売上前年比は▲2.8%
1999年の印刷産業の売上額は対前年比2.8%減と推計された。仕事量は4月以降回復にむかい9月時点では対前年同月比で5.1%とかなりの伸びになった。しかし、価格下落が7.3%という過去で最も大きな下げ幅を記録した。
印刷産業の出荷額は、バブル崩壊後9年を経過した今もピーク時を越えられないでいる。各企業は「印刷のマクドナルド経営」をスローガンに徹底したコストダウンを図ったり、既存クライアントの事業不振で、新しいクライアント、マーケットの開拓を進めなければ道は拓けないとして営業力強化を図ったりと悪戦苦闘しているが、結局、多くの企業が悩んでいるのは、「先が見えない」ことである。短期的には先読みできる受注がなく不安定であることと、今後の新たな事業展開についても、手応えが感じられるようにはなったものの、いつ頃どの程度の大きさになるのかが見えてこない。1999年の印刷業界は、視界不良の中、低空飛行を強いられた。
時代の流れが感じられる品目別印刷市場の動き
印刷市場をみると、主要市場のひとつである出版印刷物の販売部数が4年連続で前年割れになった。実数にして4億7545万冊の減少である。これは、情報媒体の多様化による読書時間の減少という基盤の変化と、売れないから新刊、創刊を出して凌ぐという自転車操業的な出版活動のツケが回ってきたことなど、構造的な問題によるものである。今後は、再販制度の行方によってはさらに大きなダメージを受けることは必至である。
上場印刷10社の品目別売上では、紙器・特殊印刷、電子部品のみがプラス成長であった。その内容をみると、紙器関係で好調な分野は環境対応の紙器,紙カップ、軟包装あるいは住宅部材用環境対応製品や情報通信向け産業資材が伸びていることがわかる。また、証券・カード類の市場でも、伝票市場は低迷しているがICカードは好調であった。
通信販売用カタログ・チラシ印刷市場は伸び悩んでいるが、事務用品のB to B通販のネット販売は急成長している。3年以内にはインターネット単体の事務用品通販で売上100億円を上回る企業が出現するのはまずまちがいないと見られている。
従来の主要市場が不振のなかで、次代の流れの端緒が見られる。
デフレスパイラルに落ち込んだ印刷産業
ここ7〜8年、利益を割りこむ安値が横行しているといわれてきたが、1998年以降はまさにそのような状況に入りこんでしまったことが確認された。
JAGATの推計によれば、印刷価格は過去5年間で約15%下落した。これに合わせるように平版インキの単価は5年で15%、特殊白黒フィルムの単価は25%強下落をしている。また、各社ともに人件費を含む製造原価低減の努力をしてきたが、たとえば、代表的な上場印刷企業の売上原価率は1998〜1999年の2年で2.6ポイント上昇し逆に営業利益は2.7ポイント減少した。つまり合理化の範囲を越えた単価下落になっているということである。
印刷価格は、1998年、1999年での落ち込みがそれぞれ3.5%、7.2%と下落幅が広がってきた。また、特殊白黒フィルムの単価下落も1994〜1997年の1.3%が、1997〜1999年では24.8%という大幅な下落になった。印刷産業は完全にデフレスパイラルに落ち込んでしまった。
供給過剰解消のシナリオ
以上のような状況にありながら、需要を上回る生産能力増強は続いている。1994〜1998年の4年間で、4色以上の枚葉印刷機の設備台数は18%増加、オフ輪設備台数は11%増加した。さらに、1998〜1999年1年でオフ輪は72台増加(対前年:5.2%増)した。これは、バブル期(1989〜1990年)の104台(10.1%増)に次ぐ台数増加である。
機械台数とインキ出荷量との対比から見ると、必ずしも設備能力の増加が仕事量の増加を上回っているようには見えないが、多色機の増加と新しい機械の生産性の高さを考えると、供給力過剰は強まりこそすれ弱まっているとは思えない。現在の価格下落は複数の要因が影響しているが,突き詰めれば供給力過剰に行き着く。
今後景気が回復したとしても、それは1%いくかいかないかのレベルであり、とても供給力過剰をバランスさせるようなものではない。つまり,需要サイドからのバランス調整は期待薄である。米国の印刷工業組合(PIA)は、技術の進歩と供給力過剰によって、2006年までに印刷工場数は27.5%、枚葉印刷機の台数は42.2%、オフ輪台数は12.3%減少すると予測した。機械設備の生産能力が需要の伸びを大きく上回って向上するからで、供給力過剰は供給サイドの側から調整されなければならないというシナリオである。日本の印刷産業でも同じシナリオを描かざるを得ない。
印刷産業の融業化と国際化
非印刷産業が自社の事業活動あるいは子会社・関連会社の事業として行なう印刷事業の規模は、印刷産業出荷額の10%強である。1996年までこの規模は拡大傾向で推移してきたが1997年から反転した。理由としては、本業の業績低迷、デジタルシステム導入によるコスト削減効果、あるいは事業自体の収益性の問題などが考えられる。企業による差は大きいだろうが、非印刷業の印刷の内製化、収益事業としての展開も岐路に差しかかっているのかもしれない。
