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原価管理の手法は会社によって、様々であるが大別すると標準原価と実際原価に分けられる。どちらの手法が良いか二者択一で語られることも多いが、本来は両立するものである。意味の誤解も多いので改めて整理したい。
通常の計算方法は、まず部門ないし設備単位で、標準時間コストを算出する。
標準時間コスト=年間コスト÷年間総稼働時間
コストと稼働時間は、前年実績ないし、次年度想定(予算)の値を用いる。
※年間総稼働時間
待ち時間や会議、片付けなどの間接時間があるので、労働(勤務)時間=稼働時間とはならない。また、労働時間に占める稼働時間の比率は、部門や設備によって異なる。
受注一品別の実際原価=実際の作業時間×標準時間コスト
※部門別、工程別の積み上げ
こうしてみるとコストにしても稼働時間にしても、ある想定条件に基いたもので、“実際”といっても、リアルな原価ではないことがわかる。
そこで、会社によっては月次や年次で経費を締めたあとに稼働時間実績と時間コストを再計算し、改めて受注一品別の実際原価を再計算している。これを行うと受注一品別の原価の合計が決算書の経費合計と一致する。ただし、手間がかかるので、ここまでやっている印刷会社は稀である。
実際原価を用いた管理の弱点として、作業効率を評価しづらいことがある。作業時間が3時間だったとして、その時間が妥当かどうかの判断が難しい。特にDTP作業では個人差が大きくなりがちである。受注金額は一つの評価指標となるが、競合他社の動向や得意先の都合などでぶれることが多く、作業効率の評価指標としては妥当性を欠くことがある。年間で集計するなど統計処理をして、ばらつきをおさえてからの判断が求められる。
標準原価の算出にも標準時間コストを用いる。そして、作業ごとに標準作業時間を設定する。
標準原価=標準作業時間×標準時間コスト
(作業項目ごとに設定)
標準原価は、製造部門にとっては営業部門に対する社内販売価格であり、営業部門にとっては製造部門からの仕入れ価格となる。“仕切り価格”とも呼ぶ。
原則として、同じ仕様の仕事であれば、作業者、作業時間、受注価格に関わらず常に一定である。そのため販売価格や生産効率の妥当性を評価するぶれない物差しとして機能する。受注一品別の粗利益(販売価格から仕切り価格の合計を引いた残り)を見れば、販売価格の妥当性が評価できるし、製造現場では作業単位で標準原価(標準作業時間)と実際原価(実際作業時間)を比較すれば、作業効率を評価することができる。
また、ある期間(月次、年次)の仕切り価格(実績)の合計を製造部門の売り上げとみなし、その期間の実コストと比較することで、期間の部門損益管理ができる。前述した実際原価(作業時間×時間コスト)は、“みなしのコスト”であるが、ここでの期間コストは文字通り“実際のコスト”となる。
標準原価の難点は、作業ごとに標準作業時間を設定しにくいことである。印刷物は基本的に個別受注生産であり、一品ずつ仕様が異なることが大きな原因である。例えば、DTP組版(A4サイズ)の標準原価を設定しようとすると、作業者のスキルによっても作業時間は変わるし、同じ作業者でも組版の内容によって作業時間が大きく変わるので、“難易度”というような主観的要素の強い要素ごとに設定せざるを得ない。主観的な要素が入ると日々の運用においても「その仕事の難易度はAかBか」という判断が都度必要という煩わしさがある。
しかしながら、標準作業時間は目標作業時間という意味合いもあり、生産以前にその目標に合わせようと意識して、作業をコントロールする動きが生まれることは生産性向上に大きな意義がある。
また、強調したいのは実際原価と標準原価は二者択一するものではなく、お互いを補完しあうものである。理想的には実際原価と標準原価の双方を運用して、部門損益を見るような大局的な判断は標準原価の管理手法を利用し、作業効率の問題点を発見するような局地的な分析が必要な場合は実際原価のデータを利用するような使い分けが望まれる。