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進む技術とビジネスモデルの確立

印刷技術とは複製技術と流通技術であり、それらの登場が社会革新を起したという歴史がある。そうした歴史を見るとき、今起こっているデジタル複製とネットワーク流通が社会変革を起さないわけがない。それは新たなビジネスチャンスが生まれるということである。文字情報流通という点で、既に我々は劇的な変化のなかにいる。――モデレータの東京電機大学植村八潮氏の認識が示され、PAGE2008デジタルメディアトラックC1セッション「電子出版・電子書籍の展望」は幕を開けた。

まず、パッケージの活用という切り口から、凸版印刷よりご登場の斎藤伸雄氏と大石英司氏に、フリーDVDのビジネスについて語っていただいた。 パッケージの特性を活かしつつ、独自の技術や工夫によってインターネットと融合させたサービス展開をしている点が面白い。これまでのターゲットのなかで一番手応えを感じているという、20代後半から30代の働く女性層を狙った映像メディア、MIRAIEを例にとって説明があった。

DVDといえば、それまでは受身で映像を見ることが中心であったが、MIRAIEは利用者に映像を見ながら実践する(例えばメイク)というスタイルを促す。当然、コンテンツは繰り返し観られることになる。一般の屋外広告やフリーペーパーと違い、映像を流しながら配布すると、自宅でDVDを実際に観てもらえる率が高まるという。さらに、映像で取り上げた商品のサンプルをつけることで、視聴者は映像を観ながらそれを手にとって試用できる。イベントで映像を見せ、自宅に持ち帰ったDVDで再接触、そして最終的にインターネットでもコンテンツに接触してもらうという流れができる。ネットとの連動性を高めるため、独自技術に支えられた専用ビューアを用いており、そこでポイント制やバナー広告の配信、コンテンツの連携を実現している。TVのように視聴率などデータも取得できる技術も備えている。 会場で実物が配布されたので、ご覧頂いた参加者の皆様はその特色がよくお分かりいただけたことであろう。

続いて、モバイルブック・ジェーピー(以下MBJ)社長の野村虎之進氏に、主に流通プラットフォームの観点からお話をいただいた。 リアルの世界の取次ぎにあたる流通プラットフォーム事業は、出版社とコンテンツプロバイダー(以下CP)間の商流を簡素化し、安全に行なう上で重要な役割を担っている。 ケータイでコミックを1冊買う時、最終読者は取次ぎのコンテンツサーバーに取りに来ているが、出版社からすれば、多様なCPの存在を気にせずにデータを一元管理でき、CPの立場からすれば、サーバの管理の負担が軽減される。

現在、著しい伸びのコミック系をはじめ、ケータイの電子書店数が増え続けているが、 そのように電子書店が比較的簡単に立ち上げられるようになった要因のひとつが、MBJのようなコンテンツのアグリゲーション機能を持つ取次ぎサービスが存在しているからだという。この点に関しては、今後、優れた才能がコンテンツを出したいと思ったら、取次特有の流通・金融という機能が上手くネット上でも確立される必要があり、その意味でMBJのような取次業の存在は大きい、との指摘が植村氏からもあった。

コンテンツのデジタル化という点では、素材データは圧倒的に紙の書籍で、それをスキャンしている。いわゆるワンソース・マルチユースは、大手の出版社を除いてまだまだこれからという状況だが、コミックスを作る段階から紙とケータイを両立するようなDBを確立していく流れは、これから中小の出版社にも広がってゆくとの見通しが示された。

最後にご登場いただいたのは、イースト社長の下川氏。1990年代から電子ペーパー端末に興味を持ち、アメリカ、日本での失敗を乗り越えて一貫して関わってこられた。その姿勢には、今回紹介されたiRex社のiLiadのような読書端末が必ず普及するはずだ、という下川氏の強い思いが感じられる。

iLiadは、XML形式NEWSをインタラクティブなPDFに変換してそれを持ち歩くことができるデバイス。今後フランス、イギリス、オランダで新聞社の採用が続々と予定されている。会場の参加者には、iLiadと合わせて、アマゾンのKindleも手にとっていただく機会があり、実際に両製品の操作性を確認していただいた。技術の進歩は早く、今後新しいデバイスが続々と現れ、読書端末が他のデバイスと融合していくことも予想されるという。電子ペーパー市場拡大の起爆剤となるか注目したいところである。

一方、ソフトウェアに関しては、電子新聞リーダーXamlerが紹介された。スクロールがないのが特徴のビューアである。どうやって複数ページのドキュメントを読みやすくするか にこだわり、スクロールではなく固定ページ・改ページを採用し、HTMLとブラウザのセットでは実現できなかった改ページをXAMLで実現している。

電子出版・電子書籍といっても、今回お話をいただいた3社はそのユニークさもあり、切り口がそれぞれ異なる。しかし、どの事業分野もビジネスモデルの成否が鍵を握るという傾向は興味深かった。

下川氏は、過去の経験を踏まえて、「素晴らしいデバイスだから買ってもらえる」と考えたのが誤りだったと語り、BtoCかあるいはBtoBtoCかという論点を強調されていた。また、電子書籍の登場で本が売れなくなってしまうのではないかという議論に対して、ケータイで読んで面白かったものを本屋で買うという流れもあるという野村氏の指摘があったが、デジタルとアナログ双方での販売の関連性をひとつのビジネスモデルとして捉えられるか否かの差は大きい。

著作権の観点から対価を著者にフィードバックするか、あるいは著作権フリーとするかということも――コンテンツを流通させる技術と不正流通を防ぐための技術と両方あるという状況下で――結局話は仕組みの部分に及ぶということである。 技術は日進月歩で進歩・先行しているが、ビジネスモデルが確立できずに失敗しては元も子もない。進歩する技術をどう取り込んでビジネスモデルを確立するかという視座の大切さを改めて認識させられたセッションであった。

(2008年3月)

2008/03/19 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会