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紙媒体は乗り越えられたか

PAGE2007コンファレンスデジタルメディアトラックにおいては2つのクロスメディア関連セッションがあった。面白いことにそれらのタイトルと内容は若干交錯していて、両方聞くとうまくバランスして捉えることができたような気がする。C3セッション紙メディアからクロスメディアへでは凸版印刷と大日本印刷からは、基本的には紙メディアで行っていたビジネスを土台として、Webなどの新たな活動領域を広げていく話があった。紙メディアと違う次元のビジネスを始めるのではなく、進化的な展開である。一方、C6セッションクロスメディアの進化では、交通広告の代理店NKBとゴルフダイジェスト・オンラインから、意外にもWebでのパブリッシング的な話があった。どちらかというとC6セッションの方が紙メディアの及ばない領域をWebメディアが手がけた例といえる。

ゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)という名称からは、雑誌出版の延長上にオンラインショップを開いたようなものを想像しがちだが、実は先にポータルサイトとECのビジネスプランがあって、たまたまゴルフがスポーツ市場の中で非常に大きいのにも関わらず、ネットの先駆者が不在であったので、株式会社ゴルフダイジェスト社と提携してオンラインショップの会社を創ったものである。折りしもバブルの崩壊でゴルフのビジネスモデルは変わり、法人の接待ゴルフや会員権での資産運用という点では沈んでいき、個人のレジャーとして出直さなければならなくなっていたので、Webの会員制にして顧客と直結してサービスを充実させていく方法が受け入れられて伸びてきた。

GDOは当初からビジネスモデルとして、ゴルフ場予約、ゴルフ用品販売、ゴルフに関する媒体の3本柱のシナジーでポータルサイトを発展させていく戦略であり、これらをすべて自社運営している例はアメリカにもないという。ゴルフダイジェストは雑誌部数としては月刊が14万部、週刊が23万部でこの分野では1位ではないが、Webの会員は100万人を超え、ダントツである。ゴルフという分野以外と比べても@cosmeと同じくらいのアクセスがあり、延べ滞在時間ではAllAboutクラスになり、スポーツサイトとしても日刊スポーツの次くらいになっている。会員数が40万くらいの時に東証マザーズに上場し、その後も一直線に伸び続けている。これはサイトのサービスが発達していて、ゴルフのニーズをすべて立ち上げるという方向性でやってきたからという。別の言い方をすると、特定の機能に特化しなかったことを意味する。

GDOの一部の記事は雑誌からの2次利用であるが、GDOの持つ各種メディアは独自のものであり、GDOの立ち上げから雑誌に頼ることなく、マスメディアなどを効率的に活用してきた。つまり庇を借りて母屋を…という展開ではなく、最初から雑誌と平行ながら独立して事業展開してきた。またゴルフ場の世界は一元さんには敷居が高いが、GDOの会員なら個人でも主要ゴルフ場でプレーできるようにしている。国内2400ゴルフ場のうち1400コースと提携している。オンラインのゴルフ場予約としては最大のサイトではあるが、まだ市場の数パーセントしか押さえていないので、ビジネス余地はまだ大いにある。ゴルフ用品販売についても流通センターを独自に持って運営している。物販ではメーカーの販促支援とか、多様なコミュニティサイト、モバイルサイトまで、オンライン雑誌的なメディア事業以外にもWebで出来そうなことは実に多様な取り組みをしている。

ゴルフをする会員が100万人もいるのでCGM的な役割も大きいようだ。人気コースランキングは何十万人からのデータで作られる。販促にBlogの利用、予約にモバイルの利用、営業マン紹介Blog、他の会報誌との共同企画などなど、お話を伺えば一つ一つは特別のことではないような方法でも、着実にモノにして網羅的な展開をすることで、厚みのあるサービスができて、前述の3本柱のシナジーとともに、会員の信頼をも厚くしている。

NKBの東京メトロと共同事業の東京おでかけサイトについてはまたの機会に紹介するが、2年ちょっとで会員が21万人で、これはGDOが6年半で100万会員と似たペースである。この2年で、掲載データは年間3万3千スポット、10万イベント、BlogライクなCGMが3万件のコンテンツを持つに至っている。この2社とも量的にも質的にも紙の出版ではちょっと無いような発展をしている。紙媒体は先輩であるという自負をもっているところは多いと思うが、こういった紙媒体の力を借りないで信頼されるところまできたサイトは各分野で生まれている。しかもこれらの情報発信やサービスを紙媒体で追いかけることは、もはや不可能なところにきているのではないかというのが、今回のセッションの印象である。

2007/02/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会