1.8 印刷
伝統的印刷は、刷版の種類によって分けられ、凸版、平版、凹版がある。またコンピュータとダイレクトに結びついた電子写真方式の画像形成をする印刷もある。それらの原理、特徴を理解する(凸版、孔版は除外する)。
1.8.1 印刷方式
◆ 印刷には4つの版式があるが、今日の商業印刷と出版印刷では、オフセット平版とグラビア凹版が主流になっている。凸版印刷の一種であるフレキソ印刷は、包装材料の印刷に多く使われる。
◆ 平版は解像性・価格・生産性において、他の版式に比べて優れている点が多く、印刷版式の中で最も多く使われている。
◆ DTPと直結したデジタル印刷では、丁合済みで出力できるものもある。出力前に製本に関するデータも必要になる。
◆ 扱う用紙が長巻の印刷機を輪転方式、カット紙のものを枚葉方式という。
1.8.1.1 平版
◆ 平版は画線部と非画線部とに物理的に凹凸をつける他の版式に比べ、解像度を上げやすく、コストや生産効率性の面でも勝るので、現在の大半の紙の印刷物は平版によって印刷される。
◆ 平版はPS版など薄い金属版の刷版を使用し、インキのつく画線部とインキのつかない非画線部とは表面の状態による違いで、その高低差はわずかである。
◆ 一般にいうオフセット印刷とは平版印刷方式の一方式である。オフセットとは、版上のインキをいったんブランケットに転移し、それを紙に転移する意味である。
1.8.1.2 グラビア
◆ グラビア印刷では、円筒状の版シリンダの表面に彫刻や腐蝕によってくぼみを付け、その中にインキを詰め込んで印刷する。
◆ グラビア印刷は階調の表現力に富み、製版コストが高いが耐刷力が大きく、高速印刷が可能であるため、大ロットの雑誌、通販カタログの主要生産システムに向いている。
◆ 包装フィルムなど非紙媒体への印刷もグラビアが主力になっている。
◆ オフセット用の網点フィルムから製版するグラビア方式も使われている。
1.8.1.3 プリントオンデマンド
◆ 刷版を使用せずに、主に電子写真方式のプリンタのような仕組みの印刷システムがデジタル印刷、プリントオンデマンドである。
◆ 必要な情報を必要な人に必要な量だけムダなく提供することがベストであるが、それを実現する1つがオンデマンドによるデジタル印刷技術の活用である。当初のオンデマンド印刷は紙の選択肢が狭かったり、表裏の見当精度が悪く断裁時に問題が発生したりするなど品質面で劣っていたが、オンデマンド化のメリットとして歓迎された短納期・小ロットへの対応は「プリントオンデマンド(POD)」と呼ばれ、必要なときに必要な枚数(部数)だけ印刷するというものである。日本では商業印刷需要の10〜15%の割合だが、欧米では既に20%程度の市場規模を持っているといわれている。
◆ プリントオンデマンドは、編集から出力データ処理までのフロントエンドによって制御される。
◆ 頻繁に改訂される印刷物や、バリアブルとも呼ばれるページごとに内容を入れ換えて出力する可変データ印刷が可能となる。
◆ 可変データの出力は、事前に各ページにデータ差し換えをして、RIPしておく方法と、RIPの中で可変データを処理しながらプリントする方法がある。
◆ カラー化、高精密化、簡単製本とのインライン化により、小ロットで機動性を求められる仕事の分野で伸びていく。
◆ デジタル印刷機はOne to Oneマーケティングに対応できるため、「個」へのフレキシブルな印刷が可能である。
◆ 顧客の嗜好や履歴、サービス情報などと組み合わせたマーケティングデータによる個々への情報発信が可能となって、はじめて強力なツールとして機能する。このようなデータベースマーケティングと連携した可変印刷できるものがバリアブル対応のデジタル印刷機である。
◆ デジタル印刷機の機能を活用しながらニーズの多様化に対応するには、それを支える周辺も重要となる。個に対応した極少部数を組み上げるソフトや後加工処理(折りや綴じ、表面加工など)が必要である。InDesginのプラグイン機能として動作するイスラエルXMPie社のPersonal Effectや米国KodakのDarwin、日本では富士フイルムシンプルプロダクツのForm Magicや単独アプリケーションのPrintShopMailのような可変情報編集ソフトウェアが拡充されている。製本も極小ロットから可能な機器やソリューションが提案されている。製本時にセンサで丁合いのミスや送りのミス等を接続されたPCで効率的に管理を行うなど、それに適した後加工機が必要となる。
