JAGATの印刷マーケティング研究会では、過去、数々のオンデマンド印刷への挑戦事例を聞いてきた。その中のひとつのテーマが「ジャスト・イン・タイム」での印刷物提供である。印刷物の企画、生産、流通の流れの中で問題になる印刷物の在庫とその廃棄の無駄を解消することを目的とするデジタル印刷システムの利用である。2000年以降になって、いろいろな動きが見られた。
これは、「オンデマンド印刷考[その1]」で述べたように、業種・品目を問わず共通の課題であり、今後、環境負荷軽減の観点からいままで以上に注目されることになるだろう。
ある旅行会社では、明らかになっているパンフレットの印刷だけで年間100億円以上の費用をかけながら、そのうちの約30%が使われずに廃棄されるという。旅行という商品においては、パンフレットそのものが商品のようなものであり、絶対に欠品は許されないということで常に在庫しておかなければならない。しかし、商品はどんどん変っていくから廃棄せざるを得ない印刷物が大量になる。環境負荷軽減を強く意識する生活者の立場から見れば大量のパンフレット自体が森林破壊になっていないのかという疑問がまずあるし、廃棄される印刷物の金額は企業自身の利益に対しても無視するには大きすぎる額である。
多くの製造メーカーでは、カタログ、取扱説明書等、大量の印刷物を使ってきた。従業員数約17000名のエレクトロニクス関連製品メーカーでは、約600種、部数が100部〜2000部のカタログの印刷物を使っている。年間300万ページのカタログを印刷し、それらを在庫として抱えておいて使いたいときに庫出して使っていた。しかし、印刷コスト自体が問題となると同時に、製品のライフサイクルが非常に短くなり印刷物の保管と廃棄経費の無駄が非常に大きな問題になった。
ダイレクトメールの世界では、顧客から説明資料やカタログを預かり、指定に応じてすぐに発送するカタログセンターとも呼ばれる業務を行なう企業群がある。顧客からの要望は午前中に発送指示を出したものはその日のうちに発送してもらいたい、というものだから常に在庫を置いておかなければならない。
しかし、コンピュータ分野はもとより、各種製造業、サービス業ともに製品の入れ替わりが頻繁なので、在庫していたものの3〜4割を廃棄する、あるいは全て刷り直さなければならないこともある。そして、全体としては10000坪以上もある倉庫の3割強を占める印刷物は結局廃棄されている。したがって、その保管コスト、廃棄コストは印刷コストを上回るほどのものだという。また、ひとつの顧客から預かっている印刷物が50種類もある資料のうち平均8点を選んで封入するという作業もあり、その改善も求められている。
以上のように、それぞれの業種、立場で印刷物の作り過ぎ、それにともなう保管と廃棄の無駄という問題を抱えており、その解決策の中にデジタル印刷機の利用が考えられている。ただし、それは、単にデジタル印刷機を入れるというものではなく、データベース、ネットワークというインフラの上に、各種情報のハンドリングや受発注を含む各種関連業務の自動処理を組み合わせたシステムを必要とするものである。ジャスト・イン・タイムでの印刷物提供では、利用側の各種業務との結びつきを考慮したシステム構築が必要になる点が、個別の「小ロット印刷」ニーズへの対応との相違点だろう。
旅行社の例では、パンフレットの内容をデジタル化、一元管理して、ネットで閲覧できるようにするとともに、必要なときにいつでもどこでもプリントアウトできるようにした。
エレクトロニクスメーカーの例では、イントラネットを通じてカタログの検索ができるようにした上で、見積もり、発注、上司の許諾確認そして発注印刷物の状況確認、さらに発注部署への請求業務など、一連の関連業務を自動処理する。また、カタログの素材をダウンロードして利用者自身がカスタマイズしたり、営業マンが社外から社内にアクセスして客先での製品説明をパソコン上でもできる環境にもしている。
カタログセンターの場合には、印刷物在庫の問題は大きいが、商売の核はフルフィルメント・センターとしてのシステム・マネージメントにあり、オンデマンド印刷の機能はそれらの中に組み込まれる要素のひとつになる。
いずれにしても、かなり広範囲の機能をカバーすることが必要で、そのためにさまざまパーツをうまく組み合わせてシステムを作ることになる。
ジャスト・イン・タイムでの印刷物提供について、上記以外にもさまざまな事例を聞いてきたが成果を出している例もあるし、そうでない例、あるいは当初計画とはかなり異なる方向に向かった例もある。
各事例を時系列的に見ると、計画どおりに行かなかったひとつの理由として、パーツがまだまだ不十分だった、あるいはゼロから作らなければならなかったということがある。現時点ではどうなのだろうか? また、パーツがあったとしてもそのようなシステム作りの能力をどのように持つのだろうか? 対象案件の大きさによっても異なるだろうが、各分野の専門家とのアライアンスが必要なことはかなり多いのではないだろうか。
2008年5月9日
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