マスカスタマイゼーションとは

掲載日:2015年5月25日

マスカスタマイゼーション(mass customization)とは、マーケティング、製造業、コールセンター、経営戦略論における用語で、コンピューターを利用した柔軟な製造システムで特注品を製造することである。

言い換えれば、低コストの大量生産プロセスと柔軟なパーソナライゼーションを組み合わせたシステムである。つまり部材は最小限にしつつ、多様な商品を生産する方式だ。

マスカスタマイゼーションという概念は、マーケティングやコールセンターでも使われるということだが、個人的には製造業というイメージが強い。

少し誇張した例かもしれないが、印刷機の代名詞であるハイデルベルグの場合、工場に案内されて強調されるのが、部品製作工程である。工場見学の最初にハイデルベルグ品質を保つためにネジ一本から自作していると説明を受けるの だ。鋳物も自社で鋳造し、歪が出尽くすまで自社倉庫で寝かせ、歪が出尽くしたところで工作している。こうすれば変形しにくくて精度が格段にアップするという理屈だ(木材と同じ)。

しかし、日本の印刷機械メーカーの場合は、外注先企業が優秀なところも多いので、メーカーとしては規格化された部品を発注し、規格化された部品を上手に組み合わせて印刷サイズや印刷スピード、精度のバリエーションを増やして いる。マスカスタマイゼーションの理論に完全準拠している訳では マスカスタマイゼーションないが、日本の企業は多かれ少なかれ、ネジを京浜工業地帯や東大阪市の町工場などに発注し、鋳物は川口市の企業に発注し、効率良くカスタマイズしている。昔からマスカスタマイゼーションっぽいことを、行っていたということである。

思えば、ベルトコンベアによるT 型フォード式大量生産を子供の頃教え込まれた世代(現在55歳以上の人は、伝記などでフォードやエジソンについては教えられている)の私にとって、トヨタ自動車の確かセリカだったと思うが、外 装色や内装の色やシート、カーステレオ(当時はカーナビなど無かったのです)等々が同じライン上に何種類もの車が並んでいたのを見た時には、非常にビックリしたものである。

しかし、今や同一車種で何通りものカスタマイズされるくらいは当たり前で、違う車種が同じラインを流れるという時代である。グループ内で統一された部品を上手に使って、いかにバリエーションあふれる(違う)車を作るか?に製造業のノウハウが集約されているのだ。しかし、念のために断っておくが、このようなカスタマイズは、まだマスプロダクツの一環 であり、マスカスタマイズには分類されていない。

現在、自動車産業の主な市場は 新興国に移りつつある。巨大市場としての中国、インド、ASEAN 諸国と南米が主戦場になっている。 しかし、ブラジル人の好みと、中国人のニーズは全く異なっている。価格の違いもある。2008 年にインドで30 万円程度の格安自動車(タタ・モーターズのタタ・ナ ノ)が発売され話題になったが、日本や欧米の価格で販売しても勝負にならないのは自明である。こうした状況に対応するために、マスカスタマイゼーションと呼ばれる製造手法が現れたのだ。マスカスタマイゼーションの概念は2000年前後に登場したのだが、大量生産(マスプロダクション)の体制も確保しつつ、多様化する顧客ニーズにも対応するという考え方である。

マスカスタマイゼーションは、製造業とサービス業における新たなビジネスの戦場でもある。コストを増大させずに多様なカスタマイズを可能にするのがマスカスタマイズだが、個別にカスタマイズされた製品やサービスを大量生産することは最低レベルの話で、戦略的優位と経済的価値をもたらす可能性も大きいので今注目されているのだ。

マスカスタマイゼーションの概念は、Stan Davis 氏 の『Future Perfect』に初めて登場し、“Tseng and Jiao” にて「大量生産に近い生産性を保ちつつ、個々の顧客のニーズに合う商品やサービスを生み出すこと」と定義された。

Andreas Kaplan 氏とMichael Haenlein 氏は、これを「企業と顧客の何らかのやり取りから、製造または組み立て工程でカスタマイズされた製品を大量生産品と同程度のコストと価格で製造し、価値を生み出す戦略」と結論付けた。 日本の製造業の実力は世界最高レベルにあるので、マスカスタマイゼーション的な実践力は世界でも有数だと思うが、印刷業にもこの概念は不可欠である。PODビジネスで成功している米国ライトニングソース社などはまさしくこの ような概念を実ビジネスで推進している。

(JAGAT info 4月号より)