出版不況が騒がれている中、新たな試みにチャレンジし、元気なベンチャー出版社がある。英治出版株式会社(東京都渋谷区 代表取締役社長:原田英治)はSOHOネットワーク型出版社。従来の出版社のイメージを覆すユニークな戦略を次々と打ち出している。同社は、専属の営業マンをもたず、3人の出版プロデューサーが編集者、営業マン、マーケッターの全ての役目を果たしている。
原田英治社長はアンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア)を経て、家業の印刷会社の取締役に就任、経営全般に携わる。その後、関連会社である出版会社の代表取締役副社長となり、1999年独立。
韓国進出!
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代表取締役社長・原田英治氏 |
出版をスタートするにあたり、原田氏は「出版」を再定義することから始めた。「版を出す」という印刷用語から発生している日本語よりも、英語の「Publisher」の方が、自分たちの目指す方向性をよく表していると思った。自分の思想やイメージなどプライベートなものをパブリック(公)にしたい著者のお手伝いをするのがPublisher(出版社)である。「パブリックは、当然日本だけに限った話ではないので、将来的にはなるべく多くの言語に変換できる出版インフラを提供したい」と考えている。
その第1弾として、2003年、韓国での出版事業に取りかかった。縁あって、6月、韓国の大手出版社であるブック21(キム・ヨンゴン社長)と業務提携を結び、9月2日、『考具』(加藤昌治著、阪急コミュニケーションズ)の韓国語訳書籍出版の発売をスタートした。韓国最大の書店、教保文庫のビジネス書トップ10に4週連続ランクイン(10月現在)、韓国最大のオンライン書店、YES24の総合30位にランクインと、順調な出だしを見せている。
オンライン書店でも立ち読みOK
英治出版のユニークなサービスの一つに「バーチャル立ち読み」がある。オンライン書店に並べた書籍を公開し、立ち読み感覚で中身を見ることができるサービスである。
Amazonが日本進出の機会を探っていると噂されていた1999年当時、創業にあたって、「オンライン書店のデメリットとは何だろう?」と考えてみた。オンライン書店の登場で本の検索が便利になった反面、書店のように立ち読みができないという不便がおこっていた。タイトルや目次だけでなく、中身に簡単に目を通して判断したいという読者の当然のニーズに応えるため、バーチャル立ち読み機能を取り入れた。
技術的には、gifファイルを透明gifにし、背景色に黒を置くという工夫をした。画面上は白い紙に黒い文字で印刷されたように見えるが、プリントボタンを押すと、背景色が印刷されないので文字が読めないというプロテクションによってセキュリティ保護をした。ナローバンド時代の産物である。今は、PDFにして、コピープロテクションや印刷プロテクションをしている。
これからは、バーチャル立ち読みで、その本にあった雰囲気作りをしたいという。「小説なら、その世界を再現するようなものにしたり、音楽をつけるなどしてもいいかな。それを著者がプロデュースしたり、著者が朗読したりするのも面白いと思う。本を読むスピードは、読者によって全然違うけど、著者は、こんなムード、こんなテンポで読むように書いたんだというのがあってもいいかなと。詩なんかだと面白いんじゃないでしょうか。想像するのもまた面白いんですけどね」(原田氏)。
読者最適サイズを提供
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少ないスタッフで仕事をこなす |
印刷会社にいたころ、オンデマンド印刷機(ゼロックスのDocutech)に出会った。コストパフォーマンスを考慮すると出版の小ロットには向かないかなと思ったが「何か感じるものがあった」という。拡大・縮小が可能というコピー機的性格がオンデマンド印刷の一番のメリットではないかと、その価値を見出した。
従来の印刷だと、製版フィルムから作り直しをしなければならないので、全く新しい本を作るのと同じコストがかかってしまうが、オンデマンドなら、ページ数は変わらないし、デザインも背幅だけ調整すればいい。特に、拡大のニーズはある。文字が大きくなり、その分余白スペースも増え、研究者などが書き込みするのにも便利だ。ゴシック22ポイントの大活字版なら、弱視の方も読みやすい。ただ、出版する際に、拡大や縮小した本は内容が同じでもISBNを変えなければならないという業界的問題点がある。
出版のハードルを下げて多くの人にチャンスを
レゾナンス出版(近藤正純ロバート社長)が、創業のとき出版資金をブックファンドによって集めたことが話題になり、原田氏は「これは画期的だ!」と直感した。出版社としてヒットコンテンツをプロデュースするという儲けにはならないが、ブックファンドを出版インフラにするサービスを目指し、ビジネスとして軌道にのせたいと思っているところだ。
ブックファンドの仕組みは、著者の本の出版に共感した人々から出版資金を出資してもらい、英治出版が編集から書店配本までを行い、本が売れた利益を出資者に分配するというものだ。「一番出資した人が一番利益を得る」というビジネスの原則のもとで出版できるので、例えば、著者が全額出資した場合は、著者収益を最大化させることができる。
本を出したいと思っていても出版社の都合で出版できない人達のために、資金調達する場として使ってもらい、出版のハードルを少しでも下げたいと思った。「この出版不況の時代に、編集者は、売れる本を本当に見出すことができるのかという疑問もある。リスクを負ってでも出版したい人がいるなら、彼らにチャンスがあってもいいんじゃないかと思うんです」と原田氏。
「自分で出資する」=「My出版社をもつ」のと同じになるように出版インフラを成長させていきたいと原田氏は言う。有名作家ならリスクも少ないので、自分で出資して出版する方式は今後増えてくるのではないだろうか。
後発組のメリット生かして
今後は、国内においては、ブックファンドの企画公募、出資公募と、インフラ化していきたい。「もちろん、自社企画の出版物も今までどおり出していくけど、それと同時に、ブックファンドを中心とした出版インフラを提供して出版のハードルを下げたい」と言う。その先には、Publisherとして海外進出していきたいという大きな目標がある。2004年1月には韓国で合弁会社を設立し、さらにアメリカ進出もしたいという。
「本は、未来にも読者がいるんですよね。だから、絶版にしちゃいけないなと思うんです。紙のメディアの本でなくても、コンテンツとしての内容を将来に渡って読めるようにしておかないといけない。今までは活版の時代があったので、絶版になってしまったものが多く存在するのはしかたがないけど、今の時代に起業した出版社なので、絶版にしないということが後発組出版社のメリットであり、責任だと思う」
☆ブックファンドから誕生した作家に聞きました!☆
「女子大生会計士の事件簿」の作家・山田真哉氏のインタビューはこちら
★後日談・・・
英治出版と韓国の大手出版社『BOOK21』が合弁会社『EIJI21』を設立とのニュースが届きました。アメリカ進出も近いか…。
(文・写真 岡 千奈美/2004年1月)
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