JAGATの印刷マーケティング研究会は、その会報「FACT」の1994年11月号で、「一枚の看板から数万枚のパーソナルDMまで−オンデマンド印刷の基盤を考えるー」という記事を掲載した。このタイトルは、当時のオンデマンド印刷市場に関する一般的な議論に疑問を持ち、オンデマンド印刷の市場とはどのようなものかを考察した結果つけたものである。
「オンデマンド」印刷は「必要なときに、必要なものを、必要な量だけ」印刷する、という意味で使われた。それは、DTPの登場によって、プリプレス工程のコストと時間のバリアがなくなる中で、電子丁合のようなそれまでのコピー機にはない機能を持ったカラーのデジタル印刷機が登場し、印刷物制作に関わるさまざまな問題の解決、あるいは潜在的ニーズの充足が可能性になったことを表現した言葉であった。
従来の印刷物作りでは、全コストに占める固定費の割合が高く、小ロットの印刷はバカ高いものにならざるを得なかった。刷版までのプリプレス工程での固定費、長い時間を要する印刷の準備作業に掛かるコストである。それまで、極小ロットの仕事が多いポスターの複製には、さまざまな方法が考えられたがそれらが広まることはなかった。また、印刷にいたるまでに多数の工程を経るために納期短縮にも限界があった。差し替え変更による再版の場合も同様である。
以上のような状況に対して、顧客は潜在的に大きな不満を持っていたが、従来の技術体系ではどこの印刷会社でもその不満を解消することができなかった。印刷業はそれまでも、顧客の要望を満たすための努力をしてきたが、いずれも、各工程の部分的な合理化や生産性向上の範囲でしか対応できなかった。顧客満足のためには、総合的なサービスができるシステムを根本的に考え直さなければならない時期に来ていたのである。そのような中で、DTPとデジタル印刷機を組み合わせたシステムが可能性になり、そのシステムで提供できそうなさまざまなサービスが「ショートラン」、「バリアブル」、「オンサイト」といった言葉で言い表された。そして、これらを包含する意味で「オンデマンド」という言葉が使われた。
ここで、「バリアブル」を除く他の言葉でいい表されたことは、「ジャスト・イン・タイ」という言葉に集約でき、この「ジャスト・イン・タイム」での印刷物提供は、どのような印刷物製品にも要望されることと考えた。そこで、「一枚のポスターから数万枚のDMまで」というタイトルをつけた。
このタイトルは、当時のオンデマンド印刷市場に関する一般的な議論への疑問、問題提起の意味でもつけたものである。疑問とは、市場についての議論が、その時点で出されたデジタル印刷機でできる範囲でのみなされていたことである。
「ジャスト・イン・タイム」での印刷物提供のためには、対象とする印刷物のサイズ、加工仕様、ロット等によって、それぞれに適する印刷・後加工システムは、ある幅を持ってではあるが対象製品毎に専用的なものになり、印刷工程では、プリンター、デジタル印刷機、枚葉平版印刷機、そしてオフ輪も含めて、さまざまな印刷手段を使ったシステムになると考えた。つまり、市場を考えるのに、市場そのものから見るのではなく、「まず、デジタル印刷機ありき」で、そのときに出されていたデジタル印刷機の機能で何ができるかという視点で市場を見ることはおかしいのではないかという問題提起である。
そして、1994年当時の「オンデマンド印刷」の議論は、「ショートラン」印刷市場に集中していた。それには、アメリカからの情報によるものだったが、その情報を鵜呑みにして、日本の現実を見ない議論がなされていた。そのことが、多くの人に意識されるようになったのは、ほんのこの1年ほどである。
2007年11月
2007/11/16 00:00:00