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情報伝達のお手伝い 時流に即した情報加工のプロであるために

◆川嶋印刷株式会社 営業本部副本部長 岩渕久志

 
せり人出身のエキスパート
前職は水産卸会社。せり人資格も持っていました。全くの畑違いから20数年前にUターンということで、岩手の印刷業界に飛び込みました。入社当時はまだアナログの時代で、ペーパーセメント貼り込みで版下を作成していましたし、大きな全版の製版用カメラも存在していました。印刷工程も理解しやすいものでした。それはすべての工程が目で確認できるものだったからです。
営業部門に配属となり、大した専門知識もないまま、不明な点は諸先輩やお客様に聞きながら、毎日200kmもの距離を軽自動車で走り回っていました(岩手は広い)。今思えば勘と度胸で営業活動ができたいい時代でした。5年後、社命で当時は労働大臣認定の「印刷営業士」の講習会があり、資格を取得しました。内容は印刷工程と積算見積もりが主で合格率は100%でした。
MacintoshやDTPという言葉を耳にする機会が多くなったのはそのころからでした。社内でも今考えるとオモチャのようなメモリ(8MB)とHD(80MB)を搭載したUciを3台購入し、オペレーター教育も始まりました。しかし、まだ印刷とは無縁で、もっぱらデザインカンプ制作に使われておりました。

デジタルTSUNAMIウェーブ
その後レナトスシステムなどの導入により、本格的なDTP時代を迎え、現在のCTPまでの流れは速く高く、まさにTSUNAMIのような勢いでありました。コンピュータというブラックボックス内で処理されるデジタル印刷の世界、いわゆるDTPは、見えない部分を知識と経験で埋めなければならなくなり、アナログ時代には考えられなかった印刷事故や短納期化、低価格化など、さまざまな濁流に飲み込まれそうになりながら必死に泳いできました。勘と度胸の営業時代を懐かしむ間もなく、今度はインターネット、クロスメディアの第2波が…。
既に年齢は50歳に近づいていました。振り返れば、場当たり的にあるいは付け焼刃的に得た知識は虫食い状態、体系的に整理した形で学ぶ機会が欲しいと思っていた矢先出合ったのが「DTPエキスパート認証」でした。

50歳の挑戦
早速JAGAT推薦のテキストを購入し、熟読しました。問題集には手を着けぬまま無謀にも第24期試験に臨みました。当然結果は惨敗でしたが、当初から受験という意識は薄く、潜入体験というイメージでしたので、ショックはありませんでした。そこで感じたことは「集中力とスピード」が合格の絶対条件、問題数の多さに比べタイトな時間、「俺には無理」ということでした。
2年のブランクを経て、第28期試験に臨みました。きっかけは長男の大学受験。「親父もがんばるからお前もがんばれ」という図式です。今回は問題集に少し時間を割きました。しかし、2回目の感想も前回と同じ、もはや、問題の難易度ではなく「集中力とスピード」がすべて、午前・午後とも時間内に全問解くことはできませんでした。「受けるなら50歳まで」と言われるのもうなずけます。3カ月後、「試験結果通知」が来ましたが、意外な内容にチョッと勇気がわきました。5カテゴリーのうち、3カテゴリーと「課題」は80%以上の合格圏内、「コンピュータ」は後1ポイント、本来得意であるべき「印刷発注」が後6ポイントで合格していたという事実。合計点は平均点をはるかに超え、合格ラインを20ポイントもオーバーしていました。3回目の受験に迷いはありませんでした。
第29期受験にあたっては、宮城県印刷工業組合で研修があると聞き万全を期すため、受講しました。内容はほとんど受験対策というおもむきで、問題集中心に進行していきました。毎回の小テストもほとんど満点で、合格を確信しました。こんなことなら独学など回り道はしないで、最初から講習を受けていればよかったと思ったくらいです。
「課題」制作も思いのほか時間が掛かることを過去2回の経験から分かっていたので、早めに取り組みました。私自身オペレーターではないので、ラフを引き、制作指示書の原稿を作成し社内オペレーターに制作を依頼しました。課題制作を通じオペレーター自身も勉強になったとのことです。
年のせいにして「俺には無理」で終わっていたらこの達成感はなかったと思うと、あきらめなくてよかったとつくづく思いました。

良い印刷営業とは?
話は前後しますが、2年ほど前から私は直接得意先を持たず営業本部の一員として約35人の営業マンに同行し、サポートする役割に変わりました。そんな中、経験年数が比較的少ない営業から、自分の目指すべき営業像を質問されることがあります。これに対する回答は簡単ではありません。

会社とすれば売上目標を常に達成、適正利益を確保してくれる営業がいい営業にはなるのですが、数字的にいいのはたまたま大口のクライアントを引き継いだからに過ぎないのかもしれませんし、営業力との因果関係は一概には論じられません。
クライアント側から見た「良い営業」とはどんな営業か、率直に言って「儲けさせてくれる営業」が望ましいと思われているのではないでしょうか。しかし、ベネフィットを付加価値で提供できる力がないと、単なる顧客の言いなり滅私奉公営業になってしまいがちです。このタイプは守備的な理由から安売りを正当化する傾向が見られます。真の顧客満足、価値の創造は図れないのか、そしてそれを認めていただく努力こそが営業活動の本来の姿勢ではないのかと問うことがしばしばです。この実践は簡単ではありませんが、理想的営業スタイルとして語り続けています。
物販系の営業と異なり、クライアントと共同で作品を作り上げていく受注産業の特性から、印刷営業には他業種と比べコミュニケーション力、想像力、センス、企画力、交渉力といった能力がより求められます。しかし、そのベースとしてプロとしての専門知識が欠かせないことは言うまでもありません。ある意味営業マンそのものが印刷会社の商品と言えるかもしれません。アナログ時代は印刷のプロセスや設備概要程度知っていれば「印刷屋」として振る舞うことができたかもしれません。
しかし、コンピュータやDTPの普及、IT化によるメディアの多様化は不勉強な印刷営業を一瞬にして素人以下のレベルまで引き下げてしまいました。クライアントに提案するメディアスタイルもペーパーメディアにとどまらず、クロスメディア化が加速していく状況下「どんな営業を目指せばいいのか?」と若い営業マンに聞かれた時は「時流に即した情報加工のプロであることを目指せ」と言いたい。その手段として、まずは「DTPエキスパート認証」の試験勉強をとおして幅広い知識を身に着けることを勧めたいと思います。

情報伝達のお手伝い
私が資格取得後「その資格があると何かメリットあるの?」と言う社員がおりました。資格がなくても優秀な営業マンがいることも事実ですが、印刷業界が非常に厳しい時代にあって「顧客満足を伴った付加価値の拡大」しか生き残る道がない中、当社のキャッチフレーズである「情報伝達のお手伝い」を今後も標ぼうするのであれば、激変する業界環境へ対応するための勉強は不可欠です。マンパワーアップは当社の売り上げと信用を増大させる肝。その時この資格の持つ意味は大きく、今後の私の役割としてまず、社内で「DTPエキスパート認証」資格を正しく理解してもらうこと、浸透させていくことだと思っております。その結果、本資格にチャレンジする人が増えてくれば社内は活性化し、顧客へのサービス向上に貢献できると信じております。

 

 
JAGAT info 2008年9月号

 
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2008/09/28 00:00:00


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