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DP2.0 感性に訴求するパーソナルコミュニケーション(米国と日本の方向)

デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場[第3回]

富士ゼロックス株式会社
プロダクションサービス事業本部
エグゼクティブカストマーソリューション部長
杉田晴紀氏

先月は、折込チラシを補完する効果的なエリアマーケティング手法について説明いたしました。お客様のマーケティングパートナーになるためのエントリー教材としても最適なのでぜひご検討ください。 さて、「エントリー」があれば、次は「アドバンス」となります。今月のお題は、お客様の感性に訴求し、よりパーソナルなコミュニケーションへと導くバリアブルプリンティング手法です。

◇「バリアブルプリント」の真の課題は?

初回でDP1.0をプロダクト機能の訴求と定義しましたが、この段階は、「POD機とソフトウエアを組み合わせればバリアブル情報をプリントできます」ということだけです。 「XX様向けの厳選商品をご用意……」「XX様にうれしいお知らせです!」「特別会員XX様向けの……」なんて、名前差し替えレベルのバリアブルDMが手元に届いて、今、本当に心に響きますか? 「うれしいお知らせ」なんて、極めて上からの目線の物言いで「消費者はこれでありがたく満足して」と言われているようなものです。

当たり前の話ですが、固有名詞などが差し替わっただけでは、受け手の心に届かないということです。確かに日本では、個人情報保護の観点から、バリアブルプリント自体が伸び悩んでいると思いますが、それ以前に、受け手の心理や、日本の文化・価値観などから、「何が感性に響くのか」という深堀りや実践ができていないということにあります。

第1回にも書きましたが、個と社会が契約を結ぶという欧米流の契約社会・文化では、個人名がきちんと入っているDMは基本的に「善」なるもの。一方、「お上」と「私(わたくし)」の社会観や、「私小説」文化の日本では、いきなり個人名の入った上からの目線のDMは、土足で玄関から入ってくるような「不快」感を生み出します。今シリーズの副題は「日本型進化」ですが、まさに日本における「パーソナル化」のあり方そのものの深い議論と、仮説・実践が求められていると思います。

◇イメージバリアブル手法は「金の斧」?

2007年ぐらいから、業界イベント・セミナーなどで目に触れる機会も多くなってきたのではないかなと思いますが、従来の文字のバリアブルプリントだけではなく、写真や、イラスト情報の中に、あたかも自然に溶け込むようにバリアブル情報(文字だけでなく、画像なども可能)を挿入する手法が出てきました。当社でも、パートナー企業の提供するASPサービスと、クロスメディア連携まで拡張性のある本格的アプリケーションソフトウエアをニーズに合わせてご提案しています。

この手法は、これまでのバリアブルプリントの課題を解決し、市場を飛躍的に拡大していく金の斧(おの)でしょうか? 答えは「NO」です。確かに「文章だけではなく、イメージの部分も可変になる」ことは、受け手へのサプライズ効果はありますが、それだけで、受け手の関心・感性に響くというのは、あまりに楽天的だからです。購買行動から考えるDP2.0の視点から言えば、「受け手の心に響く、イメージバリアブルコンテンツとは何か」が極めて重要であり、それに対してASPやToolは、何も回答を与えてくれません。単に「面白いからやってみませんか」「安くします」のたぐいのモノ売り営業には要注意です(当社の営業がそうでないことを祈ります)。

◇米国での「価値組」のビジネスモデルは?

心に響く、きめ細やかなイメージパーソナリゼーションで付加価値を付けるというのは、いかにも花鳥風月を尊ぶ日本らしい方向性だと思いますが、米国の方向もまた米国らしいところがあります。2007年11月末に米国の伝統的商業印刷会社で、デジタル印刷ビジネスで成功している4社を訪問しましたが、もうけの構造で共通しているのは、イベント・キャンペーン企画とパーソナルプリンティングを一つのサービスメニューとして、クライアントに提供していることです。広告代理店と印刷会社が水平分業し、トータルサービスとして提案、サービス課金しています。

日本のように直・2次・孫受けの垂直分業では、印刷・フルフィルントに原価マークアップ分ぐらいしか利益が落ちません。しかし米国の4社と広告代理店は、クライアントから得たトータル利益をシェアする関係作りができています。「本当にそうか?」と聞き返しても、「何でそんなに聞くのか」といったけげんな表情をされました。NYの印刷会社では、デジタルプリント事業の粗利額が、会社全体の粗利額の90%を占めるまでに拡大していたり、LAの会社は、携帯電話のDMキャンペーンで広告代理店と組んで、粗利率70%のもうけを得ているという話も聞きました。

日本でも、地上波デジタルや、携帯のポータル化により、マス媒体をベースにした垂直型の業界構造が地殻変動を起していきそうです。米国と同じように、先にデジタルプリンティングビジネスノウハウを蓄積した印刷業が、上流プレイヤーと水平分業型のビジネスアライアンスを形成し、新たな「価値組」になっていく時代を早く作りたいものです。 デジタルプリンティングビジネスの課題は、モノの優劣比較ではなく「どこでだれと組んでどう価値組を形成するか」といった競争の戦略になっていきます。

◇今までで一番心に残る1対1メッセージ

いささか思いがあるところなので、長く書きましたが、私自身、経営TOPの方や、会社の勉強会に招かれ、「最新のデジタルビジネス」のプレゼンテーションをさせていただいた場合、上記の話をやや冗舌に訴えています。

さて、前回3月号で「今までで一番感動したワン to ワン体験は何ですか」と質問させていただきましたが、皆様いかがでしょうか? 私の場合は「どうせ出来ないと思って何もしないひとより、駄目かもしれないけど、やってみようと努力する人になりたい。健闘を祈る。×××学園長」と書かれたたった1枚の張り紙です。私事ですが、息子の受験当日、受験校の正門をくぐったところに張り出してあったものです。息子は、ボーとしたやつ(家庭の秘密を暴露してゴメン)なのですが、彼なりに一生懸命やっていて、「よくここまで来たな」と褒めてやりたいと思っていました。その矢先にこのメッセージです。どこにも「杉田君へ」なんて入っていませんし、カラフルなイラストも、気の利いた加工もありません。けれども、不覚にも涙がにじんできて、思わず立ち止まって手帳に書き写しました。

この学園長は、人格者であるとともに、最高の1対1マーケターであり、コピーライターでもあると思います。もしこれが「受験生諸君、これまでやってきたことを100%出してがんばろう!」的な上から目線メッセージだったら、「大きなお世話」です。ここは男子校なのですが、もう一人息子がいたら、絶対また訪れたいと思いました(ちなみに息子は見事不合格で、悔いなし??)。

要は、受け手にとっての「1対1」「パーソナルコミュニケーション」の価値とバリアブルプリントとを同一視してはいけないということを実体験したわけです。政治家や、宗教家の言葉は、「マス」に語り掛けながら一人ひとりに突き刺さっていく「重みや深み」がなくては、パワーがありませんし、売れっ子の作詞家もしかり。「感性マーケティング」がベースになければバリアブルプリンティング自体には二束三文の価値しかありません。

来月は、いよいよWeb to Print(WTP)です。皆様はWTPの本質的な価値はなんだと思っていますか? また、WTPは日本で普及するとお思いですか? その理由は何ですか? 来月は深く?その話に入ります。では!

(「プリンターズサークル」2008年4月号より抜粋)


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デジタル印刷ビジネスで確立する新たな市場(全7回)

2008/05/11 00:00:00


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