PAGE2008コンファレンスのグラフィックトラック「広色域印刷の品質を追求する -分光画像原稿で比較する-」(2月8日10:00-12:00に開催)について報告する。JAGATではオペレーションなどのハウツウを解説するものをセミナー、技術的・ビジネス的・戦略的な見地で示唆を与えられるものをコンファレンスと呼んで区別しているが、この「広色域印刷」のセッションもコンファレンスに属しており、このセッションは研究的比重をかなり濃くして企画したものである。つまり従来の広色域印刷のメーカーや印刷会社を集めてきてセミナーをするのではなく、原稿撮影から入稿、比較分析までJAGAT主導で行ったものである。おかげさまで図1の様に会場は90人を越える聴講者で熱気に包まれホッとしている。
セッション内容はNTTデータの橋本博士に分光的色再現の必要性と現在のデジカメで分光撮影をする場合の詳細について、つまりデジカメの色感度等をさらっと紹介いただいた。しかし見る人が見れば各デジカメの基本性能が一目瞭然でモデレーター的には正直あせってしまった。締めとして庄司氏が各印刷物の分析を行ったが、これも見る人が見れば印刷特性の120%位が白日の下にさらされている。そして特別ゲストとしてLEDバックライトモニター開発者であるSAMSUNG電子のChoi Chris氏や電塾運営委員でカメラマンの阿部氏を交えて有意義な二時間のセッションにまとめられたと思っている。関係者の皆様に感謝申し上げたい。
さてsRGBが良いとかAdobe RGBが良いとか言っていた時代(今でも言っているのかもしれない?)は、sRGB画像を広色域印刷の原稿データとして使用することもあった。図2をごらんになれば分かっていただけると思うが、小さい黒線五角形が通常の枚葉印刷Japan Color 2001で、大きい赤線の五角形が広色域印刷(ここでは四色広色域インキのKaleidoを例にしている)の色再現色域であり、大きな三角形がAdobe RGBなので広色域印刷はAdobe RGB領域をも部分的にはみ出しているのが分かるだろう。これではsRGBデータを写真原稿として広色域印刷しても通常印刷も品質差がつかないのは当然である。挙げ句は不必要なレタッチを施し彩度だけ無理矢理上げてベタっとした仕上がりにしてしまったりしていたわけである。広色域印刷には最低「まともなAdobe RGB画像」が必要なのだ。まともなといったのは今でもデジタルカメラによっては「名ばかりのAdobe RGB」という機種も存在しているからだ。それだったらAdobe RGBではなく色の絶対値であるLabで入稿した方が広色域印刷の性能を最大限発揮出来ると考え、今回は色情報を三原色ではなくスペクトル自体で取り込む6分光カメラ(図3)を利用して、単に色域を広げるだけではなく色の調子まで残すことに注力したわけである。NTTデータさんでは元々CIE XYZで吐き出す機能を持っていたので、Lab Tiffに変換する治具ソフトを作成したが、撮影も人口太陽灯を使用し、被写体にはモルフォ蝶や蛍光の糸などを用意し、電塾の阿部氏にお願いして特別な撮影を試みた。(図4)
今回実験に使用したのはデジカメデータそのもののAdobe RGB(図5)、6分光から変換したLab Tiff(図6)、Lab Tiffから200色くらいにモザイク化してチャートにしている画像(図7)だが、三つともLabを基本としているので16bitであるのはいうまでもない。前述したように6分光カメラを使用したのは色の調子を正確に入稿したかったためであり、色域の大きさだけに注目されると非常に心外なのだが、色域は図8のようにモルフォ蝶の羽がAdobe RGB領域からはみ出しているのが分かると思う。ここまで色域が大きくなると広色域印刷の種類によって再現するもの、しないものが出てくるはずだ。
しかし各社への依頼は「紙やベタ濃度、その他条件はお任せで、Labを正確に再現できれば良いですよ」というものだったが、「印刷基準を決めないのはおかしいんじゃないか?」というクレーム等が相次いだ。「Labとは何ぞや?」そのものから説明して納得してもらったが、チャートとして作成したものまでトリミングされる始末で、測色して色差を出すという行為そのものの普及もまだまだという有様だった。それでも広色域印刷の種類としてKaleido、湧水、NOVASPACE、Hexachrome、SFC、スペクタカラーの六種類(図9)の詳細なデータを取ることができて満足している。単なる良い悪いではなく有意義に活用したい。頑張って色域を伸ばそうとしてインキを盛り過ぎて色差が大きくなってしまっているもの、わざわざ彩度を上げるICCプロファイルを使用して悪い方へ悪い方へとずれてしまったもの等、数値で分析すれば一目瞭然であった。庄司氏がこの辺を詳細分析をしてくれたのだが、今回の目的が競争ではないので公表は控えさせていただく。一つの例として図10が全体色差についての一例、図11が特定色相(赤)についての一例である。今回は一番特別なことをしていなかった四色広色域インキが総合的にまとまった結果を残していたが、無理をしなければ他のものも色差は縮まるものと期待している。単なる見た目の評価ではない標準データにどれだけ忠実に再現したか?というのは大変重要な要素である。JAGAT的にはこの辺の啓蒙に力を入れていく積りである。
また、Lab入稿が無事出来た背景には広色域のモニターを忘れてはならない。通常のJapan ColorならAdobe RGB領域のモニターでなんら不足は無いのだが、広色域印刷になるとSAMSUNGの開発したAdobe RGB 130%相当のモニターは本当に役立った。今回の実験には韓国水原のSAMSUNG電子の図12で解説していただいているChoi Chris氏には大変世話になった。図13は24インチモニターを調整している文(ムン)氏。このように日本を中心として性能の良いモニターが革新されていくのは日本人として誇れることだと思う。最後にセッション風景を再び紹介しておく。スピーカーの真ん中がNTTデータの橋本博士、向かって右端が庄司氏、左が私ことモデレーターの郡司である。
(研究調査部長 郡司秀明 2008年3月)
2008/03/15 00:00:00