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学習支援メディア1999年8月25日
コンピュータによる学習支援システムについて,この分野で活躍されている東京理科大学の伊藤教授に話をうかがった.通信理論分野の研究に従事してきた伊藤教授は,1980年ごろから人が関わる通信について関心を持ち,現在,学習というコミュニケーションをコンピュータで支援する研究を進めている. コンピュータによる学習支援の研究は,1970年代頃から始められている.1980年代に入り,人工知能を教育に利用する研究が盛んに行われた.伊藤教授もこの手法を利用した学習支援の研究を進めてきた.コンピュータが先生の代わりをするのではなく,学習者に適した情報・知識を,電子的なメディアで与え,学習者自身は必要な知識を検索して問題を解くという方向を目指してきた. 構成主義とは1980年代に入ると,教育は知識そのものを伝えることには限界があり,学習者が自分で問題を解き,行き詰まったときにアドバイスを受けないと,知識が身につかない,という考え方が主流となった.これは,学習者が自分で知識を作り上げて,構成していくということで『構成主義』といわれている.ただし,学習者は何も無いところに知識を作り上げることはできないので,情報提供者側がテキストを提供したり,先生が存在する. ピアジェは,人間の知恵は先天的なものではなく,経験を通して後天的に構成されるいう説を唱えており,このあたりに構成主義のもとがあるだろう,と伊藤教授は語る. 人間の知恵は次の世代に伝えられる.集団の知恵として伝えられたものは,集団で同意したものとして継承されていくことが望ましい.集団で学習することにより,他者への説明のために自分の考えを整理したり,多様な視点が提供されることが期待される. 現代徒弟制度構成主義の流れと並び,スタンフォード大学などでは徒弟制度を見直す流れがあるという.徒弟制度では,弟子が親方のところに行き実地で学ぶ.弟子は実際の問題とぶつかりながら知恵を身につけていく.しかし,徒弟制が普及して教育が効率的なものになり,社会から隔離された教育が当たり前となった.カリキュラムを決めてスケジュールどおりに学習を進めることは効果的な教育である.古い徒弟制と違い,広い範囲のことを学ばせるシステムを提供できる.その一方で,学習することに対する必然性が見えなくなり,社会との接触が希薄になる. 現在の社会においても,学校を卒業した後は社会の中で自分の役割をみつけ,その役割を果たしていく.しかし,日本の場合は現在の学校制度を外国からそのまま導入したこともあり,非常に画一的な教育が行われ,評価基準がひとつになってしまった. 教育とは,自分の役割の発見の手伝いをすることである.伊藤教授は「学校教育を考え直してみる必要がある.自分の役割を早めに意識させて,自己教育する環境が必要ではないか.自分でしか自分を教育することはできない」と語る. 学習者自身が自分の果たせる役割がわかるような手段として,伊藤教授はメディアの利用が効果的だと考えている. 企業内の仕事にしても,それを支える中小企業の職場にしても,役割は多様化している.昔は,親の職業を継ぐという簡単な構造であったが,今はそうとは限らない.学校教育の場から社会が見えにくくなっているので,学校にいろいろな職業のためのコースを設置することもひとつの方策である.いずれにしても,学習者が社会における役割を見つけられるような手段を提供していくことが望ましい. 例えば,教室でビデオを流すだけではなくて,ビデオを参考にして自分たちで演じたり(シミュレーション),可能ならば実際の仕事の現場に訪れてレポートをするという方法もある. 教育は一方的に伝えるだけではできない.自分たちでアクションを実行できる環境が必要となる. 個人学習とグループ学習の支援システム最近の人工知能などを利用したコンピュータによる学習支援の動向は,コンピュータが学習者に教えるという考え方ではなくなりつつあるという.コンピュータの第1の役割として,情報資源の提供をする際の検索支援が期待されている.メディアで表現された情報を解いていき,学習者の必要な時に,検索機能がついたコンピュータが助ける. 第2はシミュレーション系である.学習者が画面上で操作して,自分で疑問を解明することができる.例えば,IC回路の設計などをシミュレーションして,問題にぶつかったらアドバイスをもらう.