◆ デジタル印刷機には、薄紙や特殊紙など幅広い用紙への対応や、連続運転にも耐える耐久性を向上したものもある。
◆ デジタル印刷機には、新たなトナー等の開発でオフセット印刷の色域よりも広い色再現まで実現している機種も存在する。また、カラーマネジメントにも対応し、用紙ごとのプロファイルの搭載や定期的なキャリブレーションを行うことにより色管理ができる。
◆ 差し替え機能は、PDFをベースに開発されたPPML/VDXへの対応などで印刷データ量の軽減や時間短縮を実現している。
◆ PPMLは、バリアブルプリント対応言語であり、非営利団体PODi(Digital Print Initiative)により標準化と普及推進が行われている。PODi会員企業には、ヒューレットパッカードやKodak、IBM、ゼロックス、キヤノン、リコー、エプソン、アドビシステムズなど多くのメーカーやベンダがあり、各社のプリント機器にはPPMLが搭載されてきている。
◆ PPMLは、プリントアウトするデータを固定部分と可変部分に分離してリッピングを行う。PPMLのメリットは、リッピング後のデータを再利用するため、すべてのデータを毎回処理する従来の方法に比べ、RIPに負荷がかからずに処理時間の短縮・高速化を図ることができる。XMLでの記述を行うため汎用性も高く、関連アプリケーションやドライバの開発が行いやすい環境が提供されている。
1.8.1.3.1 デジタル印刷
◆ 印刷産業の成長が全体的に低迷している中で、世界的にも成長分野とされているのが無版のデジタル印刷(オンデマンド印刷)である。デジタル印刷の適応分野はオフィスドキュメント、マニュアル、チラシなど幅広い。
◆ デジタル印刷は、常に必要最小限の部数だけ印刷することにより、印刷在庫の保管・配送・廃棄によるコストの削減や環境ダメージの回避に有効である。例えば、製品マニュアル類の場合、仕様変更やサポート情報などの情報更新が多く、デジタル印刷であれば最新情報を反映することが容易になる。このように、デジタル印刷は製造コストや納期・品質などプロダクション側のメリットだけを追求するのはなく、発注側の管理や情報発信などのメリットを実現することで利用されている。
◆ デジタル印刷で成功するポイントは品質や価格だけではなく、印刷以外の能力部分が大きい。例えば、従来の印刷会社のように営業マンが原稿や校正の受け渡しを行うスタイルではなく、Webサイトを利用した原稿入稿やオンライン校正・受発注管理などシステムによる中間プロセスの効率化・省力化が求められる。このような顧客と印刷会社のワークフローの簡素化を実現するソリューションは、海外では既に数多く展開され実績を上げている。国内でも多品種小ロットの典型である名刺は、Web上でレイアウト指定・校正を行い、発注する方式が急速に普及している。
◆ これらのソリューションでは、受発注から印刷物製作までの見積り、発注、原稿入力、校正・承認、印刷等のプロセスをWebサイトを通して運用・管理することで、顧客と印刷会社の双方ともコストが削減されデジタル印刷における受注効率が向上する。また各部門の経費の履歴や累計を管理することも容易にすることができる。
◆ デジタル印刷は、小ロット単位の印刷に適しているが、これまで、オフセット印刷レベルの品質と生産性を実現する大サイズクラスのデジタルプリンティング技術がほとんど存在せず、印刷会社は小ロット単位の注文に対しても、大量部数の印刷向けである従来のオフセット印刷で対応していた。しかし、デジタルプリンティング技術の進歩は目覚ましく、大サイズで高画質、高速印刷が可能なデジタル印刷機が各社から発表されはじめた。
◆ デジタル印刷によって、オフセット印刷で要する印刷前準備時間、色合わせ、損紙、乾燥待ち時間などが省けることから、大サイズでの短納期化、低コスト化を実現できる環境が揃ってきた。
◆ デジタル印刷の場合、スキルのない人でも同等な品質の印刷物を作ることができるので、印字品質による差別化は難しくなっている。
1.8.1.3.2 トランスプロモーション
◆ デジタル印刷機を導入する際の大事なポイントは、どのようなビジネスモデルを作るかにある。デジタル印刷機は、ビジネスモデルの仕組み作りの中の一つのツールとして位置づけることがポイントであり、何を刷れるのかではなく、どのような提案ができるのかが重要なのである。このような背景の中で注目されてきている一つの仕組みがトランスプロモーションである。
