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書体が自由に使えると、デザインは低下する?

香港や台湾などの漢字圏でもDTPが標準的な印刷物作成手法になっている。街中を歩いたり、広告や雑誌の印刷物を見て驚くのは使われる書体の種類が多く、勘亭流やPOP書体、まる文字のような日本独自のフォントと思われたものがよく使われていることである。日本ではモリサワフォントが君臨しているような、中心的フォントはあるのだろうかと疑問がわく。

フォントパッケージはダイナフォントのようなCDに何十書体はいっているものがポピュラーであり、そこには日本の手動写植時代のフォントに似たものが多くあり、実に雑多に使われている感じがする。これらの多くは中国人にとってはなじみのない書体のはずであり、日本的に漢字を解釈したタイプフェースに対して彼らは違和感を感じないのであろうか?

アメリカでDTPが始まった1980年代の後半に、醜い紙面デザインのコンテストというのがあって、その醜さの典型のひとつに「ピザ」というのがあった。これはピザの上のトッピングのように、さまざまな書体を撒き散らした紙面デザインを指し、書体選択の妙が感じられないものである。これはアメリカではDTPの登場に引き続いてフォントの種類が爆発的に増えたことから起こった。

幸いというか、日本のDTPは明朝とゴシックしかない段階から徐々にフォントが増えたので、紙面がピザ化することは比較的抑えられたのかもしれない。ところがWindowsが広がってTrueTypeフォントが爆発的に増えるに従って、最近は素人が作るピザ的な紙面も目にするようになった。これが今の香港・台湾のDTP事情にもいえると思う。日本ではこれはMacの世界には及んではいないが、今後はどうなるかわからない。

MacのDTPはドキュメントに勝手にフォントを埋め込むと出力の再現性に不安があり、どうしてもイメージセッタなど出力の段階のRIPにフォントを持つ方法が安全と言うことで、冒頭のモリサワフォントなどに比重がかかってしまう。しかしMac OS X というのはRIPフォントよりもホスト側のフォントを使うようになる考えである。そうすると従来のRIPに高額で良質のフォントを持たせて、それを使うという方法は減ることになろう。

その場合にホスト側のフォントが自由に使えるということは、滅茶苦茶なフォントも自由に出せるということでもあり、今までのフォントの種類の制約が紙面の品質の低下を抑えていた箍がはずされるのである。さて日本のタイポグラフィはどうなるのでしょう。デザインする人は書体の良し悪しや、適正な使い方を心得ているのでしょうか。

かつてはデザイナは書体見本帳を見て書体指定するという行為を毎日行う中で、書体に関するノウハウを築いていったのだが、そこでどのようなことを身につけたのかを、改めて考えて見る必要がありそうだ。今日ではパソコンにインストールされた書体の中から選ぶだけになりがちであるが、書体見本帳はそれよりもっと深く広い視野を与えてくれた。

写植指定を経験してDTPに入った人はよいとして、写植を知らない新しい世代はどのようにしたら書体に関する認識やノウハウを身につけられるのだろうか。今その勉強方法はないのではないかという気がする。これからはホスト側のフォントが使われる時代になると、書体/タイポグラフィに関するデザイン教育を見なおさなければならなくなるように思える。

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ではいったい我々が今使っている書体は、どのような起源で、どのように発展してきたものなのか、ということをつかむ第1弾として、5月26日(金)に「書体の世界」というtechセミナーを開催します。山本太郎氏、有澤逸男氏、橋本和夫氏の話しが聞ける機会ですので、お見逃し無く。

2000/05/17 00:00:00


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