新しいマーケティング領域に向かって

掲載日:2015年8月5日

世の中がマスマーケティングから非マスマーケティングに向かうとしたら、マーケティングと関わってきた印刷ビジネスも変わらざるを得ない。

「マスマーケティングがダメになった」というような短絡的な話は口に出したくもないのだが、世の中の仕組みが変わってきて、個人のデータが合法的に蓄積できるようになると、当然その蓄積データを活かしたマーケティング手法に移行しようとするのは自明である。

同様に「これからはビッグデータの使い道が鍵で、ビッグデータをいかに分析・活用できるかが勝負だ」などという軽口も叩きたくはない。

当然のことながらマス広告の代表であるTV CMはデジタル時代になって色々言われている。「テレビはもうだめだ」などと痛烈に批判されてはいるが、決して額面通りということではなく、広告媒体のランキングでもトップの座に居続けるのはほぼ間違いがない。

しかし、いままでダントツの存在だったテレビにインターネットが肉薄するというように、Only oneの存在からOne of themになっていくというのも事実である(こう考えると印刷に似ている)。また購買行動における最終的なプッシュ(最終的な購買行動の決断に至る後押し)でのTV CMの有効性というのが、以前に比べたら力が無くなってきたという事も事実だろう。しかし、マス広告の代表であるTV CMは撒き餌ツールとしての価値はかなりあるわけである。

要は「マスマーケティングはダメだ」「一方通行のTV CMはダメだ」「履歴の取れるインターネットを最大限活用しなければだめだ!」ということではなく、色々なメディアをタイムリーに組み合わせて、効果を最大限発揮するというのが、これからの手法であり、印刷会社の場合はここに印刷物が加わり、IT会社が広告宣伝を行うより、バラエティに富んだ作戦が可能になっているという理屈である。この辺を全面的に出さないなんて・・・と、私は歯ぎしりしてしまうのだがいかがだろうか?

そしてこの辺の広告手法をIT化していこうというのが、マーケティングオートメーションというソフト(仕組み)であり、我々印刷業界にもなじみのAdobeマーケティングクラウドやEFIのダイレクトスマイルマルケトエロクア(オラクルマーケティングクラウド)など、続々と商品が出そろい始めている(出そろっている)。

米国では上場会社の八割程度はすでにマーケティングオートメーションを使っている(もしくは関わっている)という事であり、この数字をストレートに受け取るのは「?」だが、大なり小なりは使っているのが事実なのだろう。

要するにビッグデータなどという膨大なデータに対してマスではないアプローチをしようと思ったら、ポカがあるに決まっているので、その辺をITの力を借りて対処しようというのが、マーケティングオートメーションという仕組みなのだ。せっかくやるのだったら新しい概念も取り入れようと、エンゲージマーケティングの考え方も積極的に取り込んでいる。一生の内、年齢と共に人の嗜好も変わってくる。この辺を長い年限かけて、ズーっと刈り取り続けようというのがエンゲージマーケティングの考え方で、マーケティングオートメーションの役目になっている。

教育産業が、幼児、小学校(中学受験)、中学(高校受験)、高校(大学受験)、大学(就活)、社会人(婚活、転職)、シニア層・・・と、悪く言えば、吸い上げられるだけ吸い上げようという考え方である。こんなことをライフワークで人間がやっていても人的ミスや担当の入れ替わりで実際には無理だが(一部の教育産業は人海戦術で実現している)、ITだったら可能性は否定できない。だから夢のような仕組みにも思えるわけだ。

このように良いことずくめのように思えるマーケティングオートメーションだが、情報等をインターネットから自動的に集めるので、実際のアクションがインターネットの仕組み中心になってくるのが、良くも悪くもなのである。インバウンド(自分から情報を集める)的に顧客が自分でサイトにやってくる場合には、質の良い情報提供・交換ができるのだが、一般の場合はメールマーケティング中心になってしまう。お分かりの通りE-Mailの開封率たるや悲惨そのもので、普通の人だとここでめげてしまう(インターネットの人たちはめげないのだが)。

しかし、ちょっと高級感を感じさせるDMだったらどうだろうか?少なくともE-Mailより二ケタくらい開封率は上がってくるだろう。ベンツにもRV(レジャービークル)があり、ジープのようなGクラスだとしよう。普通のDMだったらSクラスやCクラスのついでにRVも載っているという感じなのだが、この場合はインターネットで情報を集めているので、ターゲットがハッキリしており、かなり突っ込んだGクラス提案が出来るはずである。この場合もJeepのチェロキーとは質感の差を感じさせなくてはいけない。

インターネットで質感の差を感じさせるのは、名前やブランディング、デザインくらいだけになってしまうのだが、紙の場合は紙質や表面加工(UV加工など高そうなものはたくさんある)等で差別化は簡単なはずである。エルメスのバーキンが最近話題になっているようだが、エルメスの箱や印刷物にはしっとり感を感じさせるUV加工が多用されている。モノによっては実際のコストも相当高いようだが、差別化を感じさせるにはインターネットなどより、印刷は容易いはずである。

このようにインターネットとマーケティングオートメーションを駆使して、印刷ビジネスに結び付ければ、まず手始めにDMとリンクしていけばこれは印刷の新境地を切り開けるのではないかと確信している次第である。
そしてJAGATではこの辺のソリューションを絵に描いた餅ではなく食べられる餅にして紹介したいと考えている。

今期はIGAS、JAGAT大会、page2016とこの辺のソリューションを膨らませていきたいというのがJAGAT専務理事としての決意である。

(JAGAT専務理事 郡司秀明)