◆ トランスプロモーションとは、トランザクションとプロモーション(販促)を掛け合わせた造語である。近年、個人の性別や年齢、購買履歴などにスポットをあてた、トランスプロモーションによるダイレクトマーケティングの手法が販促・宣伝活動に数多く取り入れられるようになってきている。
◆ ダイレクトメールの効果をより効果的なものにするには、個人情報を取得したデータベースに基づく不可価値の高いダイレクトメールの開発が必要である。たとえば、二次元コードであるQRコードと携帯電話とを組み合わせたバリアブルDMならば、アクションした人の数や属性などを取得することができる。このようなDM→モバイル→DMというクロスメディアな循環を繰り返すことで、DMの効果はより高いものとなっていくだろう。
◆ 月次の請求書や利用明細などの文書内に、利用者の趣味嗜好にあったパーソナライズ化されたテキストや画像、イラストを掲載し、顧客とのコミュニケーションに有効な情報を掲載することで、捨てられないDMとして活用するプロモーション展開が求められている。これを支える技術の一つに、One to Oneマーケティングを可能にしたバリアブルによるデジタル印刷技術がある。
1.8.1.3.3 インクジェット印刷機によるデジタル印刷
◆ デジタル印刷市場の中で、最近注目されてきている印刷機がインクジェット方式である。インクジェット方式のプリンタは、インクを細かいノズルから吐き出し、写真や文字などをプリントする方式で、オフセット印刷のようにプレートと呼ばれる版を作製する必要がなく、レーザプリンタやLEDプリンタのような電子写真方式による加熱定着処理も必要がないため、機構が非常にシンプルであるという大きな特徴を持っている。また1色当たりのコストも電子写真方式など他の印刷方法と比べると低く抑えることができるため、6色〜10色のような多色刷りが比較的容易に実現できる。
◆ 画素の高密度化や印刷速度の向上が進み、輪転方式で刷るような商業印刷向けのインクジェット印刷技術が開発され、新聞や本などの出版印刷分野にも活用範囲が広がってきた。
◆ 紙の供給方式が輪転方式、枚葉方式問わず、オフセット印刷に匹敵する品質や生産性、信頼性およびコストを兼ね備えた次世代のインクジェット印刷技術が各社から発表されている。たとえば、顔料系水性インクを使ったコート紙でも非コート紙でも高い品質を可能にする技術や、1ピコリットルという極小インク滴を正確にコントロールする技術などである。
◆ 高画像品質と大判新聞見開きも印字できる広幅サイズと、毎分200m(A4判毎分2500枚)以上という高速インクジェット技術を応用すれば、フルカラーバリアブルデータによるパーソナライズ化された新聞の発行が可能となる。
◆ オフセット印刷の搬送部にインクジェットのヘッドを装着させ、一部に可変情報を追い刷りするハイブリッドタイプもある。
◆ インクジェット方式は、環境にもやさしい生産方式を提案できる。たとえば、効果的なインク出力によるエネルギーの有効消費対応や、安全なインクの使用、インクの効果的消費とリサイクル利用など、インクジェットの構造だからこそ可能な技術配慮が数多く見受けられる。
◆ インクジェット中には、4階調、1200dpiの高解像度で、菊半サイズ(720mm×520mm)の高速印刷を実現したものや、多様な印刷用紙にオフセット印刷レベルの高画質を再現するインクジェットデジタルプリンティング技術もある。長尺プリントヘッドには、高密度長寿命であるピエゾ素子が高精度に配列されており、シングルパス方式で高解像度な画像を高速印字できる。ケミカル技術を駆使して開発した水性インクジェット材料技術で、新開発の高速インク凝集技術と用紙カール抑制技術により、多様な印刷用紙に対して、にじみのない高画質を再現できるものもある。
1.8.2 印刷材料
◆ 印刷とは、複製すべき情報を版にして、用紙など被印刷物に、インキを転写することを繰り返すものである。用紙とインキが印刷材料である。
1.8.2.1 用紙
◆ 紙の歴史は古く、紀元前150年頃、中国で紙が使われていた形跡がある。記録として残っているのが、後漢時代である105年に蔡倫が紙を作ったというものである。
◆ 西アジアであるイスラム圏を通じて伝播し、12〜13世紀にはスペイン、フランス、イタリアなどで手漉きの製紙工場が作られた。
◆ 紙は、和紙と洋紙に分けられる。
◆ 和紙(「ワガミ」とも呼ばれる)は、コウゾ、ミツマタ、ガンピという3種類の植物の繊維が用いられ、主に手漉きされるというのが特徴である。
◆ 洋紙は、木材の繊維を用い機械を使って製造される場合が一般的である。
