2007年11月末、米国のユーザー視察を4社行いました。ありがちな「だれもまねできない」「2番手のない」モデルではなく、オフセットからデジタルプリンティングへとビジネス変革に取り組んでいるオーソドックスな印刷企業と話がしたいと米国Xeroxに念押ししての訪問でした。 ひと言で言うと、米国におけるデジタルプリンティングビジネスへの傾斜は、日本より相当進んでいる、あるいは差が開いているのではというのが実感です。その根底にあるのは、オフセットビジネスの収益性の相当の落ち込みと、バリアブルデータパブリッシング(VDP)による付加価値ビジネスモデルが市場で認められているということにあります。
極端な例かもしれませんが、マンハッタンでグローバル金融企業群を顧客に持つ印刷会社では、オフセットとiGEN3の売上比率は既に35%と65%になっていますが、貢献利益で見ると、10%と90%と驚くべき差になっていました。また、LAでは、「もしデジタル化を進めていなかったらどうなっていましたか」の問いに、「今ある6台のオフセットが1台になっていく(会社の規模縮小に陥っていたという意味)」とまで言い切る状況でした。
4社に共通するのは、明確な経営の変革の方向性と実行に移す意思です。「オフセットJOBの置き換えはわずか」「デジタルは、重要顧客からの付加価値JOB獲得のためのもの、営業は少数精鋭」「印刷業の成長のキーは多様性(Diversity)、一つ屋根の下ですべて提供」「We never say'Can not'」という発言が耳に残っています。
冒頭から米国視察の感想を書いた理由は、本稿の意図が「欧米のビジネスモデルから学ぶ」ことにあるからではなく、むしろ米国も日本も印刷産業の置かれている状況や危機感、変革の方向性は何も変わらないということにあります。彼らが口を揃えて言っていた「多様性」とは、まさに日本で言っている「ワンストップサービス」と同じ意味です。 では、何が違うのでしょうか。ひと言で言えば米国はデジタルプリンティングビジネスを、米国の文化・社会的背景に基づいた、付加価値ビジネスにしっかり組み立てているということです。
少々脱線しますが、欧米は、個人と社会が対等な契約を結ぶという二元論的な社会観に立脚していると考えます。この社会観からすると、個(インディビジュアル)に対し、企業(プライベート)が、パーソナルDMを出すという行為は、基本的には「好ましい」「善なる」ものということになります(注:これは欧米の知人と何人かで議論した結果であって統計的実証は全くありません)。だから、個人情報には厳しい国ですが、ダイレクトメール文化が根付いたわけです。
日本はどうでしょうか。これまでパーソナルDMを出していた企業でさえ、継続することをちゅうちょするほど個人情報に過敏になっています。日本は、欧米流の「個」と「社会」の契約ではなく、個=「私(わたくし)」と、企業=「公」「お上」的な秩序の構図です。「公」の存在である企業が、いきなり「私」の領域に突然踏み込んでくるようなパーソナルDMには、警戒感や嫌悪感を抱く人が比較的に多いのではないでしょうか。
何が言いたいのか? デジタルプリンティングビジネスに向かう理由や方向は、欧米も日本も中国も時間軸が違うだけのことかもしれません。しかし、そこに向かう道筋や、使うツールやノウハウは、そのまま米国型をまねても同じようにはいきません。メーカーやソリューションプロバイダーが、米国の成功モデルや、日米統計データ比較を振りかざして「やがて日本も同じように……」と迫ってきたら、「本当にそうか」と反論してみてください(これは自戒を込めて書いています)。
今月から7回にわたり、「日本流デジタルプリンティング成長への鍵」を論じていきます。当社プロダクションサービス事業における、お客様コラボレーション部門(品川epicenter並びにColor Center)の立場からの見方ですから、偏りがあったり、視野が狭かったりすることは重々承知の上、稚拙ながらも現場・現実・現物を踏まえた話にしたいと考えています。当社にお越しいただいている方は、「ああ聞いた話か」となるかもしれませんがご容赦ください。少しでも、皆様の今後のマーケティング・営業活動のご参考になればと願っています。
よく知られた概念ではありますが、顧客の購買行動は、業種・業務にあまり関係なく、AIDMA(Attention:気づく、Interest:興味を持つ、Desire:欲する、Memory:検討する、Action:購入する)の普遍的なプロセスとなっています。実は当社Color Centerのデジタルプリンティングのメニューは、ランダムに展開しているのではなく、このAIDMAに添った形で試行錯誤しながら市場開発・展開しているものです。
例えば、「新エリアマーケティング」は、地図情報システム(GIS)と郵便事業のタウンメール・タウンプラスサービスを組み合わせ、個人情報を使わないで、見込み客を効果的に発掘する手法です。これを単に「折込チラシ」の代替ビジネスと捉えるようでは、やがて付加価値が下がり、利益なき過当競争に陥るリスクも生じてきます。そうではなく、「他社がまだ気づいていないエリア特性の発見」や「店舗ごとの生きた顧客リスト化」といった次のマーケティングの仕掛けとしての位置付け、クライアントに提案を仕掛けたらいかがでしょうか? クライアントの印刷会社に対する目線を変える第1歩が「新エリアマーケティング」の目的なのです。
来月からは具体的な話をメインとしますが、重要なことは、クライアント企業に対し、多様で、連続性のある価値提供を、きちんと自社なりの提供シナリオに落とし込んだ上で、PDCAを回すことです。デジタルに向いているJOBを「とにかく探して、まず機械を回す」という考えは避けたいものです。
もう一つ、視点を変えてデジタルプリンティングビジネスをプロダクトライフサイクル的に俯瞰すると、「プロダクトin(DP1.0)」「マーケティングin(DP2.0)」「コミュニティin(DP3.0)」のように分けることができます。DP1.0は、いわゆる「デジタル印刷」という新たなプロダクトカテゴリーが登場し、「オフセット印刷」という比較対象市場との性能・品質・コスト比較と改善の段階です。子が親に反発するように「バリアブルができる!」「新たな価値」と主張しても、「まだまだ」「こんなレベルで何ができる?」と否定されてしまうような「プロダクトin」の時代です。
ようやく今、デジタルプリンティングが日本市場でいろいろな経験を積み、自立しつつあるというのがDP2.0の意味です。いろいろなマーケティングノウハウや、印刷カテゴリーを超えたツールや仕組みと連携し、オフセットビジネスとは異なる価値を持ち始めた成長期であり、「マーケティングin」の時代です。ここでしっかりノウハウと市場をつかむ企業やプロバイダーが勝ち組となっていくのだと考えています。ある意味、デジタルプリンティングビジネス自体の適者生存の時代であり、もはや規模の経済ではなく、変化に適応できるものが生き残る時代です。
さて、ではいったいDP3.0とは何か? まだまだ稚拙な仮説ですが、あえて、本稿の最後に意味を問いたいと考えています。ここでは、「さまざまなネットコミュニティや、リアルなコミュニティと連携した、新たなデジタルプリンティング成長領域」とだけ述べておきます。半年後には定義自体を変えているかもしれませんが……。 では、次号からよろしくお願いいたします。
(「プリンターズサークル」2008年2月号より抜粋)
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◇デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場(全7回)2008/03/18 00:00:00