インドと日本の印刷交流のために

掲載日:2014年12月11日

国際的に印刷市場を見ると、ほとんどの国は古くから近隣の国との印刷業務の交流をしており、印刷の国際化は当然のことになっている。

田中 崇 THOMSON PRESS

100 兆円規模といわれる世界の印刷マーケットは全体に縮小傾向にある。しかし、国際的に印刷市場を見ると、ほとんどの国は古くから近隣の国との印刷業務の交流をしており、印刷の国際化は当然のことになっている。

電子出版など情報のデジタル化によって情報関連産業は国を超えてのビジネスになりつつあり、印刷業も国際化対応が求められる。例えば海外に進出した日本企業への協力や、日本の高度な印刷技術によって外国の印刷会社や一般企業からの受注などが考えられる。

ロシアの最近の情報は調査不足であるが、そのほかのBRICs 各国は政府の支援もあって相当多くの割合で国外から印刷物を受注している。

私の所属しているインドの印刷会社でも売り上げの30%ほどは国外から受注している。政府援助の例としては、国外からの受注専門の印刷工場ではそこで使う印刷機材の輸入関税が半分になるなどの優遇制度がある。このような仕事の例では、日本の会社が日本およびインド以外の国から印刷物を受注して日本で企画、デザイン、校了までの業務をして(この工程もインドでできれば大きなコストダウンになる)インドで印刷加工をして、欧米などに発送するような仕事が最適で、この場合には納入コストの差もあって大きなコスト
競争力がある。

国際交流のための条件とは

日本の顧客からの仕事を部分的に外国に下請け的に発注する場合、特殊な要求のもの以外、企画の段階では好みの違いもあり、打ち合せのコミュニケーションの困難さもあって難しい。しかし、大量データの製品リストやパーツリストなどの情報処理の仕事では、データベース管理や多言語対応など中国、インドなどに発注することで大きな納期短縮に対応している例もある。プリプレスでは、大量の写真の加工処理、マニュアルの内容改訂処理など手間の掛かる工程の処理は発展途上国への発注が増大している。

プリプレスの工程は、世界的に同じソフトを使っているし、品質管理システムを構築すれば問題は少ない。印刷加工工程では、特印や特殊加工、上製本などは先進国と発展途上国とのコストは大きな差がある。もちろん大会社以外では、機械、材料ソフトが世界レベルでないところもあり、品質管理の継続的指導が必要である。

印刷関係の仕事は、車や家電製品を作る仕事とは大きく違う。印刷機を回す仕事も、毎日100 万回転する輪転機も、普通は版ごとに絵柄が違い、紙が変わることもあるので、その都度で経験による調整が必要である。製本加工も同様な芸術的センスと科学的条件設定が必要である。グラフィックデザインやプリプレスのような創造性の求められる仕事には、オペレーターの芸術的センスが重要である。

このような仕事を外国に依頼する場合、その工場環境、機材から従業員の素質、技術まですべてが整わないと発注者の希望する製品はできない。このように考えると、印刷関係の仕事の交流には、価格、納期、品質すべてがお互いの会社の信頼関係と現場同士の理解と技術交流が重要である。また、外国企業との交流ではお互いの国の国交関係、社会体制など企業の考えでは解決できないことも多い。さらに、宗教も絡んで、それぞれの国の人々の生活信条も違うので、深い信頼関係を作ることが最も重要である。

このような観点から日本の印刷関係の交流の対象国としてはインドが最も適しているといえる。それは、インド人の7 割の人が仏教に近いヒンドゥー教の深い信者が多く、日本人同様な優しさを持った人が多いという背景がある。また、第2 次世界大戦後の日本とインドの国家も国民も日本との友好の気持ちを持っている背景がある。

さらに、インドは英語に堪能で、高等教育を受けた技術者が多く、世界有数のIT 力を持ち、世界の情報処理の中心となっていくという国家の方針もある。日本の印刷会も早急に英語による海外営業の体勢を作って、世界一の印刷技術による国際化による発展をすべきである。

(『JAGAT info』2013年11月号)