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メディアの百家争鳴時代

21世紀のメディアの潮流を作り出すのはボーンデジタル世代であることを、「誰がネットビジネスの舵取りをしているのか?」で書いたが、ボーンデジタルの世界だからといってGoogleのようなシンデレラはなかなか登場するものではない。一般の人の評価としてはWeb2.0のような使い勝手やサービスは高いものではあっても、ビジネスとしては当分は旧来メディアの方が安泰であり、大樹に見えるだろう。そのために新技術に期待しつつ、既存メディアにも擦り寄るという戦術が、メディアビジネスには横行するようになる。

昔から、「best of both world」と称したもので成功したものの試しはない。だから新旧共存路線は安全そうに見えても、相矛盾するコンセプトをベースにしてしまうと足元がふらつくので、努力の割りに成功しなくなるリスクは高いのである。ADSLとFTTHの両方を売っている場合を考えると、顧客の判断にゆだねることでどちらも販売できるメリットはあるが、FTTHが伸びるとADSLは減るに決まっているから、売りっぱなしではなく上手に頃合を見計らってADSLからFTTHに乗り換えてもらうことをしなければならない。要するにアフターやフォローは余計にかかり、それを怠れば信用を失う。

こういった方法は目下の売上げを優先して、先にツケを廻してしまがちで、新技術一本で攻め立てる競合者がいたならば、ハンディを負って戦うはめになってしまい不利になる。紙メディアとオンラインメディアをクロスするビジネスというのも、2枚舌になりそうなところをうまくバランスさせなければならないという似た問題を抱える。制作のようなソリューション的業務では舌が2枚あろうが3枚あろうが、その時点で顧客の業務にとってベストなものを提供すれば満足はしてもらえる。だが顧客が先のビジョンを気にかけているならば、舌は1枚の方が信用は得られるだろう。

というようなわけで技術に関しては、若干経験が不足していても舌が1枚のボーンデジタル世代に期待がかかっていくことは間違いないだろう。ではコンテンツ提供などのサービスもボーンデジタル世代が出てくるのだろうか? それとも新聞社がテレビ局を開設したように多くは既存メディアからの移行組になるのだろうか? 既存メディアが全滅するわけではないから、当面は移行組が目立つとしても、Appleが音楽を売るような例がつき次と出てくるのだろうか? まだネット新聞とかネット週刊誌すらない。あるいはそういうアナロジーでなく取材から編集までをきちんとして収益も得られるネットメディアがでるのだろうか? 言い換えるとネットは広告モデル以上のビジネスができるのだろうかということにもなる。

近年は楽天などネット販売が伸びたがテレビショッピングも伸びた。韓国のテレビショッピングもインターネットショッピングとともに急成長したが、2003年から鈍化している。テレビショッピングの特長は強烈な刺激度にあり反応が早いが、一時魅力的に見えた商品も後で落ち着いて振り返ると必要性に疑問をもつこともあろう。キワものに魅かれることもあるし、それを扱うビジネスもミズものになりがちかもしれない。電通が日本の総広告費と、媒体別・業種別広告費を推定した「2005 年(平成 17 年)日本の広告費」を見ると、総広告費の3分の1を占める最大媒体テレビであっても、分野別に見るとへこんでいるところがあって安泰ではなく、媒体の利用パターンの模様が塗り替えられているようにも見える。

このデータからは、広告に関する限り雑誌の牙城は婦人向けのものだと思える。絶対額ではテレビよりも小さいが、比率では雑誌の方が重視されている。これはAIDMA(Attention注意→ Interest関心→ Desire欲求→ Memory記憶→ Action行動)で考えても当然で、テレビはAIDMAのAに比重があるのに対して、雑誌はMに強い。雑誌の取り扱い方や反復回数・広告への滞留時間などもTVより多くすることができる。つまりテレビと比べると、雑誌は商品情報と落ち着いて向かい合うメディアともいえ、ブランド品などの婦人向けのある商品群はそこをうまく利用していると思われる。雑誌は雑誌ならではの広告に力を入れて生き延びることになるのだろう。

その雑誌広告に金額面でインターネット広告が追いついている。テレビらしい広告としてのテレビショッピングの要素も、雑誌のブランドイメージつくりも、インターネット広告は取り入れようとしている。インターネットにはインターネット独自のCGMをうまく取り入れた手法がある。一方で既存メディアがインターネットを創造的に使うことは今まではできていないが、やっと本格的な取り組みが見え始めた。CESでは、「新旧メディアのギャップはもはや存在しない」--米CBSのCEO--という勇ましい発言もあった。日本でも新聞社がポータルサイトにニュースを提供するだけでなく、地方新聞と共同通信が自分たちでネット上にニュースポータルを作っている。

PAGE2007では、いままでおとなしく牽制しあっていた新旧いろんなメディアが自分の強みを明確にして、本気でぶつかりあうのが今の21世紀の始めの段階であると捉えて、基調講演A0 21世紀のメディア環境はこうなる を行います。ご期待ください。

2007/01/18 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会