印刷からグラフィック・コミュニケーションへ
クライアントが求める情報発信のパラダイムが,デジタル化により変わり始めている。
エンタープライズ・コンピューティングシステムの中にグラフィック情報までも統合しようという動きが始まった。印刷を含むあらゆるメディアを用いた情報発信を,徹底したコストパフォーマンスの中で実現していこうというものである。
顧客のオリジナルカタログ作りを支援
ある耐久消費材メーカーでは,1992年から製品カタログ制作のデジタル化を始めた。
当初は,カタログ制作を請け負う印刷会社やデザイン会社に,カタログ制作に使用した画像をCEPS形式のデジタルデータで入稿するように求め,それをデータベース化してきた。
現在,そのデジタルデータは,全国30以上の営業拠点が内製化している顧客向けのオリジナルカタログ制作に利用されている。このオリジナルカタログは,顧客がエンドユーザーに向けて使うものである。
少部数であっても,顧客がエンドユーザー向けに発信したいと考えている情報のニーズに応えることによって,他社との差別化を図るためである。
マルチメディア展開から情報システムの統合へ
今後は,顧客自身でオリジナルカタログが作成できるシステムを提供する。全国の顧客(約12万社)のデジタル化率はすでに49%に達しているから,その下地は出来ている。しかし,顧客の側に編集・デザインの専門家はいないので,Windows95をベースとしたシステムを作った。
カタログのレイアウトは定型化されており,ツール,テンプレート,データ素材を用意すれば,ユーザ自身が簡単にカタログというコミュニケーションツールを作れる。画像データについては,同社が印刷物制作と同時に分解/校了にしたものが利用できる。顧客が導入して手に負えなくなっても助け船を出せるようにしてある。
現在,同社のデジタル化は第2フェイズに入っている。第2フェーズにおけるデジタル化の目的は「オープン化,標準の使用」で,デジタルデータの用途を,印刷用だけでなく汎用画像データへの拡大を狙っている。
「必要なものを,必要なときに,必要なところ,または必要な人」(オンデマンド)に,できるだけコストパフォーマンスのいい形で届けることが最終的な狙いである。さらに,その先には,企業戦略データベースの中の勘定系基幹システム,設計・開発システム,宣伝広告部門のビジュアルデータベースの3つを統合していくことが目指されている。
求められるイフォメーション・デザイン
このような顧客サイドの動きに対して,中途半端な姿勢,力ではとても対応できない。
顧客の情報戦略が高度になればなるほど,情報を扱う仕事は増えるだろう。ただし,従来以上に質が問われることになる。ビジュアルデザインにおいて,そのクリエイティブ性はさらに追求される。あるパターンが決まったものを作るのであれば,専門家に出す必要はないからだ。
また,単なるデザインやレイアウトにとどまらず,「お客のお客」の姿を捉えることから始まり,そのターゲットに最適な情報提供のデザインをすることが必要になる。いわゆる,インフォメーション・デザインという機能で,情報を整理して組み立て直し,効果的,効率的なコミュニケーションを創造することである。
つまり,情報を扱うビジネスでは,ビジュアル・デザインからインフォメーション・デザインまで一貫して行う力が求められている。したがって,専門家同士のパートナーシップは当然必要になる。
コストダウンの成果を顧客とシェアする
すべての部分で,価格の要素は大きな競争要因となる。先の企業の場合,コスト低減のために分割発注を徹底し始めた。デザイン・レイアウト,カラー分解,印刷をそれぞれ違うところに発注する。
プリプレス工程では,全商品の情報デジタルデータベース構築による,総合的なコストダウンを目指している。これは先に述べたとおりである。
印刷工程では,スケールメリットを追求し,用紙は同社が支給,印刷料金の丼勘定を排除するために工程別の原価管理を厳しく求めている。ただし,必要なコストはきちんと支払うようにしている。
デジタルデータを取り扱う顧客全てが重たい設備をすることはない。ロットの大きな仕事は外部の専門家がやる方が効率がいいからだ。スケールメリットを生かしたスピードとコストダウンが専門家の証であり,その成果を顧客とシェアするアウトソース先としての対応が期待されている。
ねらいの市場とバランスがポイント
多様なメディアの情報デザインから印刷まで,印刷会社がやらなければならないことはたくさんある。ただし,中小印刷業の現状を直視すれば,その全てを範疇として取り込むことはできない。
また,現時点で,すべての顧客が上記のような価値判断,行動をとっているわけではない。ねらいの市場の中で,自社にとってのうまいバランス位置を見出したところが生き残る。
(JAGAT機関誌 プリンティングインフォメーション 1998年1月号 新春座談会 「印刷からグラフィックコミュニケーションへ」の要旨)
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