こうした分業システムの発展こそが、国富形成の原動力であり、近代資本主義の前提であった。この思想は前述したとおり、大量生産、大量消費(mass production, mass consumption)すなわち工業化社会、フォーディズム という近代社会のパラダイムを作ることになった。こうした印刷産業も分業の効率を求めて生産活動に没頭して行った。
長い間、印刷業界の関心事は如何に印刷するかという技術、設備、生産に関することばかりであった。現在でもCTPに夢中になっている。私は1963年から中小印刷界の近代化指導に関与し、電子化という第5次計画を発足させるまで、30年に及ぶ長い業界運動に没頭した。その間の計画内容は「活字よ、さようなら!ライトテーブルさようなら!カメラレンズさようなら!そして電子化こんにちは!」まで、すべて技術に関するもので How の世界であった。その結果は私が途中で何度も警告した通り、価格競争、シェア争い、そして合理化貧乏であった。
確かに現在の印刷業界はコンピュータを駆使し、高級な自動多色の印刷機を使用し、他産業から見ても先端技術を使う近代的産業と思われるようになった。しかし、それは表面的なことで内情は低利益率、長期間の不規則勤務、品質不安定、短納期、受注競争などに悩む小羊の業界である。どう考えても How の追求の中からは21世紀は見えてこない。How の成功は価値の下落を意味する。勿論、How の追求は経済のグローバル化の中で、経営の必要条件であるが、顧客の満足や社員のインセンティブを満足させるような充分条件にはならない。充分条件はWhatの追求の中にある。
一般の中小印刷会社は、How のことばかり追かけ、4色機を持っている、オフ輪を持っている、DTP が上手だ・・・・・・こんなことを得意先に宣伝するのだが、こんな設備はどこの印刷会社にもあるし、お金さえ出せば買えるものだから、得意先には全く意味がないし、価値がない話だ。
どんなデザインと機能を持った、どんな印刷物を供給し、企画から「まとめ」、配送まで、どんなサービスを提供してくれるのか。One stop service center とか Service package という言葉を聞くようになった。一つの印刷物を作成するのに、デザイン業者、印刷、製版、製本、梱包、運送など沢山の業者に依頼するので発注者は手間がかかってしまう。全体をまとめて処理してくれる業者を求めるようになった。それが One stopであり、service package である。Niche 品目が決まったら、それに関連するすべてのサービスをパッケージにして供給することが必要だということを意味する。そうしたWhatにこそ顧客への充分条件がある。自社のWhatが決定すれば、その What にさらに磨きをかけるために、Howの研究も大切になる。こうしてWhatは自社の Niche マーケットを作っていくことになる。
現在は多様化社会だから、ビジネスチャンスは無数にある。経営者は「あれも、これも」と思うだろうが販売経験と技術蓄積のない品目については、ニッチ品目になるはずがない。まず自社のニッチ品目を確立すること、特化型経営を行うこと、すべてはそこからはじまる。得意先へのマーケティングも、技術上の How の追求も、社員のインセンティブや教育も、すべてはニッチ品目が確立しての話だ。How から What へ! そして、What から新しい How へ!
2000/06/22 00:00:00