オンラインショッピング、ネットオークションなどが日常的に行われるようになった昨今、その増加に伴い、ネット上で決済する機会も増えてきた。その手段の一つとして、ネット専業銀行(リアル店舗を持たないで、インターネット上に存在する銀行)の利用が注目をあびている。
いくつかあるネット専業銀行の中でも、小額決済に特化し、インターネット時代ならではのユニークな戦略で事業を展開しているイーバンク銀行株式会社。従来の金融業界のイメージを覆す斬新なビジネスモデルの実態に迫り、将来の金融業界のあり方、流通の姿を展望したい。
窓口のない銀行
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CS本部・永島祐二氏 |
イーバンク銀行は、東京・内幸町のビル1階にオフィスを構えているが、いわゆる「窓口」のある店舗は持たない。ドアは指紋認証で入室するしくみになっている。社員は約80人。元銀行員のみならず、商社、流通、IT関連出身者など経歴はさまざまだ。
同社のビジネスモデルを考案したのは日本長期信用銀行出身の松尾泰一氏(代表取締役社長)。米国には、小口の顧客取引を中心とするリテール・バンクがあるが、「日本でもITを使ってリテール向け銀行業務をしたい」と松尾氏は考え、低コストで提供できるインフラが整い始めた2000年1月、イーバンク銀行の前身・日本電子決済企画株式会社を立ち上げた。その後、金融庁に申請して銀行免許を取得、2001年7月に開業した。
「既存銀行が不良債権を抱えているのと違って、新規参入銀行は不良債権がなく、ゼロからスタートできるのが最大のメリット」とCS本部・広報宣伝部長の永島祐二氏。
インターネット上の財布に…
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オフィスには指紋認証で入室 |
銀行には、預金、決済、融資の三機能があるが、同社は、IT活用により多頻度・低コストでできる決済に特化している。主に、インターネットショッピング、ネットオークションでの支払いに利用してもらうのが狙いだ。近い将来、ネットでの買い物はネットバンクで決済というスタイルが主流になってくるのだろうか―。
決済手段としては、銀行振込、クレジットカード、代引き、コンビニ払いなどがあるが、手数料が高く、小額の買い物には向かない。その点、イーバンクの場合、イーバンクの口座どうしなら手数料はゼロ。他行への振込みも250円と他の銀行に比べると低コストだ。消費者側には手数料の負担がかからず、店側が負担するようになっている。
「銀行というより、インターネット上の財布と思ってほしい」と永島氏。「他の銀行のもう一つの口座、サブバンクとして活用していただきたい」というスタンスだ。
ネット決済に対する不安感がまだ拭い去れない人も多く、「インターネット銀行って本当にあるの?」と、本社まで確認にやって来る人もいるという。その点に関しては、開業にあたってシステム面に非常に力を入れているので、開業以来、無事故。トラブルに対しては300万円まで全額補償するセキュリティ保険もあるが、トラブルは今まで一度もなく保険を適用したこともない。
一度体験して慣れてしまうと、あまりの簡単さと24時間365日受付OKという便利さから、ATMに並ぶことができなくなってしまうという。
もちろん、窓口対応がなくなったからといって、顧客の声を吸い上げることも疎かにはしていない。問い合わせや苦情はカスタマーセンターのオペレーターが対応している。また、サイト上の「iBox」という投稿コーナーで、常時、意見・提案を受け付けている。
口座開設にトライ
取材後、さっそく口座開設にトライ。まず、イーバンクのHPにアクセスし、顧客情報を記入、郵送かFAXで本人確認書類(身分証明)を送る。照合が完了すれば、メールでお知らせが届く。1週間以内に「Thank Youレター」(口座開設のご案内)が届き、到着後、「ログインパスワード」「約款同意」「暗証番号」の設定をすれば終了。はれて、イーバンク銀行の口座を持つことができた。キャッシュカードを使えば、郵便局とアイワイバンク銀行のATMで、月5回まで24時間無料で引き出しができる。年会費無料のクレジットカード機能もつく。
