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私が考える「営業職が挑戦するDTPエキスパート取得の意義」

株式会社アート・スキャナ・サービス 営業本部 営業部長 河津 敦

 
DTPエキスパート試験を受けられる方のほとんどは、DTPオペレーターの方だと思います。試験内容はDTPの技術的な幅広い知識が問われる問題が多く、会社によってはDTPオペレーターの方には取得が必須条件になっているかもしれません。
では現実にDTPエキスパートの試験範囲の内容が、実践で必要とされているのは、DTPオペレーターの方たちだけなのでしょうか?今、最も実践で必要とされているのはおそらく印刷営業職の方たちなのではないでしょうか。そのことについて次の3項目に分けてお話したいと思います。

1)印刷業界の現状
2)CTPの普及によってもたらされた営業マンの役割
3)DTPエキスパート取得にチャレンジ

以下、順を追ってお話したいと思います。

印刷業界の現状
2000年6月にカルロス・ゴーンが日産自動車の社長に就任して大改革を行い、見事に復活を成し遂げた話は有名ですが(これは自動車会社1社の話でありますが、その規模また影響度から考えて、一つの産業と捉えた時)、私たちの印刷業界で、このような大改革は起きるのでしょうか?
印刷業界が急速な構造改革を成し得ない大きな2つの理由があると思われます。一つの理由として、印刷業界は多くの中小・零細企業から成り立ち、その数は全国に従業員4人以上の印刷・製版会社が1万3000件を超えると言われています。このようにすそ野が広い業界の中で、変革するための投資余力のある会社は少なく、業界全体が同時期に変革を受け入れられないということが考えられます。またもう一つの理由としては、扱う商品の1点1点がすべて違うものだということです。作業する環境が違えば、工程も違うということで、業界全体として統一が図れないというのが大きな理由です。この2つの理由から考えても、印刷業界は自動車産業と同じようには急速な大改革が成し得ないのだと思われます。

それでは印刷業界は全く変わらないのかというと他業界に比べてスピードは遅いですが、確実に構造改革の途上にあるのは確かです。例えば印刷関連メーカーの出す機械やソフト自体が、各業種間の連携を意識した製品作りがされています。
各メーカーによるセミナーや国際展示場でも、メーカーが勧める商品の良さと同時に、それがデジタルワークフローの全体の中の一つの部門としてどのように機能するかが、必ず説明されるようになりました。これは印刷業界自体の業種間の垣根が低くなり、互いの情報をいかに正確に次工程に伝え、フィードバックするかがテーマになっているということです。それらの技術を会社が取り込むことで、より高い生産効率を図り、より良い製品を作るということが、会社が生き残るために必要不可欠になってきているのです。

CTPの普及によってもたらされた営業マンの役割
それでは私たち営業マンに求められている役割とは何なのでしょうか?
私たち営業マンの悩みは、以前のようにその会社が携わる業種だけの話だけでは済まなくなってきたということです。前項で、メーカーが推奨する商品は業種間の連携を前提としたものであると述べたように、営業マンは前工程や後工程も理解をしていなくてはなりません。その大きな流れが変わった一つの要因として、CTPの普及が考えられます。製版営業マンは印刷を理解した上で、より良い製版の進め方の話ができることが求められ、印刷営業マンは製版知識が求められるようになりました。
言い方が少し悪いのですが、それは今までの経験則でごまかせるものではなく、知識が必要とされているのです。CMSという言葉を一つとっても、カラーマネジメントシステムと言えば、何となくイメージが可能です。だからと言って、はっきり理解して営業している人は非常に少ないように思います。業界全体が変革しなければ会社は生き残れないという恐怖感は、個人営業マンに対しても同様に突き付けられ、その恐怖感を感じながら営業されている方も数多くおられることでしょう。その恐怖感はかえって、顧客の要望に対して的確な答えが導き出せないどころか、知識がないところにイメージだけでまた経験則だけで伝えることによって、逆に信頼を損なうことが多くなってきたということです。ただ一言、「分かりません」という言葉が言えなくて、起きる悲劇なのです。

これからの印刷業界の営業マンに求められる役割は、一つひとつの仕事の成果というよりも、会社対会社がどのように仕事全体の流れを作るかということが重点事項になり、いかにスピーディに効率良く、結果としてクライアントに対してより良い製品を提供できるか、仕事全体の流れを考え提案できる資質が問われているのです。つまり全体のワークフローの構築イメージを提案できる営業マンが必要とされているのです。
そして本当に難しいテーマは次にあって、顧客の立場になってものを考え、問題を解決するための答えを導き出し、それをいかに自社製品に落とし込んでいくかということが本当に難しいのかもしれません。また、顧客の抱える問題を解決するために、自分の会社には何が必要なのか、フィードバックすることが営業マンの役割なのかもしれません。

DTPエキスパート取得にチャレンジ
以上のように、私が考える営業マンの役割は会社の将来を占う意味では、大変重要になってきました。それでは営業マンのどの部分を引き伸ばし、教育すれば、会社は強い体質を身に着けることができるのでしょうか それは個々の営業マンがアンテナをもつことでしょう。そのアンテナは、情報を収集しかつ整理して、変わりいく顧客の要望事項に対応する判断ができることを意味します。今までのような受注体質からの脱皮とともに、積極的かつ柔軟な対応能力が必要とされるのです。そのアンテナをより敏感に反応させるためには、技術的な幅広い知識が基礎となります。わが社では人材育成のために、さまざまなセミナーに参加するとともに、DTPエキスパートなどの資格試験にチャレンジし、営業マンといえども技術的な知識を深めるようにしています。

業界全体として捉えても、製版・印刷営業マンの方は、幅広い知識を身に着け、来るべき改革の時代に向けて知識武装をしなくてはいけないと思います。
幅広い知識を身に着けるという意味では、日々の仕事では決して習得できない知識を、DTPエキスパートの受験によって触れることができるのでとても良い機会だと思います。私自身もDTPエキスパート取得前と後では、「分からないことが分からないレベル」から「分からないことが分かるレベル」くらいでしかないのかもしれませんが、顧客の問題解決の糸口が導き出せるようになったような気がします。また、その問題解決のためには、会社がどのように進んでいけばよいのか、以前よりは分かるようになったような気がします。
そして何よりも、一生涯学習しなくてはいけないほど幅広い知識と、技術のスピードを感じるようになりました。触れるまでは分からなかったことが、触れることでその深さを知ったような気がします。
ぜひ、印刷業界の営業マンの方に、DTPエキスパート取得にチャレンジして幅広い知識を習得し、業界が活性化できるようともに頑張りましょう。

 

 
JAGAT info 2006年7月号

 
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2006/07/05 00:00:00


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