これは個人学習向けのシステムである.コンピュータで個人の学習を支援する場合は,検索やシミュレーションや問題解決など,画面上に一種の作業場を与える. グループ学習の場合は,いつも複数で学ぶだけでなく,個人で考える時間も必要だと伊藤教授は考える.個人作業場で生まれたアイデアなどを共同作業場に提出してみんなで議論をする.共同作業場は紙でもよいが,考えを訂正したり変更する場合はきれいにまとまらない.コンピュータを使うと問題世界の表現が広がる. また,グループ学習における議論支援も注目されている.共同作業場ではディスカッションも行われるので,議論中の意見や反論などのポイントを指摘し,記録していく. グループ学習では,共同の作業場と個人の作業場の両方が必要となる.情報をやりとりするために,学習者それぞれがパソコンで個人作業ができるようにして,ネットワークに接続して共同作業もできるようにする.共同作業の場合には,どこかに中心となるコンピュータを設置して意見を集める.各作業者の画面には個人作業のウインドウと共同作業のウインドウを表示する.個人作業は自分の作業場で行い,共同作業を行う場合は共通の画面で操作する.共同作業の場はある程度制御を行い,誰かに権限を与えて議論のコントロールを行う.また,作業者全員に見せるものは一斉に配信する. 構成主義の流れにおけるコンピュータによる学習支援は,学習者グループの使う道具として開発される方向に向かいつつある. 現在,最も盛んな研究は,ハイパーメディアを利用した検索系の支援だという.ただし,提供側は全てのコンテンツを最初から提供しない.生徒たちがコンテンツを作りあげていく点に教育的意味があると考えられているためである.しかし,ある程度の素材提供はあるだろう.例えば,リンクが構成されていたとしても,固定的なものではなく,学習者が創造的にリンクをはることができる. インターネットを利用する例もあるが,現状では学校の中でとじられた仕組みが多いという.コンピュータ導入にともなう教員の養成や再教育も行われている. コンピュータでノートをとるアメリカでは,コンピュータ利用の歴史が長い.1980年には,サンフランシスコの近辺で,すでにコンピュータによる学習支援システムが利用されていた.特にアメリカでは読み書きの教育に力を入れていた.多民族の国家のため,言葉の教育は特に重要であった.カルフォルニア大学バークレー校では,教育ソフトを先生たちと開発する施設があり,公的な教育ソフトを開発している.ただし,学校では読み書き用の学習ソフトとして,市販ソフトも多く使われているという.アメリカでは,生徒たちが自分達で議論をする過程で学習を進めていくための支援ソフト『CSILE(発想的グループ学習環境)』が開発されている.授業に比較的自由度がある小学校や大学で導入されている.CSILEで議論ノートを作り,議論を通じて改良していくプロセスを支援する.議論する情報は次々に記録していき,リンクをはることもできる.自分達向けのノートを自分達自身で作成してく点が重要である. 地理の検索システム伊藤教授は現在,検索系の日本地理のシステムについて研究を進めている.情報を調べて原因と結果を集めていく.台風がくるから雨が降るという自然的な原因と結果や,大きな港があるから産業が発達したといった自然と人間社会との因果関係など,ノートをつけるかわりに手がかりを記録していく.学習者は,異なる地域でも同じような現象が起きているかどうか検索することができるし,現象は似ていても違う性質を持つといったことなども知ることもできる.探す方法はキーワードに相当するリストから選んで検索する.キーワードを追加することもできる.単にキーワードを追加していくだけでは,本当は意味が近いものなのに,関連づけされない場合もある.この点は,言語処理の機能を取り入れることなどで対処していく予定だという.また,キーワードは構造を持つため,Aが原因でBが結果だということを記述できるようにもなっている. 問題解決系システム伊藤教授が進めるもうひとつの研究は問題解決系のシステムである.学習者は問題の記述もできる.コンピュータの中に入っているキーワードを組み合わせて記述させるので,その範囲しか記述はできない.コンピュータが問題を提示して,学習者が解く中で,困った時に相談を持ちかけることができる.コンピュータは解くためのガイドをする.