日本の印刷産業(資本金3000万円以上,従業員数50名以上の企業)の海外販売額は全売上の1.8%で、その比率は1999年も増加した。一方、印刷物の輸入は前年比18.6%減となった。印刷品目別にみると、1988年以来急速に拡大してきた商業印刷物の輸入が大幅に減少した。これは、商業印刷物最大の輸入国であるアメリカからの輸入減によるものである。一方、包装資材印刷物は、その主要輸入国である東南アジア諸国からの輸入は増加している。これらの状況から見て、1998〜1999年の印刷物輸入減少は、安いコストを求めて東南アジアに移った生産の流れが変わったのではなく、日本の景気不振にともなう需要量減少が原因と推察される。
印刷産業の資源環境問題対応の現状
この数年、資源環境問題に関する具体的な動きが、社会全体として活発になってきた。 環境問題への対応は先送りできないとの認識が社会全体としてのコンセンサスになってきたこと、世界的な規模での対応の枠組みができてそれに沿った動きが始まったこと、さらに、環境対応に業績回復の切り口を見出していこうという企業サイドの動きなど、多面的な要因が絡み合って動き始めたからだ。
その影響は、大豆油インキの使用が非常な勢いで伸びたりISO14000の認証取得を目指す企業も増加するなど、印刷業界でもいろいろな面でみられるようになった。ただし、大豆油インキや再生紙使用のようなことで業界の環境対応が出来たことにはならない。
容器包装リサイクル法の完全施行が印刷業界に及ぼす影響は、家庭ゴミの有料化が広がれば、もっと広範囲により大きな影響を及ぼしつつある。印刷業界の資源環境問題対応は、これからが本番である。
誤解の多い新しい動きへの理解
オンデマンド印刷、ECなど、印刷産業にも直接からむ新しい動きが次々と出てくるが、これらに対して一面的な捉え方、あるいは極論的な見方が多い。
たとえば、印刷の世界における電子商取引も、インターネットによる公開入札や得意先との受発注の場面で始まったが、印刷業界におけるECの理解は、電子決済ができなければ使い物にならないといった否定と、ECが何か打ち出の小槌でもあるような見方の両極にあるように思われる。
EC、e-Businessとは,コンピュータとネットワークをうまく使って基幹業務をよりストレスの少ないやり方に改革することがまずあって、その上に協力企業との新しい関係作りや市場に対する新しいサービスを開発していくことである。
電子決済が出来ないからインターネットは使えないというのは木を見て森を見ない話である。また、 新しいビジネスの開発の前に、大量生産/大量消費型社会において大いに機能した組織、仕組みを,情報技術を使って変更するという道のりがある。
先に述べた、文具を主力商品とするB to B通販が伸びている理由は,超小口のオンデマンドでの注文に対応したからだ。そして、それは内部における情報化と宅配という物流システムをうまく組み合わせて、中間工程を省いたことで可能になったものである。
ECの普及によって、BFや販売促進印刷物の需要に影響が出る分野もあるだろう。しかし、個々の企業単位でみれば、ネットワークを使うことによって,印刷・製本後に得意先に納品して,さらにどこかに送られて使われるプロセスまでの効率化ができるし、ビジネス化の可能性もある。このようなスタンスで知恵を絞っていけば、ECをプラスにすることができるだろう。
新しい価値創造に向けて
いま,印刷業界は,このままでは全体が縮小して行かざるを得ないところまで追いつめられている。長引く不振の中で、コストダウン努力を続けてきたが対売上営業利益率は5.7%から3.4%にまで下がった。いずれにしてもリストラは早晩行き詰まる。
経済が好調といわれる米国の印刷業界を見ても,印刷産業のGDP弾性値は0.85である。紙の消費量は伸びても印刷産業の付加価値は下がっている。今後,日本の景気が回復したとしても,それは1%に届くかどうかという情けないレベルである。そして,数年後には人口が減少に転じる。これからも印刷業として伸びていこうとするならば,やらなければならないことはただひとつ,新しい価値の発見,開発である。
幸い、一時萎んだかに見えた印刷物製造の周辺に広がる新しい事業に挑戦していこうという機運は復活した。ただし、いままで、マルチメディア、オンデマンド印刷、電子文書処理などの事業で実りを上げた企業はわずかであったという過去から学ぶべきことがある。それは、これらのキーワードの意味するところを誤解したまま取組んだり、長らく安住してきた印刷業というビジネスモデルにこれらの事業を無理やり押し込もうとすることである。
印刷産業は、顧客と密接に接触する機会を持っている。そして、その市場は非常に幅広い。つまり、新しい事業領域を拡大する外的環境は充分に備わっている。必要なことは、ハイテクが打出の小槌でもあるかのような幻想を抱かずに、印刷業界が行おうとしていることを客観的な目で見直し,地に足のついた着実なビジョンを各社が築くことである