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デジタル画像のチャレンジ

質感への挑戦

SF映画などの特撮がCGになってから久しいが、今の映画はSFでなくても実写とCGを合成することは普通に行われるようになり、見ている人もどこがCGであるのか区別がつかない。マンションのチラシも同様で、よくよくみればCGだとわかるのだろうが、通常は気にかかるようなものではない。カタログなどにある工業製品の写真もすっきりきれいなものはCGで作られていることが多い。以前は高額なUNIXのワークステーションで行っていたような仕事も今ではパソコンのCGソフトでできるようになったからである。

その昔、トータルスキャナが出てきた当時に特殊な画像合成や効果をつけられることがうたい文句であったが、そういったことは今日では写真を元にレタッチするよりもCGで最初から行った方が、いかにもそれらしく仕上がる。CGの発達というのは人の目に映る「モノ」の質感を、コンピュータのアルゴリズムで表現できるようにする技術の発達である。その積み重ねの結果、今日非常に多くの物質の質感がアルゴリズムで再現できるようになった。

一方トータルスキャナはレタッチ職人が湿版からフィルムまで、ブラシや針先で手を加えていたことを、画面でドットを変化させるように変えたようなもので、Photoshopでもいくらか演算で加工できるようにはなったものの、大きな変化はない。たとえば画面の中の光源の位置を変えることは、平面を扱うPhotoshopではできない。だから金属の表面の反射具合をレタッチで修正することは困難だが、CGであれば自由にできる。GIFのような低解像度の人物画像を拡大・高解像化する方法もある。人物モデルの構造データに対して、低解像度の画像をサンプリングとして使い、CGで高解像の描画をするものである。

ナショナルジオグラフィック2005年6月号ではツタンカーメンのミイラを0.62ミリ単位でCTスキャンして身体のデータをとり、CGで肉付けした再現画像を発表した。皮膚のそれぞれの部分の雰囲気も、毛髪や毛穴も、瞳も、あたかも写真のような出来映えであった。CG学会のSIGGRAPHでも高品質な静止画に関する発表が増え、今までの静止画の画像処理では不可能であったことが、いろいろできるようになっている。かつてのCGは、金属やプラスチック、無機質なものなどは得意でも、動物や有機質のものは違和感があったが、それらのモデル化というのも非常に進んでいることがわかる。

マルチショット

アナログカメラでもステレオカメラのようなものはあったが、だいたいレタッチの対象になるのは1枚の写真であった。写真と人の目とは特性が大きく異なり、人の目は月明かりの暗さから、真夏の真昼の炎天下までのラチチュードがあるが、そんな感光材料はないので、人が受けた印象のように写真を加工するのは、レタッチする人のセンスで行われていた。デジタルカメラのCCDやCMOS光センサーも感光材料同様に万能ではないが、ほぼ同時の時間に条件を変えて2枚の写真をとれば、それらの合成で表現範囲は広げられる。例えば逆光の人物写真なども、み易いものにすることは容易だ。

人間の目もぞれほど立派なメカニズムではないが「順応」によって視覚を向上させている。こういった目視のシミュレーションもこれからの課題だろう。今でもデジタルカメラでは球面のようなレンズからくる歪の補正をすることができように、レンズ系の限界を超えることも試みられるだろう。例えば、遠近のピントあわせもそれぞれにピントをあわせたものを合成したり、あるいはピントを変えて遠近感を出すなども、デジタルカメラではできやすくなる。

1枚の画像からでは処理できにくいのが光沢感である。人の目は微妙に動きながらモノを見ているので、その時の変化の差分から光沢のような感覚を得る。ガラスや金属、油膜など少し目の位置が変わるだけで光の反射が変わるからである。画像の再現では光沢を強調したい時もあれば、光沢が邪魔になる時もある。要するに自由に光沢をコントロールできるのが好ましい。そのためには、光源を変えた幾つかの画像を合成して処理できると、道が開かれる。

まだデジタルカメラで一度に複数の画像を取り込むことを行っているのは、非常に特殊な分野ではあるが、デジタルカメラの進歩の方向として、これ以上画素数を多くするよりも、複数の画像処理で「写真」以上のものを撮る時代に向かうように思われる。CGによる画像処理もデジタルカメラの静止画の画像処理も共通項が多くなっていき、最終的には融合した世界になっていくのではないだろうか。

テキスト&グラフィックス研究会

2006/11/24 00:00:00


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