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フルデジタル時代のワークフロー最適化

1994年3月からDTPエキスパート認証試験が始まった。DTPを取り巻く環境は1990年代に大きく変化し、近年のDTPは自立とともに合理化が進み、品質を維持、向上するための手法も重要になってきた。
このような環境の中、DTPエキスパート認証制度カリキュラム第7版が発行された。DTPの各要素はフルデジタル化が一段落したが、ワークフローの最適化が重要になる。

カリキュラム第7版では、印刷物制作と密接に関わる知的財産権、個人情報保護法に関する扱いや、印刷会社の重要課題である検査や品質管理について追加された。また、撮影する必要がないなど、コスト面でメリットの大きいCG(Computer Graphics)データは、印刷原稿として扱う機会が増加している。
DTPは、XMLを利用した自動レイアウトによる印刷物やWebサイト制作へのマルチ出力、サーバ上の組版などへすそ野を広げていくだろう。これらは、成長市場とされるデジタル印刷とも関連するものである。
フルデジタル化の時代になって、さまざまなデジタルデータを有効利用するために必要なコンテンツ管理システムでは、メタデータの活用が重要になる。

印刷物制作に関わる権利と個人情報

印刷発注では、創作物がインターネットなどで簡単に流布することができるようになり、著作権問題が以前より重要性をもつようになってきた。同時に企業のコンプライアンスもより強く叫ばれるようになり、印刷物制作と密接に関わる知的財産権や個人情報保護法がますます重要性を増している。
印刷会社は、印刷物制作だけではなく、印刷物で使用される写真やイラストなどの権利処理を行うなど知的財産権との関わりも深くなり始めた。

また、2005年4月から個人情報保護法が施行され、クライアントから個人データを預かるケースが多い印刷会社では、個人情報の扱いがより重要になっている。
一方、DTPは制作範囲の多様化に伴い縦組みを始めとする組版の体裁にも目が向けられてきた。カリキュラムには反映されていないが、組版の結果から体裁の良しあしを判断する試験問題も出題されるようになっている。

RGBデータの最適化

デジタルカメラを中心としたRGBデータ入稿が主流の時代になった。デジタルカメラのCCDなど撮像素子が単純に電気信号として得ただけのデータをRAWと呼び、情報量の豊富さから撮影側で利用されることがある。しかし、RAWデータは、カメラ固有のデータであり、色のバラつき幅が大きいため入稿データとしては適さない。
運用面において画像データのマルチユースを考慮すると、RGBの品質をできるだけ確立して基本データに据え、印刷やそれ以外(Webサイトやデータ配信など)の媒体、目的に応じ適宜変換するワークフローが全体の流れを考えた時には効率がよい。RGBを色の基準にする考え方は、今後も増えていくと考えられる。そのためには、RGBの画像処理が必要とされ、印刷会社のプリプレス部門のもつノウハウが生かされるべきであろう。

また、印刷会社ではデジタルカメラで撮影したRGBデータだけではなく、CGなどバーチャルなデジタルデータを扱う機会が増加している。クライアントや発注者にとってCGデータを利用することにより、完成前の新商品でも、製品の特徴や機能などをユーザーに分かりやすく伝えたり、製品や試作品を準備して、実際に撮影する必要がなくなるため、コスト低減や制作期間短縮などのメリットが大きい。

いつの時代も重要な品質管理

印刷会社は、RGBデータ入稿や印刷を考慮した画像処理、検査・検版に至るまで、さまざまな印刷物について品質を維持して制作する責任がある。
しかし、工程の合理化、自動化によって制作途中に人間が介在することが減少している。例えば、本格的に普及したCTPは、網点再現性や見当精度の向上、ゴミ・焼きボケ発生の減少など、プレート品質の安定と出力工程の効率化をもたらした。しかし、工程が短縮されたことにより人間が不具合を発見する機会はかえって減少し、最終印刷物までミスが引き継がれることもある。従って、印刷物制作全体における品質管理や検査面からCTPワークフローを検討することも重要である。

ワークフローを組み立てる際は、チェックポイントを明確にする必要があり、検査の可視化や自動化の確立も重要になる。
制作の手段やワークフローが変化しても、検査や品質管理は常に印刷会社の最重要課題である。DTPエキスパートは、このような品質管理に関しても新しいルールを作る責務があるだろう。

今後のDTP

従来、DTPはローカルコンピュータ(直接操作するパソコン)に、それぞれ専用のソフトウエアをインストールして編集を行っていた。
今後のDTPは、RGB画像データのマルチユースはもちろん、テキストデータの利用も広がりを見せるだろう。例えば、XMLを利用した自動レイアウト処理によって、印刷物やWebサイトへのマルチ出力が容易になる。各データのあり方は出力からの逆算ではなく、汎用性が高いニュートラルなものが必要になる。

サーバ上の組版では、受発注を含むワークフローが簡素化され、コンテンツ有効利用やアーカイブを重視したものになる。
サーバ上の組版とは、Webサーバに自動組版エンジンやデータベースエンジンなどを搭載して、インターネットを通じて顧客自ら原稿・編集、デザインテンプレート選択、校正・承認、発注できるシステムである。顧客やユーザーは、Webブラウザを通じてシステムを利用するため、ローカルコンピュータにソフトをインストールする必要がない。

これらはバリアブル(可変データ)プリントのための編集の基盤になることもある。特に、名刺やダイレクトメールなどの制作に効果を発揮する。
デジタル印刷の市場は、バリアブル編集ソフトと高性能化・高品質化が進んだデジタル印刷機の登場により、さらに新しい用途開発が進められ拡大するだろう。

また、コンテンツ管理システムは、テキストやグラフィックスなどのさまざまなデジタルデータを有効利用するための重要なファクターである。受注側と発注側にまたがるコラボレーションや、MacとWindowsの共存、ネットワークを介した素材データのやり取りなど、より自由度の高い作業が求められる。
コンテンツには、データの内容や属性を表すメタデータが記述され、メタデータを参照した検索や管理が行われる。DTPの分野でもAdobeアプリケーションファイルにメタデータを埋め込む技術(XMP)として製品に実装されている。

以上のことからDTPエキスパートカリキュラム第7版では、知的財産権や個人情報保護法、縦組の組版、デジタルカメラのRAWデータ、デジタル印刷、品質管理、表面加工、XML文書のレイアウト、メタデータなどの変更が加えられた。
また、印刷物に利用される機会が増加している3DCGなど新たな内容が加わるとともに、パソコンの古い機能に関する項目を削除している。

(DTPエキスパート認証委員会)

2007/01/06 00:00:00


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