り,実際に広く使用してもらうことや,W3C以外の方々からも意見をもらうために,広く世界に公開している.意見を受け取った後,3か月以内にそのドラフト案を改訂する.メンバーであればドラフト案の途中経過,議論経過を全部見ることができるが,メンバーでない方は改訂された案しか見ることができない.最終的には勧告となり,誰もが自由に使うことができるが,メンバーにならなければ,途中の議論に参加することができないし,自分たちの意見を言うこともできない.
実際に勧告になるときには,いくつかの実装が存在している.W3Cでは実装されたものができた段階で勧告にする.これは標準化されてから実装するというJISなどと大いに異なる点である.つまり,メンバーは勧告案ができたときには,すでに製品を提供できるようになっている.勧告直前のSVG(Scalable Vector Graphics)を例にとれば,既にIllustratorでは取り扱えるが,これから最終的な勧告となり,その瞬間にもブラウザのプラグインが提供される.したがって,メンバーでなければ,公開された勧告を見てから製品を作り直すことになり,市場に出すのが遅れる.
当然のことながら,WGに参加できるだけではなく,あれをやれ,これをやれ,こういうものはよくない,ぜひともこういうものをやってほしいなど,W3C自身の活動について注文をつけることもできる.
<中見出し>慶應義塾大学の役割
<本文>慶應義塾大学は東アジア地区,日本と韓国を担当し,ユーザインタフェースやWAI(Web Accessibility Initiative),簡単に言えば,障害者の方々に対してどのようなWebアクセスを提供すればよいかを主に行っている.主に活動している分野はXHTMLである.この分野のスタッフコンタクトも提供しているし,国際化のスタッフコンタクトとWGの議長もいる.また,コンピュータ以外の機器(携帯電話,テレビなどの家電製品,プリンタなど)でどのようにWebアクセスを行うか検討する分野も担当しており,WGの議長は日本人,スタッフコンタクトは私が努めている.
<中見出し>代表的なXML基盤技術
<小見出し>XML Schema
<本文>W3Cの活動の中から代表的なXML基盤技術のいくつかを紹介するが,それらの基礎には当然のことながらXMLがある.XML自身はSGMLのサブセットという意識が非常に強い.SGMLと言えばDTDがある.確かに印刷だけを考えればDTDでよかったのかもしれないが,もっと上流工程を考えていくとDTDでは不足する部分がある.例えば,「60」と書かれたものが出現した場合に,それが数値か,数字か,文字列か,単位は何かなどをDTDだけでは確実に示すことができない.データ処理のためには明確にすることが不可欠である.XML Schemaは,このようなDTDでは明確に記述できない部分を明確に記述できるようにするための仕様である.
ほとんど作業は完了しているが,欠点は仕様が複雑で難解でありツールなしには使えないこと,仕様が莫大でわかりづらいこと,したがって実装が難しいことなどである.このためにW3C内部でもいろいろと注文がつき検討中で,きっともっと良い規格になるだろう.
<小見出し>XPointer,XPath,XML Signature
<本文>XPointer(XML Pointer Language)やXPath(XML Path Language)は,アノテーション(注釈)などによく使われる.アノテーションでは,参照する文献などの分野,文献名,著者,発行年月日,参照する部分などのメタ情報を書いていく.そのメタ情報で書く参照部分の指定記述に使用する言語が,XPointerやXPathである.
また,XMLで情報交換を行うときに,プライバシーや認証ということが問題となる.だれが書いた情報か,詐称することも可能である.詐称を防止するためには,電子署名が必要であり,その電子署名をどのように作るかなどの基礎的な部分を扱う規格がXML Signatureである.
<小見出し>RDF(Resource Description Framework)
<本文>文献や書籍のメタ情報,Webコンテンツの作者・作成日・作成目的・管理者などのメタ情報,新聞記事の作成日・掲載日・掲載版・夕刊か朝刊かなどのメタ情報などを記述するための規格がRDFであり,XPointer,XLink(XML Linking Language),XPathを使ってそれらのメタ情報を記述する.
また,機械に対する情報の記述にも使用されようとしている.例えば,デジカメで撮った写真に付随する情報(メタ情報)として,画素数,撮影日,天候,撮影時刻,被写体との距離,ズーム倍率などを記述するために,コダックが採用しようとしている.あるプリンタメーカーは,これをプリンタに取り入れてコントロールしようとしている.
<小見出し>SVG(Scalable Vector Graphics)
<本文>印刷関連で言えば,まずあげられるのがSVGである.今までWebは単にイメージだけを交換していたが,拡大縮小など閲覧者が大きさを自由に変更できる表現形式での情報交換についても検討しており,それがSVGである.SVGは,XHTMLなどW3Cの規格との融合性もあり,拡大縮小してもギザギザがなく,機器に依存しない表示が可能で,国際化にも対応(現在11カ国の言語にも対応)している.
