年賀状の季節に想う

掲載日:2014年11月10日

今年の年賀はがきも、10月30日(木)に発売となった。

【減少する発行枚数】

「年賀はがきが発売された」というニュースを聞くと、そろそろ年末の支度を考えようとか、あっという間の1年だったなどと、感慨にふける方も多いだろう。

近年では、「若者の年賀状離れ」などと言われることもある。メールやSNSにて新年の挨拶を交わすため、年賀状を出す習慣が少なくなっているという説がある。若者に限定された事態なのか、詳細な調査や統計の裏付けがあるわけではないが、感覚的には同意できるところもある。

日本郵便の発表によると、お年玉付き年賀はがきの発行枚数は1950年度の4億枚(国民1人当たり4.8枚)から1本調子で上昇を続け、2003年度には44.6億枚(国民一人当たり34.9枚)に達した。しかし、その後は減少に転じ、2012年度には34.1億枚となっている。

減少の理由については、さまざまな意見があるようだ。
2003年に施行された個人情報保護法によって、住所録配布を取りやめた職場や企業が大多数だと言う。大企業などでは、社員間の儀礼的な年賀状交換を自粛するように指示しているところもある。
また、団塊世代が現役を退く年齢に到達したことも影響しているだろう。
前述のように、メールやSNSの影響も当然あるだろう。

総合的に見ると、「年賀状離れ」が起きているのは若者に限ったことではなく、全体的な傾向であると考えられる。

【制作方法から見た年賀状】

年賀状の制作方法は、手書きから印刷まで個人差が大きい。

80年代から90年代にかけて、「プリントゴッコ」が大ブームとなった時期があった。1台で製版と印刷ができ、多色刷りも可能な簡易孔版印刷機である。この頃、個人で比較的安価に大量複製する手段と言えば、これしかなかったとも言える。
その後はパソコンなどに押されて徐々に需要が小さくなり、2008年に本体、2012年には消耗品の販売も終了したようだ。

90年代後半にはWindowsパソコンが急速に普及した。また家庭用インクジェットプリンターや年賀状作成ソフトも、普及し始めた。年賀状作成ソフトは、デザインの豊富さや住所録管理の機能が充実しているため、一度慣れると手放せないと言う面もある。

この頃に、初めて家庭用のパソコンとプリンタを購入し、年賀状作りに挑戦した方も多いだろう。

2000年前後には家庭用(コンパクト)デジカメも普及期へと進んでいく。デジカメの販売台数がフィルムカメラを越えたのは2005年である。当然ながら、家族や趣味の写真を年賀状にしている人も増えていった。

近年では、Webやコンビニ・スーパーの店頭で注文し、配送してもらうネットプリントの利用者も増えている。選択した絵柄と差出人の住所氏名を一緒にプリントしてもらう。自分で撮影した写真を使うこともできる。自宅配送のほか、コンビニ受け取りなどの仕組みもある。

専門業者によるネットプリントの良さは、Web to Print方式によるオーダーの手軽さと仕上がり品質の良さだろう。前回の注文データがそのまま参照でき、住所氏名などを再入力するようなこともない。その程度は当たり前のことになっている。
現在では、デジタル印刷の1ジャンルとして、年賀状ビジネスが確立している。

こうして振り返ると、家庭のPC環境の推移と年賀状制作は密接な関連があるようだ。また、DTP的な手法からWeb to Printへ移行しているところは、印刷業界の動向とも共通する点である。

【年賀状の価値とは】

筆者の学生時代の友人は、毎年、自作の版画を年賀状にして送ってくれる。心が洗われる瞬間である。
デジタル一辺倒の反動なのか、絵手紙や書道も静かなブームになっており、年賀状に使う人も増えていると言う。

年賀状は日本固有の習慣かもしれないが、海外でも大切な人にクリスマスカードやグリーティングカードを送る文化がある。はがきやカードを送り合う習慣は成熟した文化であり、普遍的な価値があると言えるだろう。
年賀はがきの総数は多少減っていくかもしれないが、デジタルや手書きに関わらず年賀状によるコミュニケーションや文化自体がなくなることはないだろう。

(JAGAT 研究調査部 千葉 弘幸)