印刷業の10年の歩みを「印刷統計」で見てみよう

掲載日:2016年6月1日

工業統計の印刷産業出荷額の推移からデジタル化の影響が明らかになります。印刷統計の生産金額の推移からは出版印刷の低迷や包装印刷の漸増などが見えてきます。(数字で読み解く印刷産業2016その7)

印刷市場の規模を見るときには「工業統計」の製造品出荷額等が使われますが、年に1度の工業統計調査に対して、毎月の「経済産業省生産動態統計」における印刷業を対象とした「印刷統計」では製品別・印刷方式別の生産金額を知ることができます。

2つの統計については「工業統計で何がわかるの?」と「印刷統計で何がわかるの?」を参照していただくとして、今回は10年というスパンで統計数字を見てみましょう。

 

デジタル化によって製版業は半減

印刷・同関連業のここ10年(2005年⇒2014年)の変化を工業統計でみますと22.0%(約1.5兆円)の減少となっています。これを印刷業、製版業、製本・印刷物加工業に分けてみると、製版業の減少幅が大きく39.8%減、製本・印刷物加工業が29.7%減、印刷業が20.2%減となっています。金額ベースでは出荷額の9割を占める印刷業の減少額が圧倒的ですが、減少幅としてみますと、製版業は半減に近い縮小となっています。これは社会全体のデジタル化によって製版作業(工程)そのものが大きく圧縮されてしまった結果であることは明らかです。

印刷産業出荷額(従業者4人以上の事業所)の推移(単位:百万円)

  2005年 2009年 2014年
印刷・同関連業 6,945,444  6,172,133 5,415,918
    印刷業 6,104,794 5,481,271 4,872,913
製版業 498,417 390,217 299,926
製本業、印刷物加工業 324,467 282,210 228,062

資料:経済産業省「工業統計表 産業編」

 

印刷統計の変化が緩やかなのはどうしてだろう?

工業統計とは別の印刷統計で印刷生産金額の変化をみますと、ここ10年で9.9%減と工業統計と比較して緩やかな減少幅となっています。

印刷業の生産金額(従業者100人以上の事業所)の推移(単位:百万円)

  2005年 2009年 2014年
印刷業 432,976 405,939 390,196

資料:「経済産業省生産動態統計年報 紙・印刷・プラスチック製品・ゴム製品統計編」

 

印刷業の生産量が減り、価格が低迷したとすると、その影響は工業統計同様に大きいはずですが、どう解釈すればよいのでしょうか。

実は印刷統計は100人以上規模の企業が対象であることから、印刷業としてはクライアントからの元受企業の割合が高いと考えられます。そこで経営環境に合わせ内製化率を高めてきたことが一因ではないでしょうか。また、印刷統計の場合、印刷物に関係する企画・編集費、製版費、製本加工費、印刷用紙費、積込・運賃、保険料、その他が除かれた印刷工賃だけになっていますので、製版費の減少や制作・加工費などの価格競争の影響が少なかったといえるかもしれません。

印刷業の生産金額の10年間の動向を製品別で概観しますと、出版印刷は2007年から7年で半分に縮小しており、出版物の低迷を如実に反映しています。出版物に付き物は製本加工であることを考えると、工業統計の製本業、印刷物加工業の出荷額が約30%減少しているのはやむを得ないことでしょう。

商業印刷は増減はあるものの横ばいと健闘しています。証券印刷は、2004年に「株券電子化」(株券ペーパーレス化)に関する法律が公布され、紙の証券が廃止されたため、2005~2006年に急落し、その後はほぼ横ばいとなっています。

ビジネスフォームや事務用品などの事務用印刷は、緩やかに漸減しています。包装印刷は多少の増減はあるものの漸増傾向にあります。食品、医薬品パッケージが成長しているようです。これは、印刷方式別にも反映しており、パッケージ印刷に使われるグラビア印刷が、4大方式の中で唯一、漸増傾向にあります。建材印刷は一定の規模で横ばいを維持しています。

印刷方式では、4大方式の中で凹版印刷(グラビア)が堅調に伸びている他は、減少傾向にあります。環境面で注目されたフレキソ印刷は、増減はあるものの横ばいを維持しています。これから注目されるのが、転写やインクジェットなどのデジタル印刷の普及です。現在は「その他の印刷方式」に含まれ、着実に増加しています。

(JAGAT 杉山慶廣)