問題は異なっても解き方が似ているものをまとめて関連性を教えるというように,基本的にはガイドの立場から教える. シミュレーション系システムシミュレーション系のシステムは,今後取り組む予定だという.例えば,シミュレーションシステムで幾何学の問題における図の合同を証明する場合の支援をする.幾何学が証明する定理では,ある条件を満たせばどのような図形でもあてはまるという普遍的な性質を持つ.例えば,2つの三角形の対応する2辺狭角が等しければ,三角形は合同である.対応する辺の長さや角度が同じなら等しく,具体的な長さには依存しない.この場合,図形を条件に満たすように動かして,定理で述べている結論が確かに成立しているかどうかを確認する.動かしている途中に,結論だけでなく,途中で説明する言葉についても発見することができる.,シミュレーションとは少し異なるが,問題世界の表現を操作することになる. 学習者のグループがノートを作り,それを自分達だけでなく,他のグループに公開したり,同じ学年の次の世代に引き継がせるということもよいと考えられている.前の世代が考えていたことを知ることは刺激になる.大学では前の世代のレポートが引き継がれて,コピーされてそのまま提出されてしまうこともあるが.しかし,基本的には同じような学年の同じような生徒が作ったものをみた時,必ず違う考え方や批判は生まれてくるはずである. 生涯学習について同じ会社に勤めていても仕事内容が変わることもあるし,これから高齢化社会が進む中で,老人も楽しめる生涯教育というものも重要となってくるだろう.今はWeb上で手軽に出版することもできる.自分で勉強したり,グループで勉強したことをWebで公開することも可能である生涯学習という場合,個人の能力や楽しみのために行われているのは確かである.しかし,伊藤教授は「実際には,個人の範囲では楽しめないし,能力を獲得したから生きがいになるわけではない.共有したり,評価してくれるグループがあるからこそ楽しい」と語る.電子メディアをこの方面に利用できるし,特にネットワークは大きな可能性を持つだろう. ただし,電子メディアで注意すべき点として「誹謗・中傷」をあげている.ネットワークでは,議論ではなく喧嘩になることがよくある.従来の手紙などではそのようなことは起こらなかった.親しい間柄なら問題はないが,少し距離のある人との間にトラブルが起きやすい. そこで,ネットワークで会話をする場合,ディスプレイに参加している人の顔写真を表示しておくだけでもコミュニケーションに効果があるという.音声でもよい.立体音にして,実際に空間に話す人が配置されているように聞こえるようにする. このような工夫により,つまらない中傷はなくなるのではないか,と伊藤教授はいう. 情報洪水の中で情報の洪水が起きているので,必要な情報を適切に探す手段を工夫しなければいけない.このようなとき,SIG(Special Interest Group)つまりニュースグループのような共通の興味を持ったグループが,一種のフィルターを介して,自分達の必要な情報を集めて提供する環境が非常に役に立つと伊藤教授は語る.そのグループから,信頼性の高い情報を入手していく. 商業ベースの検索エンジンは,どのような内容のものでも検索にひっかかってしまう.しかし,分野ごとに問題意識をもったSIGがあれば,良質な情報(リソース)を提供し,受け取ることができる. 世界中に散らばっている情報ソースを信頼性に応じてレイティングしていくだけでも今後はとても貴重な情報となっていくだろう. 誰でもメディアで表現することはできる.ただし,単に学習者に道具を与えるだけでは,動機が生まれない.何かの役割を果たすというシナリオやテーマを設定し,その中でコンピュータが個人やグループの学習者を支援していく. 人は,自己実現を目指して,仕事や趣味などいろいろな場面で学ぶことを続けている.コンピュータにより支援は,その分野の幅や自己の可能性を広げることにも大きく役立つだろう.(文責編集) ■伊藤教授のプロフィール 1968年東京大学大学院工学系研究科博士課程電気工学専攻修了 1989年東京理科大学基礎工学部電子応用工学科教授となり,現在にいたる.信号処理,情報理論,無線航行教授,航空管制通信,教育工学等の研究に従事.工学博士. 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