求められる雑誌を求めている人に
定期購読サービスをWeb上で展開


オンライン書店は日本でも増えてきたが、定期購読雑誌専門サイト「Fujisan.co.jp」は日本初の試みとあって注目されている。不況の続く出版業界に新たな活路を与えるきっかけとなるのだろうか。同サイトを運営する株式会社富士山マガジンサービス(以下、富士山)(東京都渋谷区、西野伸一郎社長)は2002年7月に設立、12月にサイトを立ち上げた。JAGATの「プリンターズサークル」も販売されているのでご覧いただきたい。

雑誌のワンストップショッピング


代表取締役社長・西野氏
国内で定期的に出版されている雑誌は約3500タイトル。富士山では、取り扱い雑誌約250タイトルからスタートし、1年間で約300社の雑誌約1000タイトル(2003年12月現在)を取り扱うまでになった。サイト訪問者は、月に70〜80万人に上る。

同社は「雑誌の定期購読に対するトータルサービスの提供」をうたっており、出版社から依頼があれば、マーケティング調査、創刊時のプロモーション、販売から梱包・配送、顧客管理、カスタマーサービスまでの一貫したお手伝いをしている。メインのサービスは、ネット上での「販売」であり、簡単な操作によって購読申し込みができる仕組みになっている。同サイトをとおして購読申し込みがあれば、原則、販売価格の35%を出版社側が富士山に支払う。

出版社にとっては、販売ルートの新規開拓、読者の獲得などのメリットがあるが、読者にとってもメリットが大きい。書店の店頭では見つけにくい専門性、趣味性の高い雑誌を発見することができ、さまざまな雑誌の申し込みや決済、問い合わせなどの手続きがワンストップで行えるという便利な窓口となっている。

あるとき、受注ランキングで『ハッピートリマー』(緑書房)というトリマー(犬の美容師)に関する雑誌が3位にランキングしたことがある。トリマー志望者に人気のコミュニティサイトとアフィリエイト契約をしていることが要因であり、西野社長の言うように「これぞインターネットの特性」だ。

また、富士山は独自の多様な販売チャネルを持っている。YahooやGoogleなど大手検索エンジン、提携出版社HPや各種ECサイトとリンクするアフィリエート、オンライン書店、各提携先といった、通常の書店とは全く異なる新しいチャネルを開拓している。2004年春には、書籍取次大手の大阪屋との提携で書店向け専用窓口をスタートさせ、大阪屋の持つ3000誌以上の雑誌、2000店の書店網が開けることになる。

アマゾンジャパン立ち上げの一員

Fujisan.co.jp立ち上げまでの道のりは、西野社長とアマゾン・ドット・コムとの関わりを抜きには語れない。西野氏は、大学卒業後NTTに10年間勤め、その間、1993年から2年間米ニューヨーク大学でMBA取得。ちょうどインターネットが登場した時期で「大いに感化された」と言う。帰国後、NTTでインターネット事業に携わると同時にインキュベーターである株式会社ネットエイジ(東京都渋谷区、西川潔社長)を設立。オンライン書店の黎明期である98年、「アマゾンを日本にもってこよう」という構想が生まれ、同じことを考えている仲間たちで、同社のジェフ・ベゾス社長にメールを送った。「提案するのなら、アメリカに来てください」とのレスがあり、さっそく渡米。約1年間、シアトルのアマゾンで働きながら日本開業のプランを立て、2000年11月アマゾンジャパン設立にこぎつけた。

なぜそこまでアマゾンに魅力を感じたのだろうか。西野氏はすかさず「かっこいいから」と返し、「メーカーと消費者の関係が逆転し消費者が主役になる時代が来ると言われていた。それを可能にするツールとしてインターネットは有用。その最新のテクノロジーを使い、アフィリエートプログラム(インターネット上の広告において、広告主が広告掲載者に対して、売上げに応じた手数料を支払うシステム。バナー広告からアクセスしてきたユーザーが買い物をした場合、その購入金額に応じて広告主が報酬を支払う)やカスタマーレビューなど、今では当たり前になっていることを最初に始めたアマゾンを日本にも持ってきたいと思った」と語ってくれた。

雑誌をキーワードとしてビジネスを…

こうして、出版の世界に足を踏み入れることとなり、日本の出版業界を知るにつれ、疑問に思い始めたのが「雑誌」。1兆3千億円市場を占める雑誌(書籍は1兆円)の部分がビジネスになっていない。西野氏は、「雑誌」をキーワードとしたEコマースにチャンスがあるのではないかと目を付け、アマゾンを離れ起業する決意をする。

雑誌の定期購読は日本では10%ほどしかないが、米国では80%に上るということもあり、米国では雑誌の定期購読エージェントのモデルが多く、「一時は、100〜200社ひしめいていた」。それを日本風にアレンジし、日本初の雑誌定期購読エージェントとして立ち上げたのが富士山マガジンサービスだ。
「雑誌は、いいメディアだと思う。マスメディアのようでいて、マスでない。人々の趣味嗜好、仕事などをキーワードとして、分野別になっている。ターゲティングがしやすいメディア。みんなが同じものを見ていた時代が去り、人々の嗜好が多様化していく中で、的確にワンtoワンマーケティングができるメディアのツールとして雑誌の役割は大きい」(西野氏)。定期購読なら、なおさらマーケティングがしやすい。

勝負はコンテンツ!

インターネットが普及し、本離れが進んでいくが、「時代の流れは止められない。それでも、人々には、一つの媒体としてまとまったコンパクトな情報を求めるニーズが必ずある」。西野氏はきっぱりと言う。

「結局、勝負はコンテンツ。自分が持っているものを守ろうとする発想がある限り、全てが脅威になってしまう。雑誌の場合は、せっかくコンテンツという何にでも使えるものがあるのだから、それを使ってビジネスにしていくべき。例えば、バックナンバーは倉庫代が掛かるし赤字ビジネスだと言われていて、どんどん捨てているところが多い。それをデジタルで提供する発想もあるのにもったいないことをしている」

目標は、「全ての」雑誌を扱うことだ。お客さんからは「こんなステキな雑誌があるなんて知りませんでした。母に送りたいので、もう一冊お願いします」などの声もあり、西野氏らは、出合いの場を提供している喜びを感じている。
同社では、「求められる雑誌を求めている人に」をスローガンに掲げている。「書店が減少し、返品率が増加する状況の中、富士山が一つのチャネルとしてうまく機能すれば…」と西野氏は期待をかけている。

(文・写真 岡 千奈美/2004年2月)

(C)Japan Association of Graphic Arts Technology
JAGATのトップへ