◆ 印刷の用途に用いられる洋紙は、木材をチップと呼ばれる、3×3cm、厚さ5mm位の大きさに細分化し、パルプを作る。それを機械的また化学的な処理を行って、繊維を分解して集めたものである。この後、調成(叩解や薬品の混合)を経て、抄紙される。
◆ 日本の紙の生産量は世界全体の約10%を占めている。製紙の原料の内、約半分は古紙であるが、残りは新たな木材から作られる。木材そのものを輸入するより、現地でチップやパルプにされ、それを輸入するケースがほとんどである。パルプの約80%は国内で生産されているが、その原料であるチップの約7割は輸入されているのが、我国の現状である。チップの輸入先は、オーストラリア、米国、チリ、南アフリカなどである。
◆ 印刷用紙は、下級紙から順番に更紙/中質紙/上質紙/アート・コート(塗工)紙に大別される。アート・コート紙は表面に白土などを塗工して平滑にした紙である。
◆ 印刷用紙はJISによって原紙寸法が決められ、印刷物のサイズはそれにあわせてロスが少ないように決められる。
◆ 印刷用紙には目と呼ばれる方向性があり、原紙の分割を考えるときには注意する。A列全判のタテ目を半分に切ると、A列半裁ヨコ目の紙になる。
◆ 印刷用紙は全判1,000枚、板紙は100枚を1連といい、取引単位にしている。
◆ 印刷用紙として使われる洋紙は、その種類と銘柄、厚みなどを特定して用いられるが、厚みについては紙の重さで判断される場合が多い。紙の種類が変わると同じ重さでも厚みが変わる場合がある。
◆ 一般に用紙の厚さは1連の重量で表現するが、A列とB列では同じ厚さでも連量が異なる。1平方メートル当たりのグラム数を表す坪量で表現すれば間違わない。
◆ 米坪(べいつぼ)というのは、紙1m2あたりの重さのことであり、坪量(つぼりょう)も同じ意味である。一方、連量とは、洋紙では1000枚の重さのことであり、斤量(きんりょう)も同じ意味である。
1.8.2.2 紙の特性とインキの発色
◆ 印刷用紙により吸油性(インキの吸収性)が異なる。吸油性が高く薄い紙はインキの吸収性が高く、ベタの多い印刷面が裏に透けて見える裏抜けを起こしやすい。一方、カード紙のようにインキの吸油性が低い紙は、ベタ部分などで裏移りなどが発生しやすい。
◆ パッケージなどの均一なベタ印刷が必要なものは、同一絵柄を繰り返して版に殖版する際に、配置が悪いと印刷時にベタの部分にゴーストが発生することがあるが、印刷条件に左右される。
◆ 製版時のスクリーン線数は、紙質に応じて適切な範囲のものを選ぶ。
1.8.2.3 特殊インキと印刷適性
◆ インキにはプロセスセットインキの他に、金インキ/銀インキ/蛍光インキなど特殊な色を出したり、隆起、芳香、磁性といった特殊な効果を出すためのさまざまな特殊インキがある。
◆ 特殊インキは転移性、乾燥性、密着性といった点から、一般的には印刷適性はあまりよくない場合が多い。
◆ 特色および特殊インキを使用する場合は、プリプレス工程でそのための分版を作成することが必要である。
1.8.2.4 印刷業界における環境問題への対応
◆ 近年、環境問題への意識が高まり、公官庁でも再生紙の使用など、環境への配慮を要求するようになってきており、印刷業界においても、(社)日本印刷産業連合会では「オフセット印刷サービス」グリーン基準を制定している。
◆ この基準において、用紙の基準としては、古紙パルプの配合率、森林認証パルプの使用といった再生循環資源を利用した紙や、非木材紙、間伐材紙といった通常のパルプ以外で作られた紙の使用、白色度、塗工量、塩素ガスを使用しない、有害物質を含有しないなど、7つの要件があげられている。
◆ プリプレスや刷版においては、デジタル化率、CTP化率といった6つの要件が挙げられている。
◆ 環境問題を意識した製品の場合、購入する際の目安となる「環境ラベル」が付けられていることが多い。これらのマーク類は適正に使用されなくてはならない。印刷会社のプリプレス側でも、単にクライアントから要請されたからといって、安易にトレースしてマークを使用することはできない。
◆ 「環境ラベル」のマークには、森林認証制度で使用されるマークや古紙パルプ配合率を示すマークなど、いろいろなものがあり、使用条件もさまざまである。
◆ 紙=森林を扱う印刷業界もヤレ・ミスの撲滅による不要な紙の削減や、石油系溶剤インキに代えて大気汚染の原因の揮発性有機化合物の発生を削減したSOYインキの採用など、積極的に環境にやさしいビジネススタイルに変えていかなければならない。