急がれるプリンティング・ディレクターの育成
――ハイクォリティ印刷の必須条件――
印刷業の基盤がプロの技術力にあることはデジタル化によっても変わらない。むしろDTP化が普及し,顧客と印刷業、さらには部門間の壁が取り払われた今こそ、技術力はアナログ時代より重要な意味を持つ。以下は,デジタル時代のプリンティングディレクターに求められる要件,社内での位置づけについて,この分野の専門家・中野慶一氏(プリンティング・ディレクター),青柳英明氏[(株)DNPメディアクリエイト],梶広幸氏[凸版印刷(株)]が座談会で語られた内容を要約したものである(くわしくは「プリンターズサークル」1998年1月号参照)。
●ボーダレス時代のプリンティング・ディレクター
アナログ時代のプリンティング・ディレクターは,デザイナーやADと協力し,よい印刷物を作るために存在したが,DTP時代には,技術や人の生かし方や生産管理も踏まえたうえで,製品のクォリティ,スケジュールなどを含めた「全体を串刺しにするような」ディレクションが要求される。
以前には,製版の精通者が,営業に代わって得意先の相談相手となり,プリンティングディレクター的役割を務めることがあった。しかしDTPの世界では,情報系のディレクションも求められ,DTPディレクターが必要となったり,メディア・ディレクターなど,幅広いディレクション機能が印刷業に求められている。
●印刷以外の媒体づくりも視野に
現在はデジタル化の過渡期であり,そのために生じる課題や分散処理によって起こる混乱を収拾するためにも,プリンティング・ディレクターの存在が欠かせない。その半面,カラーマッチング技術が発達し,標準化された時代になれば,現在必要とされているDTPサポート的な機能の一部は不要となると考えられる。
しかしこの場合も,クリエイティブやクオリティの確保や,メディア・素材の選択などに関する判断,あるいはディレクションに対する役割は,プリンティング・ディレクターに残される。プリンティング・ディレクションがうまくいくかどうかで会社の守備範囲が変わってくるだろう。
現在のDTPシステムでは,顧客はなかなか満足しない。プリンティング・ディレクターには,常に標準が守られているか,数値化がされているかなどをチェックするグループと,感性の部分を補うグループが必要になる。このことが企業の差別化や他メディアとの競争で重要な意味を持つ。
●コラボレーションのファクターとしての役割も
DTPになり,デザイン・製版からコンピュータまで,広範な知識や能力が必要となった。しかし専門分野がそれぞれ違うため,コラボレーション(協力)がないとうまくいかない。これからは,デザイン会社とプリプレス会社が別々にあっても,同じ社内にいるような,いわゆるバーチャルな会社の時代になる。クオリティを高める上でもコラボーレーションは重要で,この役割も,プリンティング・ディレクターが担うことになるだろう。
●権限を持たせて組織としての機能を
現状でも,企画・設計の見積もり項目のなかにディレクション料金が多少含まれていると思われる。さらに今後は,単独の項目としてディレクション料金を確立すべきである。
そのためには,全体の企画・品質を左右するのがデザインだけではなくディレクションにもあるという認識に立ち,営業戦略上の功績を認めさせ,権限を高めることが必要だ。
プリンティングディレクターは,大手より規模の小さい会社の方が進めやすいと考えられる。ディレクターの育成を進めるとともに「うちはこういう考えで,こういう人材を持って対応している」と,顧客に対して積極的に伝えていく必要がある。
●コンサルティングのニーズに対応できる能力育成を
印刷物の制作だけでなく,さまざまなメディア展開を図る場合,コンサルティングやそれを行える人材が必要となる。大手では専門分野に特化した人がいるが,中小の場合は,その分野に興味を持つ人が社内にいるかいないかで左右されがち。自前で人材を育成するか,社外から新しい人材を採用することが大切だ。
突破口を開くには,オタク的な人材であるとか,100点満点で200点を取るような人材が不可欠だが,組織としては常に70点取れるような体制が望ましい。突出した人が先頭に1人いて,後ろを向いたら,あとは普通の人,ということでもいいから,組織的に対応できるような構えが必要である。
少人数の会社では,1人の組織か,ラインの長がディレクターを兼務する形を取らざるを得ないかもしれないが,中規模の会社では,あまり気張らずに組織を作り,権限を与え,あとにつながる人材を養成しながら進めていくことが必要だと思われる。
●プリンティングディレクターになるための自己啓発ポイントと組織的位置づけ
以下は各氏に挙げていただいた自己啓発ポイントと組織的位置づけの要約である。
(中野慶一氏)
1.自己啓発ポイント
プリプレスのプロセス技術を知る。DTP,SEPSの運用技術と制約事項の熟知/印刷適性を学ぶ/本作りの基本を知る/定量化(計数)管理に強くなる/提案力,表現能力を磨く,など。
2.組織的位置づけ
プリンティング・ディレクターの機能を,クライアント・デザイナー,営業部門とプリプレス,製造部門,経営者の中核に位置づける。
(青柳英明氏)
1.自己啓発ポイント
進行管理力/コンピュータ知識/デザイン知識/編集知識/写真知識/進行管理/印刷知識/製版知識/製本加工知識/商品知識。
2.組織的位置づけ
クライアント・デザイナーと営業,製造の中核にプリンティングディレクション機能と実施者としてのプリンティング・ディレクターをおく。プリンティング・ディレクターは従来ディレクト,データベースディレクト,DTPディレクトを運営管理する。
(梶 広幸氏)
1.自己啓発ポイント
共通項目:アナログ制作のパックボーンを持つこと/専門分野を持つこと/コラボレーションを心がけること。
企画デザインから出発する人に:曖昧にしないことを心がける/表現ではなく設計であることを理解する。
技術系から出発する人に:デザイン・アート,クリエイティブなどを理解する/専門用語を極力なくすなど。
2.組織的位置づけ
従来の仕事はベースボール型で一直線に順番通り進んだが,DTPになると,フットボール型に仕事を始める段階でフォーメーションを立てて進める必要がある。
(出典:プリンターズサークル 1998年1月号より)
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