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印刷白書 ['98→'99] =自立と自律=1999年5月10日
異なる様相を見せ始めた印刷産業の景況1998年の印刷産業の景況は、過去最悪の状況で推移した。上場印刷企業10社の上期決算では10社全ての売上が前年割れとなり、全品目でマイナス成長になった。そして、印刷産業の出荷額は前年比6.1%減と推計された。最大の問題点は、過去に一度も経験したことがなかった「仕事量自体の減少」が見られたことで、これが紙媒体需要の大きな転換点の兆候である可能性は否定できない。 印刷品目別動向出版物販売金額は2年連続のマイナス成長になり、出版界が抱える構造的な問題が異常な返品率に現れてきた。広告市場も前年比3.8%減となり、折込ちらし、DMなどの広告宣伝印刷物もマイナス成長になった。近年、需要として拡大してきた通販用宣伝印刷物は、ダイレクトマーケティングへの販売手段の変化とともに変わる兆候が見られ、さらに取り扱い商品の変化によってインターネットの利用が拡大すると予測された。業務用印刷物市場は年平均10%程度の勢いで減少し続けている。特殊印刷、包装資材分野も全面的マイナスになった。 期待薄の電子出版名簿や資料や統計などでは電子媒体で流通するのが当たり前になった分野も多くあるが、それは伝統的な「出版界」が電子出版として目指したものではない。年間、何百万台も販売されるパソコンにはCD-ROMが備わっているのに、パソコン用CD-ROMマガジンひとつ出ていない。長期的な流れは,パソコンのメモリ容量の増大とネットワークの普及がCD-ROMの位置を限定されたものにしつつある。パッケージ系電子媒体については,いわゆる電子出版に係わるビジネスとして想定された印刷業の仕事は期待外れになりつつある。 求められるぎりぎりの経営需要の成熟化と供給過剰の中で、仕事量が減少し始めた印刷業界では、売り上が増えれば利益も増えるという図式は明らかに崩れてきた。そして、8割り弱の企業は売上重視の拡大指向から利益重視のバランス指向に向かいつつある。印刷企業は、バブル崩壊以降、外注加工費の削減、DTPの導入によるプリプレスのコストダウンなどの利益確保の方策をとってきた。しかし、その効果も薄れつつあり、人件費削減に手を付けざるをえなり、1998年は、初めて一人当たり人件費が前年を下回った。そして、好業績企業と業績低迷企業の分かれ目は、営業や管理部門などのホワイトカラーの生産性と、無駄をぎりぎりまで削ぎ落すことができる管理力あるいは社員のモラルのレベルなどになってきた。 ビジョンを見失い、戸惑う印刷産業1998年の業界は過去最悪の不況に直面したが、それ以上に問題なのは業界全体がビジョンを失いつつあることである。DTPでのビジネスの先行き不安、遅れるCTPの導入、萎んだマルチメディアの夢、そして盛り下がるオンデマンド印刷の現実などである。メディアからコンテンツへ印刷企業は非常に大きなデジタルの変革を迫られている。それは、 DTP を越えて、インターネット,エンタープライズ・アセット・マネジメントにまで広がる新しい世界への対応である。情報はコンピュータを介して生成され,コンピュータの中に蓄えられ,パソコン通信やインターネットのようにコンピュータで情報を伝え,また再利用される。情報発信をする側は,複数のメディアを想定してコンテンツを準備する。つまりデジタルコンテンツは媒体を越えるので、メディアごとにシステムを考えるのではなくコンテンツ側からシステムを考えなければならなくなってきた。これからは,メディアに合わせた情報加工という視点では,メディアのメインストリームから取り残されて行くだろう。 印刷ビジネスは発展する印刷市場全体は、2010年まで年率0.7%で伸び、2010年には約11兆円になると予測された。その中で、従来の印刷物製作の市場は年率0.8%で減少する。しかし、デジタルデータに関わる事業や印刷から八方に広がる派生的事業は今後とも拡大するとと見通せる。ただし、印刷会社の経験の積み重ねの中にはほとんどなかった機能を、顧客のパートナーとして果たせるように磨きをかけなければ、過去のソフト・サービス化と同様に掛け声に終わってしまうだろう。 また、通信インフラの遅れを取り戻し、ネットワークの設計、運用能力を格段に高めてネットワークを介したビジネスに自らを変えることも不可欠である。 キーワード:自立と自律印刷産業は、統一的な業界ビジョン、ウエットな顧客との関係、メーカー依存での技術対応、安くてしかも忠誠心の高い豊富な労働力といった従来の印刷ビジネスを支えていた戦略、市場、技術、そして人という経営の基本要素に関わるパラダイムシフトに直面している。印刷産業が次の一歩を踏み出せないのは、この転換に気付かない、乗り越えるべき壁のあまりの高さに、越えることの困難さを予感して回り道、抜け道を探している、あるいはいつかまた元に戻ることを願いつつ正面切った取り組みを先延ばししているからである。しかし、パラダイムシフトとは不可逆な変化を言うのであって、変化は確実に進むしそれを回避して向こう側に辿り着ける抜け道もないのである。そして、このパラダイムシフトに乗れるか否かが、今の生き残り競争の次に控えている勝ち抜き競争で勝ち組みに入るかどうかの分かれ目になる。 幸いなことに、印刷ビジネスは拡大しうると見通すことができる。それは、印刷が、情報のフロー環境に関わりを持っているからである。ただし、ネットワークを介したビジネスに自らを変えること、知識の管理ができる企業にしていくこと、改めて事業に合ったビジネスモデルを考え構築していくことなど、企業の体質転換がなされなければその恩恵は得られない。そして、これを実現する具体的な道筋は、どこにも用意されてはいないし、描いた道筋に沿って進むルールも自らが作らなければならない。企業体質、文化を変える話だからである。勝ち抜きの道は自立と自律の経営以外にはないのである。 (最新版のご案内はこちら) (C)Japan Association of Graphic Arts Technology |HOME|JAGATについて| |