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エンゲージメントと3つの変化

株式会社アサツー ディ・ケイ
クロスコミュニケーションユニット プラニングディレクター
亀井典明(かめい・のりあき)

エンゲージメントと3つの変化

前出の2006年米エンゲージメントカンファレンスでの示唆を基にこのパートをまとめたい。これらがエンゲージメントの出現によってもたらされた変化なのか、変化がエンゲージメントをもたらしたかを特定することは難しい。しかし同時に起きているということは確かである。

「遮断する、割り込む」から「ともに作り上げる」へ
前回で紹介した図5の上段をいま一度ご覧いただきたい。A〜Dの4誌のスコアは、オリジナル(1.0)をわずかに下回っている。この差が大きければ、読者のコミュニティーは、そぐわないと感じるブランドの広告に拒否反応を起こすと解釈ができる。言い換えれば、媒体には広告に対する「免疫効果」があるということだ。テレビの場合この拒否反応は、銘柄の好き嫌いよりも広告による「遮断」のせいで生じるという分析結果がある。マーケターにとって、これらは細心の注意を払うべき現象である。

テレビ広告取引の本質は、『広告に接触させる機会』の売り買いである。そのボリュームは、GRP(Gross Rating Point)という指標で測られる。GRPは実績に基づいて試算された一種の予測値で、「CMが放送された時に獲得するであろう視聴率(%)の総和」である。だからこれをヨーロッパではOTS(Opportunity To See=CMを見る「機会」)と呼ぶ。この「機会」を増大させるためには、コンテンツの充実はもちろんだが、CM中に席を立たれたり、他局に逃げられたりしないようにコントロールすることも有効だ。そのためにテレビ局は、じらし演出・引き伸ばし演出を駆使してCM間の視聴率維持に努めている。しかしこれは、裏を返せば、遮断によるストレスを増大させる演出である。CMの遮断が強引すぎると、そのブランドの価値を損ねることが、56ブランドを対象に行った分析で明らかになっている。つまりコンテンツへの集中を遮断し、広告を割り込ませるというのは得策とは言えない。今やSNSやブログなどによって、消費者自身がモノの価値を決め、それを自らのやり方で発信し、モノの売れ行きに強い影響力を持つ時代である。彼らの興味関心をうまく捉えながらともに広告を作り上げていくことが、消費者をエンゲージするために欠かせないのである。

「Reach(到達範囲拡大)」から「Big Idea」へ
消費者自身がモノの価値を決めるとはどういうことであろう。前出の図4-1がその一例である。ブランドXの戦略が実際にRELATEをコアとしているかどうかは分からない。この図はあくまで消費者が「そう見ている」ことを示しているのである。そして図6は、消費者自身が決めた、RELATEにふさわしい媒体の序列である。 では、ハイスコアの雑誌を使っていればエンゲージメント効果を享受できるのだろうか。伝統的な考え方に従えば、広告が狙ったとおりの効果を得られるかどうかはクリエイティブに懸かっている。メディアの使命はそのクリエイティブをつつがなく、効率良く届けることであった。だからSOV(Share Of Voice)という、競合ブランドに対する相対的なボリューム(Reach)の優位性を確保することが重要であった。ところがメディアの性質や文脈に合ったコンテンツがより効力を発揮するという事実が明るみに出て事情は変わった。到達より、むしろ接点の組み合わせや仕組み、コンテンツなどに関するクリエイティビィティが求められるようになったのだ。

アド・エイジ紙のScott Donatonは今日的なクリエイティヴワークを、'消費者がブランドと時間を過ごしたくなるコンテンツを作ること'と再定義した。コンテンツがメディアの文脈を反映する以上、メディアを効果的にクロスさせる過程は、新しいクリエイティブワークの一部である。そしてこれが、本来的なクロスメディアのスキームだ。しかし逆の見方をすると、多様なメディアを効果的にクロスさせるには、それを前提としたコミュニケーションの核、すなわちコンテンツが不可欠だと言うこともできる。これを'センターピース'と呼ぶ。ショートフィルムやリアル/バーチャルイベントなどが代表的なものだ。時にはメディアそのものを作ってしまうこともある。これをコンテンツの側から説明すると、ブランデッドエンターテインメントという表現になるのだろう。つまり、クロスメディアプランとコンテンツプランは、一体となって新しいクリエイティブワークの領域を形成しているのだ。こうして今、広告界では「Reach」の達成はもとより、ブランド、メディア、コンテンツの相乗効果を生み出す「Big Idea」が求められているのである。

「Big Idea」から「マーケティングROI」へ
Big Ideaの提供はもう一つの使命へと続いている。それは、効果に対する説明責任を負うということである。 IMC(Integrated Marketing Communication)「統合型マーケティング」は広く知られる理論である。ただ、現代IMCの父、Don E. Schultzの著書「IMC-The Next Generation」(2003)の全16章のうち、実に6章が結果評価に関連する記述であることはあまり議論されていないように思う。そのテーマは、性質の違う複数のマーケティング施策を組み合わせる際、どのような目標を設定し、結果を計量し、それをどう改善に生かすかというものである。これはROMI=Return On Marcom(marketing communication)Investmentと呼ばれ、説明責任を果たす上で中核となるファクターである。ポイントはいかに合理的な目標を設定するか、そしてそれを限られた予算でいかに最大化できるかということである。

広告界は、明らかにこのROMIをないがしろにしてきた。シュルツによれば短期視点ではセールスが、長期視点ではキャッシュフローや企業価値が目標としては合理的である。では、エンゲージメントの視点では何を目標とすべきか。それはセールスとブランディングの両得を期待できるものであるべきだ。ブランドはさまざまな心理的、機能的価値を提供する。その中で、消費者のアクション(購買、情報探索など)と最も強く結び付いているものを発見できれば、それをコアのブランドバリューとして目的指標に置くことができる。この考えに基づいて、図4-1のブランドXのコアバリューが決定された。その際、成果として測られるのはコアバリューとACTの指数だが、その伸びが意味するところはTurn on a mind=どれだけ行動のきっかけを与えることができたかである。そしてこのフレーズは、2006年9月にARFエンゲージメントカンファレンスの副題になっている。 つまりエンゲージントによるROIは、マーケティングの、セールスとブランディング両者に対する貢献度を説明すること言えるのである。

おわりに

マーケティングの世界には、欧米の新しい概念やキーワードが、絶え間なくやって来きては消えていく。まさに流行と同じである。しかし、エンゲージメントはそうならないはずである。MI4の「新しい広告の通貨の開発」が停滞しているのは、エンゲージメントが、どのブランドにも同じパラメータを使えるような大雑把なものではなく、カスタマイズした丁寧な調査や分析を必要とする、個別対応の題材だからであろう。2008年5月、世界最大のメディアエージェンシー、マインドシェアは、マッキンゼー的な個別対応のコンサルティングを、ビジネスのドメインに据えると発表した。無論エンゲージメントだけを指しているはずはない。しかしエンゲージメントの登場は、そうした大規模なビジネスモデルの転換期に起きた象徴的な出来事の一つである。だから流行で終わらせたり、あいまいなまま済ませたりしてはならない。消費者と広告主のメリットにつながるよう、エンゲージメントを確立させることは、マーケティング界全体の使命なのである。


関連記事:
・第1回 エンゲージメントの意味を考える
・第2回 エンゲージメントは効果の掛け算

(『プリンターズサークル』2008年7月号より)

2008/08/26 00:00:00


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