安定志向がソフトを寡占化させる
欧米の雑誌社はどこでもQuarkXpressを使っているのではないかと思うほど,Quarkは出版界のスタンダードとして君臨している。Seybold会議で,QuarkがAdobeの株を買うことを望か,と聴衆が問われた時に,誰一人手を上げるものがいなかったことが印象に残っている。その理由は,今でさえDTPソフトの競争状態が少なすぎるのに,これ以上寡占化しては,よい方向に行かないだろうというものであった。
Seyboldの会議では,なぜDTPソフトの向上がないのか,というセッションも開かれ,利用者の意見としてはバージョンが変わらない方がいい面があることも指摘された。急ぎの仕事に追われている環境では,新しいソフトに切り替えるのが困難であるからだ。学習時間がもてないのとスムースに使えない場合のリスクが原因である。
その点ではQuarkは模範的なソフトウエアベンダーであり,10年の間に大きくは3つのバージョンしか出さず,やっと昨年4になった。しかしこのことは同時に,その間のユーザのさまざまな要求には応えなかったことを意味する。その代わりにXTentionというメカニズムで機能要求はかなり満たされた。
つまり技術的な意味では解決は相当用意されたし,Quark自身も少ないバージョンアップの機会を十分生かすように根本的な前進は着実に行ってきた。これはエンジニアリング中心の作り方であり,AdobeのPhotoshopも同様に,よそ見をせずに統合的に良いものを作った。これができたのは,早くから寡占状態にあったからである。
もし販売競争が最大のテーマでマーケティング中心の作り方をすると,人の気をひくことだけを考えていろんな機能をテンコ盛りにしがちである。これはグラフィックアーツのようなニッチな業界には向かない。ニッチな業界向けのソフト開発の思想は,利用者により力を与えることである。利用者が富めば開発者にもリターンがあるような関係作りが理想である。
QuarkやPhotoshopはよい見本でもあるが,しかしQuarkのサポートや販売方針の改善を強く求める声は欧米にも多いのに驚いた。例えばVersion4が出ても,学校用のパッケージは何ヶ月も遅れて出るとか,利用者とのコミュニケーションや営業面がスムースにいっていないのは寡占化の弊害とも受け取られている。
欧米の場合には,安定して使えることを第一にするという業界の保守性がQuarkの寡占化を支えていたと思うが,この点は日本は状況が少し異なる。日本でもQuarkはデファクトスタンダードとは言えるが,どちらかというと写植など制作専門家向きであり,その人たちはQuarkのデフォルト機能以外に革新的にチャレンジしている。
日本では編集に近い人にとって,Quarkは安定指向で選択できるものとはなっておらす,チャレンジが必要である。今後日本でも組版の工夫に苦労せずに使えるようになったら,欧米のような地位になるのかもしれない。
(テキスト&グラフィックス研究会会報99号より)
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