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ソフト・ハードから、プラットフォームへ

(有)清水メディア戦略研究所
代表取締役 清水計宏氏

WikiワークプレースやWiki的なメディア、Wikiノミクスなどがトピックスとなってきた。実は、コラボレートや共有してつくるツールとかアプリケーションやコンテンツというのは、皆さんが意識的にやっているもの以外に、無意識的にWikiをやっているというものもたくさんある。iPodとかナップスターとかMP3音楽を使ったことのある方はたくさんあろう。

CDをMP3に落としたりする時に、CDを入れるとそのデータが出てくるのは、当たり前と思っているかも知れないが、そこに英会話の本についているCDを入れてもデータが出てくる。これは、CDにデータが入っているのではなくて、実は別のデータベースからネットを経由してとっている。そういうデータというのは、実は皆さんが入れたデータなのである。

iTuneでもそうだが、すごく昔の音楽CDでそのもののデータが表示されないときには、自分でデータを入れることになる。そのデータが、Gracenoteというデータベースに蓄積され、多くの人のチェックを経るなかで、そのデータの信憑性が高くなる。どんなCDやDVDであってもそこからデータが取れるようになる。そしていまや世界中の音楽のトップ何位とかが全部Gracenoteのところから見られる。Gracenoteはたった200人程度の会社であるが、世界中の音楽のデータを持っている。

今まで、知の共有は本・出版物で行われてきたが、いまやグーグルなどでもそうだが、サーバに入っている。それも大学や政府ではなくて、米国のベンチャー企業のサーバに世界中のデータが入っているようになっている。知識とか音楽とか映像だけでなくていろんなものに使われるデータがどんどん米国のサーバに蓄積される。日本のサーバに置くと違法になったりすることもあるので、日本には集合知にあたるようなデータの集積されたサーバがなくなってきている。これは危機的状況である。

2008 International CESでは、YouTubeなどの動画共有サイトにアップロードされた映像や音楽について、どこのタイトル、音楽がどこからどこまで何秒使われているかが、瞬時にわかるアプリケーションが発表された。たとえば映画『スター・ウォーズ』シリーズの戦闘シーンだけ集めたビデオがYouTubeでアップロードされている。そのビデオクリップをツール上で再生するだけで、それぞれのシーンは何作目のどのシーンで、音楽はどの部分を使っているかなどが瞬時にざっと出てくる。

これからは、たとえば街角を携帯のカメラでスキャンしただけでその街角に関するデータや情報が入手できるようになる。予め、その街のフィンガープリントのデータベースができていて、そこにアクセスするだけで、あなたがいるのが御茶ノ水とだ分かるとそのそばには、こういうものがありますとか表示してくれる。デジハリだと分かれば、入学案内までダウンロードできるようになるだろう。

また、こんなことも可能になるだろう。携帯で、セミナーの聴衆に向けて、携帯のカメラでスキャンすると、皆さんの携帯がオンにされてデータを相手に提供してもいいように設定してあれば、顔の認識データもどこかのデータベースから取られてきたりして、名刺情報については、名刺交換しなくても一瞬で携帯に取り込めるようになる。

携帯が携帯電話として単独で使われる時代も終わるだろう。たとえば、携帯はディスプレイが小さいが、大きく見たいと思ったら、郵便局でもNTTでも街角に新設される情報ステーションにいって、そのドックに携帯を差すだけで、そこにある大画面で携帯の中に入っているデータを見ることができる。自宅であれば、テレビに向けてデータを送るだけで、携帯に入っているコンテンツがアップコンバーターされて見られるようになる。つまり、ひとつの機器が単独で存在するのではなくて、いろいろな機器と連携しあいながらいろんな作業をしたり、コンテンツを楽しんだり、勉強ができるようになる。

International CESでは、モトローラがZ10という携帯端末を発表した。それには、映像編集機能がついていて、携帯電話にビデオを撮って、自分で編集してワンボタンでYouTubeとかMySpaceにアップロードできる。なおかつSNSなどでそれと関連したデータをすぐに探せる。携帯端末で映画的なコンテンツを制作したり、ビデオ編集ができたり、マッシュアップができたりする。つまり、ひとつの機器だけでオンライン上のサービスとかが、すべてつながるようになってきた。

Amazon.comは、ワイヤレスの電子書籍リーダーKindleを出した。非常に売れていて、現地でもなかなか手に入らない。いままで日本では、いろいろな電子出版の試みがあったが、メーカー主導であったり、技術オリエンテッドだったこともあり全部失敗している。ところが、一定以上のアクセス数を確保しているプラットフォームがあると成功しやすい。オンライン上の2大ビジネスは、プラットフォームビジネスと広告ビジネスであるが、プラットフォームを持って、クリティカルマスのアクセス数があれば、いろいろなビジネスができるようになる。ハードウェア、ソフトウェアにプラスしてサービスをまとめて、全体的にプラットフォームビジネスにしないとだめなのだ。

広告ビジネスは、皆さんが思っている以外にも、もっといろいろなビジネスが生まれる。誰でもネット上でマイクロエコノミーをするようになれば、だれもが広告を出す時代がやってくる。そうした中で日本は遅れている。。日本の市場は、ご存知のように少子高齢化の中、個人の五感の数も減ってきているから、いろいろなビジネスに閉塞感が出てきている。国内だけでなく、グローバルに展開することがとても重要なことになっている。

実はデジタルの力は、破壊する力が先行する。この5〜10年デジタルの力で、成長したメディアビジネスはコンシューマが作るコンテンツ以外にない。映画、新聞、出版、音楽などの業界はデジタルの力でかえって衰えた。だから、デジタルの力はメディアにとっては何のメリットもなかったように見える。、だが、そうしたなかで、コンシューマのつくりだすコンテンツの市場を喚起し、コンシューマがWiki的に参加するビジネスで、新しくプラットフォーム・ビジネスが生まれている。

いまや、Yahoo! JAPANのオークションの取引額は1兆円を超えて、米国のeBayは約3兆円になっている。つまり大型デパートをもしのぐぐらいになっている。こうしたニッチのニーズ、ウォンツの集約こそオンラインビジネスの真髄だろう。ものすごいスピードで、人間の生活が変わる中で、将来を展望していこうというのは、大変に難しいことだが、PAGEコンファレンス、クロスメディアコンファレンスでは、ぜひ2008年を展望していただき、皆さんのビジネスに生かしていただきたい。





写真はプレイベント会場の様子。PAGE2008ブログでは、担当者がPAGEに関する話題や打合せでの裏話など、さまざまな情報を更新していきます。

(2008年1月)


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近年大幅な市場拡大が見込まれる電子出版・電子書籍の新たな動きをはじめ、コミュニケーションツールとして今や不可欠となったWebサイトのブランディング施策や、Web表現のベースとなる新たな技術、また、新しいビジネスに果敢に取り組んでいる事例も紹介。

2008/01/22 00:00:00


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