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クロスメディアは、クロスバトル

印刷会社の制作部門やデザイン部門はすでにデジタル化・ネットワーク化した環境なので全体としてWebの仕事には馴染みやすいが、印刷営業は対応できる極少数の人と、やる気のない多数派に分かれている。以前に「ぐるナビ」の人から聞いたことがあるが、年間で1件何百万円という駅の広告営業をしていた人が、ぐるめのお店の1件何千円の仕事をとりたがらないのを、工夫してやり抜いたという。1件何千円の売上に対してやる気が起きないのも無理はないが、目の前の売上と向かうべき戦略の狭間で悩むことは今後も続く問題である。

つまり印刷会社の営業はWebとかクロスメディアに立ち向かうような戦略的な使命を与えられていないところが多いといえる。すでに北海道から沖縄まで各地にクロスメディアに取り組んで活躍している印刷会社は存在するものの、統計的に見るならば、経営の側からクロスメディアに取り組もうと考えている会社は印刷業界の中では何%もないかもしれない。ではこの数%という会社群は印刷業界にとって、あるいは他の産業と比べて、取るに足らないものなのだろうか? 印刷の将来を考えるのに、統計的には例外とも思える数%の会社群の動向を考慮しない方がいいのだろか?

だが印刷産業の過去の変貌を考えても、少数の先頭集団の切り開いてきた道を、多くのフォロワーが継承することで、業界としてはまとまった量の仕事ができるようなふうに、推移するものである。だから今は数%の集団でも先頭集団としてのポテンシャルを持ちうるところとして評価していいだろう。今までの業界のオフセット化や電子化とワケが違うのは、クロスメディアのフォロワーは必ずしも印刷業界ではなく、隣接産業かもしれない点である。もっともクロスメディアの先頭集団は印刷産業ともいえないわけだが、新たなモデルを作るというよりも大量の仕事をこなすという点では今でも印刷産業は第1の位置にある。

世の中では印刷産業がクロスメディアの担い手であるという印象はないかもしれない。それは印刷産業の多数派が印刷産業の顔であるからだ。しかし印刷産業の分母は大変大きなもので、4万社もある業界はそうザラにはない。だから印刷業4万社の中の5%でもクロスメディアに対応すれば2000社の集団があることになる。実際のところ競争力を持ちえる会社は1000社くらいかもしれないが、それでもTV放送業よりも多い。当然ラジオ放送業よりも多い。また今「インターネット付随サービス」と分類(若干ナゾだが)される業種よりも多いのである。

印刷業でクロスメディアに取り組んでいる会社は、もともと企画提案活動を行っているところが主であり、印刷業「多数派」の業態とは異なっている。そういう会社にとってもクロスメディアは簡単な仕事ではない。隣接産業との他流試合や協調という切磋琢磨の中で育て上げていくべき仕事だからである。冒頭のようにクロスメディアに立ち向かう刺激は印刷産業が与えてはくれないが、隣接分野と一緒に仕事をすることでビジョンも使命も得られるようになるだろう。

印刷業を相手にするのではなく、他流試合で強くなろうという意思が必要である。何しろ相手は電通鬼十則に象徴されるように、気構えがそこらの印刷会社とはまるで違うのである。それでもチャレンジしようという人に出てきてもらいたいから、一見ハードルの高そうなクロスメディアエキスパート認証試験を開始した。これは印刷産業側の専門家よりも、IT/メディアの専門家に多く関わっていただいて、なるべく業種の色眼鏡に左右されず公平な目で能力を評価しようというものである。

参考:電通鬼十則

1. 仕事は自ら創るべきで、与えられるべきではない。
2. 仕事とは、先手先手と働きか掛けていくことで、受け身でやるものではない。
3. 大きな仕事と取組め! 小さな仕事は己を小さくする。
4. 難しい仕事を狙え! そして成し遂げるところに進歩がある。
5. 取組んだら放すな! 殺されても放すな! 目的を完遂するまでは...
6. 周囲を引きずり回せ! 引きずるのと引きずられるのとでは、永い間に天地の開きができる。
7. 計画を持て! 長期の計画を持っていれば、忍耐と工夫と、そして正しい努力と希望が生まれる。
8. 自信を持て! 自信が無いから君の仕事には、迫力も粘りも、そして厚みすらがない。
9. 頭は常に全回転、八方に気を配って、一部の隙もあってはならぬ! サービスとはそのようなものだ。
10. 摩擦を怖れるな! 摩擦は進歩の母、積極の肥料だ。でないと君は卑屈未練になる。

2006/08/13 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会