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これからの印刷とイノベーション その1

JAGAT副会長 島袋 徹

1. 印刷業の技術革新

印刷業はこれまで製版、印刷、加工の製造技術を中心に大小さまざまな技術革新に対応してきた。その中で印刷業に最も大きな影響があったのはDTPである。DTPは単に原稿から版を作る製版工程をコンピュータ化しただけではなく、文字、画像の印刷情報のデジタル化を伴った。このことによって印刷情報をコンピュータのサーバ上に蓄積し、ネットワークに乗せることを可能にした。

印刷業はDTPに対応したことで製版工程の合理化を実現し、さらにIT技術を利用しながら企業の情報管理システムを構築するようになった。 JAGAT発行の『印刷白書2006』の用語データ注釈インデックスに下記の例が記載されている。


これらの用語は10数年前までは一般化してなく、印刷業の現場ではほとんど使われていなかった。それが今日では日常的に使われるようになっている。このことは印刷業がDTP化、コンピュータ化、デジタル化、IT化と言われる技術革新に見事に対応した結果を示していると言える。印刷業は常に技術革新に積極的に取り組んで顧客満足度を維持、向上させ、それにより自社の事業を発展させてきた。この企業姿勢は他業種と比べても決して劣るものではなく、高く評価できるものである。

印刷業の技術革新はオンデマンド印刷やインラインフィニッシュなどを中心にして今後も継続するが、DTPのように大きく影響を及ぼすものは見当たらない。それでは印刷業において技術革新が一段落したので一息つけるかというと決してそうではない。なぜかというと印刷業の顧客サイドでイノベーションが起こっているからである。印刷業は、新たな付加価値を生み出す顧客の事業のイノベーションに参画すべきである。

これから印刷業を発展させるには、顧客の事業の流れに積極的に参画して自社が受け持つ領域を拡大しなければならない。顧客の事業の流れは

戦略策定→商品・サービス開発→生産→流通チャネル・業務インフラ構築→顧客開発→顧客維持→効果測定→戦略策定

と循環する。顧客はこの循環の中でイノベーションを起こし、新しい商品、新しいサービスを創り出そうとしている。その顧客の事業の流れの全部門に情報メディアが関係し、IT技術が使われる。従って印刷業はどの部門にも参画できる可能性をもっている。JAGATはこのことを踏まえて「PAGE2005」において「メディアは循環型ビジネスへ」のスローガンを掲げて多くのことを提案した。

顧客が印刷物を製造するという部分を印刷会社に任せてくれたとしてもそれは事業の流れの中の一部でしかなく、そこでの付加価値はますます低い評価になっていく。従って印刷業が単に紙の印刷物を製造するところに止まってしまうと、将来の発展は望めない。同じ紙の印刷物を製造するにしても顧客の事業の流れに参画して、デザイン、納期、コスト面で高い付加価値を生み出す必要がある。印刷業は新たな変革・イノベーションに迫られているのである。

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2006/08/15 00:00:00


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