コメンタリー by 和久井孝太郎


自分のメディアリテラシーを問うべき時

99/05/24

 リテラシー(literacy)とは、新聞を読んだり手紙を書いたりする読み書き能力のことで,ここでは大雑把に「メディアとのつき合い方とその活用能力」としておこう。

 今なぜメディアリテラシーなのか?

 結論を先に言うと、現代が高度情報化、デジタル時代の真っ只中にあり、私たち自身のメディアリテラシー向上がなければ調和ある高度情報化社会が構築できずに、21世紀が不安定な時代になると考えるからである。まず次の二つの文章を比較することから入りたい。

 “わが国の政府は、高度情報化社会の目標として、「人間の知的生産活動の所産である情報・知識の自由な創造、流通、共有化を実現し、生活・文化、産業・経済、自然・環境を全体として調和しうる新たな社会経済システムを構築する」ことを掲げた。この政治的宣伝(プロパガンダ)が、一般的に広がっているといっていい。”

 “高度情報化社会とは、情報に敏感な社会である。情報に敏感なシステムでなければ、高度情報化されたシステムとは呼ばない。高度情報化社会が安定で調和ある社会となるためには、情報の透明度の確保と、構成員(個々の企業も)が自立・自律しそれぞれの志のもとに自己実現を目指すことが重要である。

 例えば、高度情報化された新鋭戦闘機は、高速運動を可能とするために、機体そのものは、本質的に不安定に設計されている。機体自体が安定ならば、情報が発せられても直には応答しない。のんびりゆったり飛行する飛行船は、機体自体が安定なのだ。新鋭戦闘機を操って目的を達成するには、優秀なパイロットが必要である。機体がいかに高性能でもパイロットの能力が伴わなければあやういし、パイロット同士の連係やバックアップ体制との緊密な連帯も必要である。”

 最初の文章の「 」内は、高度情報化社会(デジタル社会とほぼ同義語)の目標に関する政府の公式見解である。二番目の文章は、高度情報化社会のシステム工学的な見方を新鋭戦闘機の比喩(アナロジー)を使って筆者がまとめたものである。

 一番目の文章の主語は政府で、マクロの視点(伝統的なお上の発想)で書かれている。ここからはミクロの立場にある“私(自己)”が、高度情報社会の構築にどのように関われば良いのか?は全然見えてこない。

 問題なのは、メディアや知識人がこのプロパガンダを担いで、21世紀の予測めいた美味しい物語やサムシングニューの話題を洪水のごとく流し込み、“私(自己)”が本当に何をしなければならないのか?分かり難くしている点にある。彼らが言うデジタル革命の本質がミクロ革命であることを、多くのメディアも、知識人たちも認識できていない。

 ミクロ革命とは、“個性的に困難を克服しつつ自らの生きがい実現(自己実現)に向けて努力する、自立・自律した人々(ミクロ)のデジタルメディアで連帯した社会の質的転換の動き”である。意識する、しないに関わらず、私たちも無縁の存在であり得ない。

 これが一般論として、今、“私(自己)”がメディアリテラシー向上を必要としている最大の理由である。企業も人であり、“私(自己)”のメディアリテラシー向上による能力向上は、企業の重大関心事でなければならない。変化を的確に捕らえることで、ビジネスチャンスが広がる。逆にアバウトな理解は失敗を重ねることになる。

 “自己実現”の視点から『メディアリテラシー』について、筆者自身が定義すると次のようになる。

 メディアリテラシーとは、“より良い自己実現にむけて、多様なメディアを自己の責任で選択し、物事の本質を見抜く能力を自ら可能な限り高めるために、メディアが伝える情報を構成されたものとして批判的に受け入れ、あわせて、最も良いと考えるメディアの組み合わせによって自らの考えを構成的に表現し、他者とのより望ましいコミュニケーション関係を創りだす能力”のことである。

 我々が認識している“世界や現実”とは、かなりの部分がメディアが伝える情報によって構成されたものである。そのような知識蓄積の上で“私(自己)”が、他者とも調和する“より良い自己実現”を志向するためには、生涯を通しメディアリテラシー向上を実践することが重要である。マクロ体系の専門特科の学問として、メディアリテラシー研究が進んでいても、ミクロ自らその向上を実践しなければ空虚なことである。

【参考文献】
(1)Ontario Ministry of Education:Media Literacy;Resource Guide,Queen's Print-er for Ontario(1989)[邦訳]FCT(市民のテレビの会):メディア・リテラシー,リベルタ出版(1992.11)


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