PAGEコンファレンス、「プロデューサー、ディレクターへの道」は、クロスメディア時代の人材育成を主題に展開した。その中で印刷業界外部の視点から、組織に必要な人材やスキルを説いた、小野打恵 氏(ヒューマンメディア代表取締役社長・プロデューサー)の話を要約した。
これまでの印刷産業と、デジタルコンテンツ&Webコンテンツ産業、この2つのどこが違い、どこが同じなのかを考えてみたい。まず、「クライアントが同じ」という点が重要だと思う。つまり今まで、印刷物を納品してきた、あるいは映像やイベントを納品してきた得意先や広告代理店に対して営業が続けられるということである。得意先が変わってしまうと、1から開拓しなければいけない。
異なる点について考えていくと、まずプロセスが変わってくる。Webサイトは納品時点がはっきりしないこともある。印刷物であれば「納品すれば終わり」であった。コンテンツの上流のほうにいるデザイナーや編集者は校正も見るし完成品も見るが、「入稿」という終わりの時点があった。
次に体制が違う。印刷は全体の中の部分であり、印刷というものだけを買う人はいない。印刷されたものは、当然何かしらのコンテンツがそこに反映されている。全体を捉えていくと、それは広告宣伝、PR活動なのか、対価を得る商品として印刷物が売られるかのどちらかである。印刷はある種のメディアコンテンツビジネスの部分だが、その全体を捉えていないと、Webサイト及びデジタルメディアの仕事はできない。
全体を捉えるためにプロジェクトを組むという流れが生まれ、その中でプロデューサーやディレクターの役目が重要になってくる。プロジェクトは、1つの会社の中で形成されるものではないことのほうが多い。印刷は今までメディアコンテンツビジネスの中の部分であった。入稿データを受け取ったところから紙に刷って納品するところまで、1つのプロセスとして1つの社内でやってきた。
場所、組織としての会社というものは、組織運用上は結構重要だが、仕事上では会社より、プロジェクトが優先する。もちろん、プロデューサー、ディレクターに求められるスキルも変わってくる。もう1つ、得意先は同じだが、得意先のニーズも変わってくる。
業界ごとにプロジェクトに携わる人の名前は違う。例えばディレクターの部分を映画では監督と言う。編集・テキストディレクションはシナリオ作家になる。デザインディレクションは美術、映像・音声ディレクションの映像は撮影監督になる。広告に置き換えると、アートディレクター、コピーライター、デザイナーと、業界ごとに名前は違うが、普遍的な構造があるだろう。Webサイトでも同様だ。
Webサイトを作っていくとき、映像・音声を扱わない静的なものなら、プロデューサー、ディレクター、テキスト編集、デザインディレクション、プログラマー、運営ディレクションの6人でできるという理屈になる。
しかし、小さなサイトでは6人もかけていないことが多いと思う。誰かが兼務しているはずで、例えば編集者出身のディレクターの場合、全体のディレクション機能と自らの編集ディレクション機能を自分の中で切り分けられていないことが多い。さらに、その人が営業トークも上手で、プロデューサー、即ち営業マンもやっていたりすると、すげ替えが難しい。例えば文章を書くのは得意だが、プログラムのことはよくわからないので全体のディレクションは難しいという後任者が入ってきた場合、そのまま引き継いでしまうと、全体の統括というものが壊れてしまう。あるいは、営業トークはできるが下をやったことがない人が現場に入れば、混乱することは目に見えている。兼務であっても、それぞれの要素を誰が兼務しているのか、どういうプロジェクト体制なのかを考えるのは重要である。
プロデューサーにしても、クライアント対応、プロジェクト体制管理、スケジュール管理、予算管理、プロモーションと、当たり前のようだが、これら全部をこなすのは結構なスキルである。1人の中にはでこぼこが出てくることが多いと思う。
映画の世界で、日本ではプロデューサーは陰に隠れている。一方アメリカの場合、俳優でも映画監督でも儲けるとプロデュースをやる。だが、仕事の半分くらいは資金調達である。制作資金をどこかから調達してきて、映画がヒットしたら還元する仕組みを作る。 映画業界の人に聞くと、資金に特化したプロデューサーはいるが、その人が映画を撮る現場を仕切る制作プロデュースが得意かというと、そんなことはない。プロデュース業務も、例えば制作プロデュースと資金プロデュースと、それからプロモーションという映画公開時の宣伝プロデュースというように機能を分解して考えて、本当は3人くらい立てたほうがうまくいくという話を聞く。
日本の企業は実直なところがあり、人から受注したものは全部社内で作る、社員が面倒を見て作るのが一番正しい姿だということでやってきたところがある。
Webサイトでも社内での体制が組めるという経営もあるとは思うが、それは1つの特殊な姿と考えたほうがいい。例えば、プロデューサー、ディレクターはそれぞれの役割でコントロールできる人がいて、さらに専門スキルが必要なところは外注するというスタンスの、トータルな管理型もあると思う。
また、プロデューサーと、メインになるディレクターと、文字系とデザイン系のディレクターだけ社内にいて、映像・音声等の求められるものが多様になるところ、技術的なプログラミングやサーバの管理・運営が必要なところは社内に置かずに全部外注でやるというような体制もあり得る。
これらはクライアント企業と直接取引をすることを想定に書いているが、多くの場合、中間の広告代理店やデザイン会社が印刷発注してくる。そういう場合はプロデューサーを置かず、全体のプロデュースはそれができる有能な人に任せて、プロデューサーに気に入られているディレクターになる、そういう人を育てるプロジェクト体制でもいいのではないか。さらに、今まで装置産業型で、いい印刷機を持っていて早く刷れれば儲かるというふうにやってきた会社にとって多少馴染みがあるようなやり方としては、レンタルサーバを持って、その運営だけをやっていくようなやり方もあるのかもしれない。
これは、どれが良い悪いではなく、社内で持てる資源、あるいは個人が持てる資源を考えながら、どういうパートナーと組んでいくと自分の仕事がうまくいくのか、その組み方を考えるということだと思う。
2007/03/14 00:00:00