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デジタルメディア制作組織を強くする3つのポイント―営業、ディレクター、モチベーション

株式会社東海共同印刷 共同ネット事業部部長 浅井豊彦 

共同ネット事業部について

当社のデジタルメディア制作は、共同ネット事業部という部署の中にある制作グループと開発グループという2つのグループが携わっている。主にWebサイトの制作や、関連するシステム・プログラム開発を行うが、データベースと連動した自動組版や、クライアント側のDTPシステムの導入・運用支援なども行っている。また社内のネットワークや各種システムの保守・管理も業務として位置付けられている。
共同ネット事業部は、それまで社内の複数の部署に分散していたデジタルメディア制作やシステム構築を扱う部署を統合してできたものである(1998年に「情報システム事業部」として発足し、2004年に「共同ネット事業部」という名前になった)。
ここ数年はWebに関する案件の比重が増えている。現在Webに関わるメンバーは主に6人で、営業サポート1人、ディレクター1人、コーダー2名、プログラマー2名という構成になっている。Webの画面デザインは社内では行わず、外部のデザイナーに協力をしてもらっている。コピーライティングが必要な場合は、社内の該当部署に依頼することもある。
「事業部」としての売り上げは年々増加してはいるものの、まだまだ厳しいのが実情である。しかし、こうした部署の存在があることで'デジタルに強い'という印象をクライアントにもってもらえるようになり、付加価値営業を支援するという意味では重要な役割を果たしていると言える。
事業部の設立に当たっては、綿密な計画に基づいてというよりは、クライアントニーズにこたえられるよう試行錯誤するうちに、でき上がってきたというのが正直なところだ。
この過程で、こうした事業部門のあり方として重要だと感じていることがある。それは(1)営業との関係、(2)ディレクターの役割、(3)チームのモチベーションの維持・向上の3点である。特に他社の経験を取材したわけではないので、多分に当社の事情が反映しており一般化できるような内容ではないかもしれないが、「そういうふうに考える会社もある」くらいのつもりで読んでいただけると幸いである。

コミュニケーション力の高いベテランスタッフを配置

印刷会社の中のセクションである以上は、当たり前だが既存の営業との関係が生じる。事業部としては独自の営業体制を確立できていないので、既存の営業スタッフを通じての受注がほとんどである。既存の営業スタッフは、必ずしもデジタル・IT系に明るいとは限らず、人によっては苦手意識が強く、避けて通ろうとする場合すらある。そこで営業をサポートするためのスタッフを事業部に置いた。通常であれば、若くて技術に明るい人材を置くところだろうが、50歳を過ぎたベテランの元営業マンを配置した。彼はパソコンを触ることには全く抵抗はないが、決して技術に明るいわけではない。最初は苦労していたが、彼自身の学習と経験を重ねる中で、ノートパソコンを持ち込んでのデモンストレーションや、サイトの企画案を自ら作成し提案できるまでになった。
デジタルメディアに関しては、クライアント自身のオーダーがあいまいな状態で引き合いとなるケースが少なくない。こうした場合は「○○したいんだけど、どうしたらいい?」的なクライアントの問題意識に寄り添い、一緒に考えながら的確な方向性をもたせられるかどうかが重要なポイントとなる。
営業に同行する事業部のスタッフが、技術的な話や最近のトレンドなどを織り交ぜながら、方向性を見いだしていくことになるのだが、技術的な話よりも実際の運営や運用、そのメディアの活用方法についての議論が多くを占めている。
そうした意味では、コミュニケーション能力の高いベテランスタッフを配置したことは正解だったように思う。それは技術的な知識よりも、クライアントの事業や運動を理解し、問題意識を共有しながら方向性を固めていくコミュニケーション能力がまずは求められるからだ。技術的に詰めた話が必要であれば、そういう話ができるスタッフを対応に加えていけばよいわけだが、そこに行き着くまでの過程が重要なポイントなのである。
営業スタッフにしても「技術者」に相談するのは苦手という人でも、コミュニケーション能力の高い先輩スタッフが親身に相談に乗ってくれるので、気軽に相談に来るようになってきている。
また営業が通常の営業活動の中でも、クライアントのニーズを取りこぼさず喚起できるように、自社で開発したサービスやシステムができれば、それ用の販促ツールを作成するようにしている。営業部内の研修でも、度々開発した商品やサービス、ネットのトレンドなどについての講習も行ってきている。
仮に印刷受注では煮詰まった感じになっている相手でも、こうした販促ツールを渡すことで、新たな需要の喚起を促せるし、少なくとも「東海共同印刷さんはデジタルに積極的だね」という印象を与えることができる。こういう印象をクライアントにもってもらわないと、印刷会社だからということで発注対象として意識すらしてもらえない可能性もある。実際に長年の付き合いのあるクライアントからも、「おたくでホームページが制作できるとは知らなかった」と言われたことが何度かあった。
「営業はデジタル案件にも精通すべき」という主張はもっともだが、現実問題として、そういう営業スタッフを短期間で大量に育成するのは難しい。なので、現実的な策として事業部に営業をサポートするスタッフを置いた。そのスタッフと営業スタッフが実際の営業活動を行う中で、OJT的に必要な知識や能力を身に着けていってくれることを期待している。

ディレクターは社内こそ必要

次に重要なポイントとなるのがディレクターの存在である。ある意味、この存在がすべてを決めると言っても過言ではないだろう。そもそもディレクターというものは、ディレクターとして育成しようとするのは難しい。これは印刷分野におけるプリンティングディレクターでも同様だろうが、現場からキャリアアップして、ディレクターになるケースが多いと思われる。印刷とは違って、こういう分野に携わっているスタッフは絶対数が少ないので、意識的にディレクターとしてキャリアアップできる人を育成する必要がある。その手段としてJAGATのクロスメディアエキスパート認証試験を利用するという方法もあるだろう。
デジタルメディアにおけるディレクターは、技術的な話ができる必要もあるし、予算やスケジュールの管理ができることも必要だ。自分でプログラミングができる必要はないが、少なくとも技術スタッフとの間で普通に話ができるだけの知識や素養は求められる。また、同時進行で複数の分野のスタッフが仕事を進めていくので、仕事の管理能力は特に高い水準が求められる。クライアントからの要望をスタッフにただ伝達するだけでなく、スタッフに具体的な指示として変換して伝える必要があるし、できることとできないことの判断や、どこまでをどのように実装するかの判断も求められる。これは予算やスケジュールとの関係でも、判断が求められるケースがある。そういう意味では調整と決断を繰り返し行わなければならない役回りである。特に外部スタッフとの間で仕事を進める場合は、ディレクターの役割は特に重要となる。
一つの考え方として、こうしたディレクション機能も含めて、丸ごとアウトソースするという考え方もあると思う。しかし私としては、そうした考え方には賛成できない。仮にデザインやプログラミングなどの部分を、すべてアウトソースしたとしても、ディレクターだけは内部にもつことが必要だと思う。そうでなければ、デジタルメディアの分野を自社のビジネスとして確立していくことは難しいと思うからだ。
またクライアントの側からしても、制作を依頼したが実はすべてアウトソースされていて、問い合わせをしてもすぐに返事が返って来なかったり、そのつどアウトソース先が対応するというのでは、その印刷会社に安心して発注することはできないのではないかと思う。
どの印刷会社もデジタルメディアの分野は試行錯誤の途上ではないかと思う。自社のクライアントニーズにマッチしたメディアや、サービスを提供していくためには制作の主導権をもっている必要があり、そのためにも最低限ディレクターは内部で育成する必要があると思う。

『プリンターズサークル』10月号より一部抜粋

2006/10/11 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会