PostScriptの使用も考えられるが,PostScriptはAdobeのものである.そこで,誰でも自由に使用できて,あらゆるWebブラウザや装置で見ることを可能とするためにSVGを開発した.携帯電話やプリンタもSVGを採用してほしい.
また,SVGの中にXHTMLやHTMLを入れることもできるし,HTMLやXHTMLの中にSVGを導入することも可能である.
前述したように,実装も進んでおり,作成ツールやブラウザのプラグインなども開発済みである.最近,アメリカのNISTから,最終的なSVGのテストスーツが発表された.開発済みの情報は,W3Cのホームページ(http://www.w3.org/Graphics/SVG/SVG-Implementations)に掲載されている.
<小見出し>XSL(Extensible Stylesheet Language)
<本文>印刷関連の第2はXSLである.XSLにはXSLT(XSL Transformations)とXSL-FO(XSL Formatting Objects)がある.XSLTは,変換ルールをXSLで記述し,XML文書を他の文書形式(他のXML形式も含む)に変換するための仕組みを提供するものである.XSL-FOはXML文書を組版する処理系向けのXML言語ともいえ,XSLTを使用してXSL-FOに変換し,XSL-FOに対応した組版エンジン(フォーマッタ)で最終的な印刷物の体裁にする.したがって,XSL-FOは基本的に直接人間が記述する言語ではない.
この分野は国際化が遅れている.現在の仕様では,日本の商業印刷組版のレベルには達していない.社内報やごく単純なものを作るのであれば十分だが,科学技術の本などを作るには役不足のところが多少ある.現在Version 1.0勧告候補が公開された段階なので,勧告になるまでに変更の余地がある.どんどんコメントを言ってもらえれば,取り組むことはまだ可能である.
<中見出し>メディアへの対応とディバイス特性記述
<本文>印刷以外のメディアへの対応としては,ストリームのための仕様であるSMIL(Synchronized Multimedia Integration Language)が,1998年にW3C勧告となりQuickTime player,Real Player,MS Media Playerなど非常に多くのマルチメディア関連機器に実装されている.マルチメディアストリームの世界の規格で,カラオケのように映像が出ながらテキストが動いて字が変わるとか,映画のテロップなどが簡単な応用例である.
テレビ関係では,デジタルテレビの本格的な動きにあわせて,デジタルテレビの変換,将来的にはテレビとWebの融合に向けた作業を開始した.
デジタルカメラや情報機器などのデバイスの特性(解像度や表示画面の大きさなど)をXMLで記述する仕様には,CC/PP(Composite Capabilities/Preference Profiles)がある.当初は携帯電話用に作ったが,今やテレビ,プリンタ,デジカメなど,応用範囲が非常に広くなっている.
<中見出し>W3Cの今後の方向
<本文>第一は,RDFを基盤としたSemantic Webの実現である.RDFを使用して各種のメタ情報を記述し,その情報を機械が理解できるようにすることによって,できるかぎり自動化を進めることである.ありとあらゆる機器をWebベースにすることである.冷蔵庫や電子レンジにも実装したいし,デジカメも携帯も最近はWebアクセスが可能であるが,それらすべてを,XMLという1つの基盤技術のうえで可能とすることである.コンピュータ以外の機器でもWebアクセスを可能とするために,機器に依存しない情報交換の方法や転送技術を開発し,それを標準化することである.
第二は,マルチモーダル化である.携帯電話を扱うことは若者にはできるが,残念ながら私にはできない.障害のある方もいる.目が見えない方には音声を使用したボイスブラウザがある.耳の聞こえない方には, SMILを使ってテキストを流すテレビの文字放送の方法が考えられる.それらを,どのように融合すれば良いかを考えることである.つい最近,装置に依存しないWebパブリッシングが始まった.デバイス・インディペンデンス・アクティビティである.装置がM個あり,コンテンツがN個の場合,M×N個のページを作らなければならない.このようなM×N問題とよばれる対応ではなく,1個のコンテンツで印刷物,プリンタ,Web,携帯電話,テレビなどすべての機器に対応するコンテンツを作り出すことを可能とする技術を開発することである.新しい標準を作ることは簡単だが,既存技術でできるだけ対応できるものは対応し,既存技術がない部分については新規に作成する.その技術的なガイドラインを作っていくことがここの目的になる.
2001年2月8日PAGE2001コンファレンス「XML関連標準化動向」より(文責編集)
会報「VEHICLE」2001年3月号 Vol.12 No.12 通巻144号
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