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Acrobat4.0は慌てず,急がず

Acrobatが誕生した1992〜93年当時はプラットフォームに依存しない電子文書交換がホットな話題であった。Adobeは1992年暮からAcrobatの社内でのテストをして,1993年に発表,1994年中ごろにリリースした。確かにAcrobatはそれまでのワープロや文書システムのプライベートフォーマットに対して標準の地位を確立したという点では勝利した。その余勢をかってプリプレス分野でも他社PostScriptクローンを締め出す力ともなった。

 しかしその直後から起こったWindows95とWEB/htmlというものがAcrobatのシナリオを大きく変えることになった。html文書の方がプラットフォームに依存せず,電子文書のページ数ではPDF文書を大きく上回ることとなった。確かにプリントをきれいに行わなければならないページはPDFの方がよいが,読んだらオワリ的文書はhtmlを凌ぐものはない。PDFにはプラスアルファの価値付けが必要になったのである。

 紙の文書についても,Windowsのシェアが9割になった今,しかもマイクロソフトOfficeがデフォルトのアプリケーションになった今,OfficeのWordやExcelのファイルはどこへもっていっても通用するようになった。だから日常の文書交換のためにわざわざAcrobatを使うことは,ビジネスユーザにとっては「必須」ではなくなった。

 もっともカスタマサービスのマニュアルのようにReadOnlyのものはPDFの方が都合よく,ネットワーク経由での文書のダウンロードではPDFは定着した。まあマニュアル制作にDTPがあまり使われなかったことが誤算であろうが,WordからPDFを吐き出すのも手間いらずなので,共存はあり得るということだろう。

 このようにPDFに向い風はあったものの,AdobeはWindowsやネットワークに上手に対応できたと考えられる。Acrobat3.0Jはフォント埋め込み機能のいくつかを残したまま発表されたが,Acrobat4.0はフォント埋め込みも実現し,マイクロソフトとの関係改善によりWindowsのページをハイエンドで出力するときの最適のツールとなった。

 また,マイクロソフトOfficeのアプリケーションとPDFの間でデータのやり取りが簡単に行えることとか,ホームページをPDFに変えることや電子署名などインターネットからみのWindowsのみの機能もある。これは現在のOSの機能差からくるものであり,当初のクロスプラットフォームの考え方にこだわらなくなったことが理解できる。

 Acrobat4.0がユーザにどれほど満足を与えるか,まだ不明である。一方WEBページを切り取って文書ファイルとして同列に管理しようという発想は,ユーザニーズからくるものではなく,先を見越したソフトであることがわかる。しかしAcrobat4.0は,XML対応,画像ファイルの対応などで期待するバージョンアップがなかった点が不十分であったし,さらに先のバージョンが比較的近いであろうことを予感させる。(テキスト&グラフィック研究会会報 通巻115号より)

1999/07/28 00:00:00


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