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40年経っても斬新な技術

当時はアマチュアのパソコン青年であったAppleのスティーブジョブスがXeroxのパロアルト研究所を訪れて、衝撃を受けてLisa/Macintoshを開発した話は有名だ。そこでジョブスが見たのは、wysiwygと、イーサネットと、オブジェクト指向の3つの要素であり、Appleではwysiwygしか製品化できなかったが、自分でNeXTをおこして、他の2要素も取り込んだ。それらは当然今日のMacOSの背骨になる技術思想であるし、実際のビジネスとしてはマイクロソフトが先行して世界中に広めてしまった。

ITの世界は日進月歩で技術の陳腐化が激しいといわれるが、Xerox社パロアルト研究所を率いたロバートテイラーらが考えたコンセプトは40年近く経ても斬新であり、未だにそれらをベースにしていろいろな分野で切磋琢磨がされている。印刷の世界でも当たり前になったwysiwygやネットはパソコンOSベンダが手がけ、オブジェクト指向はAdobeなどのアプリケーションベンダが貢献した。しかし、ネットやオブジェクト指向という点ではまだこれからである。

とりわけAdobeはオグジェクト指向という考えをグラフィックスの世界に持ち込んだ立役者であったが、3Dについては今まではそれほど積極的ではなかった。しかし3Dこそオブジェクト指向の真髄であり、従来はCADソフトでレンダリングした後の2次元画像をphotoshopで修正していたような作業方法であったが、Adobeがオブジェクト指向を貫くなら、これからは3Dのオブジェクトのまま見栄えのコントロールもする方向に行かざるを得ない。

オブジェクト指向はグラフィックスだけではなく、テキストでも同じで、イメージングとか表現をする最終段階までオブジェクトのまま保持しておいて、直前の修正も可能なようなレイトバインドの考え方で、これによってオンデマンド云々とかリアルタイムに連携した処理が可能になる。かつての電算写植のバッチ処理の世界がXMLのタグとして処理していいことがあるとすると、出力が紙でも画面でも、顧客やクリエータが作った元データを繰り返し加工することを極力減らして、一挙に成果物を作るという競争のスタートラインにつけることである。

PDFもオブジェクトを集めて持っているという理想とは裏腹に、現実には扱いにくい面があって、レンダリング後のイメージを扱う業界規格が産まれたが、やがてそれらは元のオブジェクト指向に戻っていくだろう。コンピュータの処理能力が高まれば高まるほど、レンダリングなどの出力工程の価値は低くなり、そこに向けてどのようにしてなるべく自動的にデータを纏め上げるかというプロセスとかワークフローの設計に価値が移っていくからだ。オブジェクト指向のバッチ処理は過去のそれよりもずっと奥行きが深いといえる。

テキスト&グラフィックス研究会 会報 Text&Graphics 2006年12月号より

2007/03/01 00:00:00


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