2003年9月現在で、口座開設人数は60万人にのぼる。ユーザーは、20代、30代が多く、まさにインターネットユーザーと重なる。年度内に100万人達成を目指している。
イーバンクの利用には、ネットショッピングやネットオークションがある。Yahoo!JAPANのオフィシャルバンク、ビッダーズの「おすすめネット銀行」などになっているのをはじめ、多くのサイトでイーバンク決済が利用可能である。そのほか、ヤフーリサーチやiMiネット、ネットマイルなどでは、アンケートやモニターに答えて獲得したポイントや謝礼をイーバンク口座で換金したり、振込先に指定することができる。
「メルマネ」
同社のメインサービスの一つに「メルマネ」がある。なんと、メールで送金ができてしまうという日本初の画期的な送金サービスで、相手の金融機関・口座番号を知らなくても、アドレスと名前さえ分かれば、パソコン、携帯電話、Lモードを使って送金・受取ができる。携帯電話は3キャリアとも公式サイトとして対応している。
送金者は、自分のイーバンク口座にログインし、送金先の名前、メールアドレス、金額を入力し、送信ボタンを押すだけ。受信者は、届いたメールから所定のサイトにアクセスし、イーバンクまたは他の銀行口座や郵貯の口座を指定して現金を受け取る。
オークションなどでは、相手に口座番号を知らせなくてすむので、メルマネがよく利用されている。個人間のやりとりだけでなく、「インターネット上で買い物をすれば、500円キャッシュバックします」といった企業のキャッシュバックキャンペーンにも利用されている。
2003年4月からは、TBSラジオのプロ野球ナイター中継「ザ・ベースボール」で、「メルマネ3000円クイズ」をしている。これは、中継中に出題されるクイズに当たった人に抽選で3000円が当たり、当選者への連絡・送金をメルマネで送るというキャンペーンだ。
メルマネは、他にも、さまざまな用途がある。サークルの会費の徴収、友達どうしのお金の貸し借りの清算や、職場の飲み会の支払いの徴収などなど。アルバイト代の支払いに利用している会社もすでに出てきているという。
リアルの世界でも展開
社長の松尾氏は「インターネット上の決済のみでなく、リアルな世界での決済にも使えるようにしたい」という構想を描いている。例えば、駅の改札、コンビニ、レストランなど。
SUICAなど非接触型のICカード利用での電子マネーが浸透しているが、カードの場合、お金のバリューがカードそのものの中に入っている。一方、イーバンクは、サーバの中にお金のバリューがあり、携帯電話やパソコンを使ってお金の移動を指示するところが大きな違いである。ICカードは、なくしたり壊したりするとお金もなくしてしまうことになるが、ネットワーク型電子マネーは、たとえ携帯電話をなくしてもお金の価値はサーバの中に残っている。
「今はパソコンで利用するお客様が多いが、これからは携帯電話で口座を作ったり申し込みをしたりする人が増えてくるだろう」と永島氏も言うように、携帯電話がお財布がわりの時代がやってくるのも、そう遠い話ではないだろう。
同社は経営理念として「3eの追求」を掲げている。「excellence:優位性」「efficiency:効率性」「entertainment:娯楽性」である。既存概念にとらわれず、斬新なアイデアによって新しい価値を生み出している同社の姿勢からは、新しい時代の到来を感じる。
今後の目標は「口座数を増やし、イーバンクの決済をいたるところに広めること」。日常の多くのシーンで決済が行われているが、その中に広くイーバンク決済を導入していきたいとする。「そのためには、地道に堅実に経営し、信頼度をアップしていきたい。今の時代は、競争でなく、協業していかなければならないですね。提携先を広げ、Win-Winの関係をいかに築くかが大切」(永島氏)。イーバンクのチャレンジは、まだまだ続く…。
この十数年で、目覚しく統廃合が進み、看板が塗りかえられている銀行業界は、今後も大きく変化を遂げていくだろう。電子ブックや電子カタログをネットで購入し、ネットで決済をする…という流通スタイルが主流になる日も間近かもしれない。
(文・写真 岡 千奈美/2003年11月)
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