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デジタルアーカイブは横のひろがりへ

世の中のデジタル化が進むにつれ,伝統的文化財,資料にいたるまで保存,継承する「デジタルアーカイブ」が注目されている。インターネットが進んだ今日,デジタル化によって,世界中で「情報の共有化」ができるようになるとともに,どのような活用の道が開かれるのだろうか。また,ビジネスへ繋げるチャンスはあるのだろうか? PAGE2001コンファレンスで,国際日本文化研究センターの合庭惇氏,京都デジタルアーカイブ研究センターの清水宏一氏,凸版印刷の加茂竜一氏に,それぞれ作る立場,ビジネスモデルを構築する立場で「デジタルアーカイブ」の可能性についてお話しいただいた。講演の中から抜粋する。

デジタルデータの集積所

デジタルライブラリー,デジタルミュージアムなどの活動がここ数年,活発に行われているが,今一度,デジタルアーカイブとは何かを再定義する必要があるだろう。合庭氏は「デジタルアーカイブは,いわばデジタルデータの集積所」と定義した。
今までは,むしろ電子図書館や電子博物館という考え方は,図書館,博物館,美術館の延長線上で,デジタル的な展開の中で構想されてきた。デジタルデータの集積所,つまり英語の複数形の「アーカイブズ」として考えることが今まであまりなかったのではないか。
また,これまでは,ある特定の組織,機関が中央集権的にデジタルデータを集積してきたが,インターネットが高速化するにつれ,他の組織との連携が容易になってきているので,これからはネットワークを利用した分散的集積という形態が好ましいだろう。

デジタルライブラリー

欧米では,eBookが大変成長してきている。マイクロソフトもeBookのビジネスに名乗りをあげ,日本の紀伊国屋と提携してビジネスが始まっている。専用端末機を使ったeBookに加え,インターネットを利用して本のコンテンツを提供する会社が急成長している。
NetLibrary社は,約70社の欧米の出版社と契約を結び,インターネット経由でeBookを提供するビジネスを一昨年から始めた。課金制度が非常にしっかりしているので,収益性も高い。またそれに加えて,フリーウエアである巨大なデータベース「プロジェクトグーテンベルク」とも連携している。
デジタルライブラリーで代表的なのは,アメリカの米国議会図書館,フランスの国立図書館,英国のブリティッシュライブラリーなどで,先進的なデジタルライブラリーは,インターネット時代における「知の共有化」が意識されている。知識と情報の共有化をいかにしていくかがデジタルライブラリーの新しい課題である。
最近のビジネスモデルの進化からデジタルアーカイブがどうあるべきかを学習できるのではないだろうか。既存の図書館,美術館,博物館などが協力しあって,インターネット上にデジタルアーカイブという形で,知識,文化を共有するシステムを作り,将来的に,文化装置としてのネットワークができることがデジタルアーカイブの重要課題であろう。

国宝二条城のデジタルアーカイブ(ビジネスモデル)

京都では,1998年,商工会議所を中心とした民間主導の「デジタルアーカイブ推進機構」が設立された。そこでは,デジタルアーカイブのデータベースの構築,新商品の開発,デジタルコンテンツのビジネスをしようと考えた。推進機構の主な活動は,普及啓発,産業育成,人材育成,市場形成の4つである。さまざまな事業を行ってきたが,一番大切なのは,当推進機構自身の後継づくりであった。
推進機構の2001年3月の解散を控えて,後継組織として「京都デジタルアーカイブ研究センター」が2000年8月7日に設立された。京都市,商工会議所,大学コンソーシアム京都が中心となって作っている産官学の実践的な連携組織である。
そこで行われた最大のプロジェクトが「国宝二条城のデジタルアーカイブ」である。二条城には,3411面の障壁画(襖絵)があり,そのうち954面が重要文化財に指定されている。324面を1億3000万画素の画素数を使ってデジタル化した。
研究センターは,デジタルアーカイブの成功によって,ビジネスモデルを創出し,日本全国に影響力を及ぼすため,二条城のデジタル化に着手した。プロジェクトの展開の例として,壁紙や床のタイル,地下鉄の壁面などさまざまなところで活用を始めている。また,絹に二条城のデジタルデータをプリントし,着物にしたものがある。それらの販売額の約40%を画像の使用契約権として入れてもらうのだが,40%のうちの20%は業者の手元に残り,残りは京都市に納入してもらう。このお金を二条城自身の修復と保全に使用する目的で,全て京都市の文化事業基金に積み立てている。
組織を活性化し,分散型デジタルアーカイブに誘導するため,京都デジタルアーカイブ研究センターも2004年3月には解散する。その次は,国からの支援ももらい,21世紀の新しいデジタルアーカイブの推進組織をもう一度作る予定である。

印刷会社によるデジタルアーカイブ

凸版印刷(株)では,2000年4月,イタリアのウフィッツ美術館と共同で収蔵品全点を超高精細なデジタルカメラによってデジタル化するデジタルアーカイブプロジェクトを開始した。また,中国故宮博物院のVR技術の利用によるデジタルアーカイブ,ヴァチカン教皇図書館蔵のグーテンベルグ42行聖書上下巻全1300ページのデジタルアーカイブ,国内著名日本画作家を対象とした日本画アートアーカイブ事業など,国内外におけるその業務領域を積極的に広げつつある。これらの画像データは,いずれも超高精細高画質を誇るもので,単にモニターで閲覧する目的にとどまらず,将来の修復時の情報としても役立つ可能性がある。
凸版デジタルアーカイブの大きな特徴は,1つのデータから永い将来にわたって高品質なメディア展開していく「ワンソース・マルチメディア」であり,それを可能にするために凸版独自の高精度なカラーマネジメントシステム技術を採用している点にある。
画像の品質を決定する重要な要素として精細度があるが,もう1つの重要な要素として色再現の問題がある。印刷物やモニタなど異なる表現メディアで同一の画像を再現する場合,あるいはインターネットを使い,遠隔地の異なる環境下で見る場合,極力その誤差を少なくするためにこのような技術が必要となってくる。
作家や学芸員とオペレータの間で,出力物(デジタルデータ)をより作品の色調に近づけようとする,創作に関わる行為もカラーマネジメントの1つと考えられるが,そこで決められたデータを永い将来にわたって様々なメディアに近似的な画像表現ができるよう保証するこのような技術もまたデジタルアーカイブにとっての重要な要素である。
デジタルアーカイブを構成する様々な技術は,美術品や文化財だけでなく,企業年誌,社誌,商品カタログなど様々なメディアへの展開が進む。従来の印刷ビジネスへの応用の可能性も大きく捉え,今後もデジタルアーカイブの展開を積極的に進めていきたいと考えている。

(通信&メディア研究会)

2001/04/04 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会