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工業化社会から情報化社会へ(3) 99/08/24 ●印刷界と工業化−物づくりに成功 @技術革新の波 日本の中小印刷業界が本格的に工業化の道に動き出したのはいつの頃だったろうか? 私が第一次近代化計画策定のため,全国調査に動き出したのは昭和38年(1963年)だった,当時の印刷機自動化率は手差機に半自動の給紙器をつけたものを含めても,活版機で12%,平版機で30%だった。ハイデルベルグやネビオロという本格的な自動機は10%以下で,日本の印刷機の大半は手差機であった。そして文字組版の主流は文選,植字作業で,ともに手作業であった。 その後,36年が経過した。その間,5回の近代化計画が作成され,構造改善事業を伴いながら印刷界は大変身を遂げた。技術革新(イノベーション)の波が相次いで打ちよせ,印刷界はその波にもまれながらも,通産省の助成もあって何とか耐えて,合理化,近代化の道を一直線に進んできた。 印刷部門では,自動化,平版化,特殊グラビア,スクリーン印刷,ラベル印刷の合理化,そしてオフ輪の登場,高速化,大型化,多色化と急ピッチの変化だった。文字組版は活字組版から写植へ,電算写植,電子組版……と進み,カラー製版は描版からマスキングへ,スキャナ分解,CEPS,そして電子編集……と進んだ。刷版も卵白版から平凹版,PS版へと進んだ。 その一つひとつの変化と技術導入の中で,印刷界の生産スピードも,品質も,コストも飛躍的に向上していった。正に物的生産性が急上昇したのだ。日本の池田首相が「所得倍増計画」を打ち出したのは昭和35年(1960年)で,それ以前は日本経済は戦後処理の時代だった。政府は重化学工業傾斜生産を行い,何とか工業化の助走に弾みをつけたいと思っていた。そして昭和35年頃になって,やっと国民全体の経済計画を立てる余裕ができてきた。その頃から本格的な工業化がはじまったと言えるだろう。日本の印刷界も遅ればせながら工業化の波にのり大発展を遂げることができた。この間,多くの産業も発展したのだが,印刷産業も見事に成功したと自負して良いだろう。 A印刷界のサクセスストーリー 印刷が今日のように発展したのには,もちろんいくつかの理由がある。一つには技術革新が新しい需要を創造したというサプライ・プッシュの面もあるだろう。反面,需要変化が次々と生まれて,それを追いかけて技術が成長したという,デマンドプルのサクセスストーリーもあるだろう。 大日本,凸版を中心とする大手の印刷界では,顧客の要望に応ずる形で,電子部品や建材,ICカードなどの生産を手がけ,今日ではそうした特殊分野の売り上げが全体の40%前後まで成長してきた。大手にとっては大切な需要分野だが,印刷界全体の出荷額からみたら,まだ小さな分野だからここでは特印部門として一応除外をし,紙を主材料とする印刷分野のみについて語ることにしよう。 印刷界では確かに技術革新が猛烈に進行し,業界のサクセスストーリーに火をつけたことは間違いない。しかし,そのイノベーションの火も,マーケット側がフレッシュ・エアーを送り続けなかったら消えてしまっていただろう。 まず出版界の動きをみてみよう。戦後,経済界が落ち着いてくると同時に教科書や学参関係の印刷物が増え,ついで婦人用の月刊誌がはじまった。その後,出版社発行の週刊誌ブームがはじまり,さらに文学全集や百科事典類の大型出版企画も目白押しで出版された。それらの企画が一服する頃,今度は逆にチーパーエディション(廉価版)をねらった文庫ブームが到来した。一方,大衆の収入増が進むと同時に,就職情報や住宅情報という情報誌が大量に出廻ることになった。 その間に,新書版や実用本,マンガ,ゲーム本なども時々のブームを作ったのだが,そうした出版企画は年代別にみるとあまりオーバーラップすることなく企画されたので,出版界のブームを長続きさせることができた。そして,それぞれの需要に応ずるような形で,印刷界の設備投資や技術開発が行われた。活版から平版への移行,自動化,大型化,多色化,長巻化など印刷設備もどんどん変化した。文字組版,カラー画像処理などすべて印刷物のイメージ処理,ページ編集はコンピュータ処理に移行した。 出版需要の大山が一段落する頃から物流革命がはじまった。小規模商店から大型店舗,スーパー,チェーン店,フランチャイズ店への展開である。この過程で新聞折込チラシ需要が激増し,それに対応する形で印刷界ではBタテ半裁オフ輪の導入が一斉にはじまった。その一方,物流革命は通信販売のマーケットをも育てることになった。工業化で多忙になったサラリーマン,サラリーウーマンのために,大型で,カラーの美しい総合カタログや品目別のスペシャルカタログがどんどんと印刷され,各家庭に送りつけられるようになった。出版界にも劣らないほどの部数を世に送り出している。 20年ほど前からコンピュータがビジネスの世界に入り出した。コンピュータはペーパーレスのビジネス環境を作るといわれたが,実際は逆で,ビジネスフォーム(BF)の仕事がどんどん増えていった。コンピュータが普及し,ネットワークに接続され,大容量のディスクが開発されてからは,BFの増加テンポは落ち着いてきたが,従来は大きなマーケットを作り,ビジネス革命を起こした。 印刷界はこうした右肩上がりの需要変化に対応しながら,一方ではイノベーションも同時進行していったので,印刷業者はどちらかというと「デマンドプル」の経営環境の中で,設備や技術のことばかりを考え,仲間の会社に遅れないように注意していれば,企業は自然に成長できた時代だった。印刷界の設備水準は次第に大きな投下資本を必要とするようになり,印刷産業の工業化は一直線に進行した。そして今日のようなハイテクの印刷産業に成長した。この40年間は正に印刷産業のサクセスストーリーの年代だった。 コメンタリーのトップページへ
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