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プリンタによる現実的な色校正

インクジェットプリンタが色校正にどこまで使えるかというのは難しい問題である。特に日本では,色に対する要求品質が厳しいので,網点再現によるプルーフは今後とも求められるが,いろいろな点からインクジェットプリンタは無視できない。
そこで今回は2000年のシーボルトボストンで,網点DDCPと遜色ないという評価を得ているBESTColorについて,サカタインクス(株)の堀本邦芳氏の話より紹介する。

BESTColorの基本仕様と入力フォーマット
BESTColorとはカラーマネジメント機能付きのPostScriptレベル2互換のソフトRIPである。対応プリンタは,大型インクジェットプリンタである。
BESTColorはRIPサーバとして,Windows系のOSでの使用が前提である。なお,運用するにあたってはWindowsNT4.0上での稼働を推奨している。
また,カラーマッチングメソッド(CMM)といわれる色変換エンジンは,ColorSyncに採用されているハイデルベルグ社のCMMをライセンス供与を受けて使っている。

対応しているファイルフォーマットは,PostScriptレベル1,2およびPDFを含むPostScript3の多くの機能である。BEST社の発表ではPDF1.3に対応しているというが,サカタインクスではPDF1.2までしか検証していない。
PDFはフォントエンベッドが可能であるし,PostScriptに比べて安定しているといわれているが,PDFのワークフローはまだ各社から製品が出てきたばかりである。これからさまざまな検証が行われ,PDFはどこで作られてもどこで出力されても問題ないと一般に認知されないと,ユーザは安心して使うことができない。

そのほかに,特色を含む分版PostScriptファイルやTIFFデータ(CMYK,RGB,Lab),ハイデルベルグ社のDeltaリスト,サイテックス社のBrisqueや大日本スクリーン製造のレナトスからのExportPSやRIPedPSなどのRIP済みデータにも対応している。
ちなみに,BESTColorを導入したユーザの使い方を見てみると,DeltaリストやExportPS,RIPedPSなどのRIP済みデータでの運用がほとんどである。その理由は,色校確認後に再度RIP処理をして,文字化けなどでデータが変わってしまっては困るからである。色校というのは最終印刷物のシミュレーションであり,内容の保証ができなければならない。

また,大きな特徴として分版済みのPSファイルを受け付けることができる。通常のインクジェットプリンタはコンポジットファイルを受け取り出力する。ところがコンポジットファイルにはPostScriptの機能の細かい情報が欠落するので,実際にイメージセッタやプレートセッタから出力されるときに,抜きやノセが正しく設定されているかどうかの確認ができない。特に特色の場合,QuarkXPressでシミュレーションしようとするとプロセス分解して出力する以外になく,特色の版がCMYKの版とどのように重なっているかわからない。しかしBESTColorのRIPは特色の版も受け取り,カラーマネジメントして分版データとして特色を再現するので,より信頼度が高い。

Deltaリストを受け取れることは,Deltaのユーザには非常に好評である。Deltaのシステムには,HPのプリンタに直接つながるようにはなっているが,品質的には面付け確認程度の内校用途にしか使えない。インクジェットプリンタを外校にも使おう,営業用ツールとして使おうと考えたときに,BESTColorは大変有効である。
Brisqueやレナトスの場合でも,ExportPSやRIPedPSやRIP済みのTIFFにして出力するワークフローを組めば問題ない。

カラーマッチングと特色対応
BESTColorは,ターゲットの印刷とインクジェットプリンタのICCプロファイルを用いてカラーマッチング処理を行う。ICCプロファイルの最新バージョンであるICC3.5に対応している。
インクジェットプリンタの色再現領域はかなり広く,モニタと遜色ない色再現領域をもっている。従ってオフセット印刷のシミュレーションは比較的やりやすい。
また,エプソンのプリンタは,ライトシアン,ライトマゼンダが加わった6色インキを使うのでダイナミックレンジがさらに広くなっている。

ICCプロファイルは,基本的にBEST社で作成・提供するという方法をとっている。ローランド社のHiFiのCMYK+レッド,グリーンといった6色に対応したプロファイルもある。
カラープリンタのICCプロファイルの作成は実際大変な作業である。数多くのカラーチャートを測色しなければ満足のいく精度は得られない。また,精度を上げるためには,プロファイル作成ソフトが自動生成したものをチューニングしていく必要がある。
プロファイル作成ソフトが自動生成したICCプロファイルは完璧かという議論がある。ロゴ社というのはICCの中心メンバーであり,創立者はFOGRAでCMSを研究していた人である。そこでは,ICCプロファイルはある規則に則って作られるもので,ユーザがマニュアルで修正するのはとんでもない,という意見であったが,最近になってロゴ社がグレタグマクベス社に買収され,ICCプロファイルのバージョンが上がってからはICCプロファイルの修正ができるようになった。これはマーケットの力で,ユーザが何としてもICCプロファイルを修正したいという要望が強かったからだと思う。つまり,ICCプロファイルは1つ作れば,それで完璧というものではない。また,標準化という要素が入ることを頭に入れておいてほしい。
CMSに取り組んでいる印刷会社の意見では,紙やインキ,印刷機の組み合わせごとにプロファイルを作成していては,いくら時間とお金があっても足りない。何か基本となるデフォルトのプロファイルを作成しておき,各種の条件に合わせてプロファイルの修正・編集をすることで,運用できないだろうかという要望がある。

BESTColorは特色用のカラーテーブルをもっている。また,ユーザが自分で特色データをCMYKまたはLabで登録することもできる。運用するにあたっては,分光光度計で1回測定して,そのまま登録するのではなく,出力してみて若干補正するほうが精度は良い。特色の場合,特にかなり鮮やかな場合は,測色値(Lab)をCMYKで再現できないからである。

プルーフシステムの要件
プルーフシステムの要件は,第一にワークフローのすべての要素が安定していることが挙げられる。ICCプロファイルとは,プルーフ側の要素と印刷側の要素とが安定した上で,初めて成り立つものである。
また,ワークフローの中にうまく組み込むことができるのかも重要である。カラーマネジメントの精度だけではなく,コストと生産性をも勘案する必要がある。要するに期待される品質と,それに払われる代価のバランスだと思う。
民生用の大量生産されているインキジェットプリンタにも非常にハイエンドの技術が使われ,それがまたプロシューマ用の大型機器にもフィードバックされてくる。また,大規模ロットで厳しい生産管理のもとで作られているので,故障が少なく品質も安定している。こうした民生用の技術・製品を使わざるを得ない現在のコスト環境,経済環境になってきたと感じている。

2000年3月21日T&G研究会拡大ミーティング「インクジェットプリンタのカラーマッチングツール」より

2000/08/08 00:00:00


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