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タカシマヤのメディア戦略 4つのキーワード

消費社会を長年リードし続けてきた百貨店が今、大きな曲がり角に立たされています。ライフスタイルの多様化によるコンビニエンスストアの台頭、価格破壊を打ち出したディスカウントストアの隆盛、社会全体のネットワーク化を背景とした通信販売の伸びなど、百貨店のシェアを奪う、または大きなライバルとなる様々な業種・業態が生まれています。百貨店業界は様々な戦略を打ち出し、生き残りを掛けて悪戦苦闘している状況は皆さんもご存じの通りでしょう。
その影響は広告・宣伝等、印刷媒体にも確実に及び始めています。

雑誌「Printers Circle」2000年2月号〜3月号「ネットワーク社会で百貨店はどう変わるか」の中で株式会社高島屋 MD統括本部 統括室 ネットビジネス担当次長(当時) の菅谷氏は、当時打ち出し始めた高島屋の 新媒体戦略のキーワードとして

 1.コストダウン
 2.スピード
 3.インターネット利用
 4.環境
以上4つを掲げていらっしゃいました。
1.コストダウン
キーワードの1番目はコストダウン,単価を下げることです。新聞広告費は,段数を減らすと単価が上がり効果がありませんから,カタログ・DM代をコストダウンする,一部当たりの単価を下げることになります。制作面では,アナログで制作していたものをデータベース化し,デジタル化していくのは当然です。すべて制作はコンピュータ化し,取り引きしている印刷会社にもお願いして,コンピュータですべて制御します。撮影もデジタルカメラを使用し,再利用できるようにします。
 撮った写真のデータベースについてですが,印刷会社は今までは,版下ベースでデータ管理を行っていました。これに対し,写真自体も単品で管理できるデータベースに切り替える要請をします。版で管理していると,ほかの印刷物を作る時に,その写真をピックアップするのに手間やコストがかかったりするからです。
 また,印刷部数についても厳密に管理を行います。これまでは10万部というような単位で印刷の発注をしてきましたが,8万7000部,6万9000部というように制作部数の厳密化,ターゲットの明確化を図ります。実際の運用では,もっと厳しくて,867枚とか953枚印刷というように,非常に細かい数字の印刷部数管理を求められています。これは実現するつもりです。既にそれを当たり前のように行っている百貨店もあります。顧客データベースがしっかりと構築されれば,DMが必要な顧客のピックアップが,1枚単位でわかってくるからです。さらに,DMを出したら,顧客の反応,行動が厳密に効果測定できる仕組みができています。
 効果測定という面では,例えば水曜日にDMを出すと木曜日に顧客に届きます。土曜日に顧客が来ていない場合,各売場で来店していない顧客の名簿を作成し電話をして,回収率を高めるようにしています。従って,印刷物も1枚単位の数字を要求されます。

2.スピード
キーワードの2つ目はスピードです。印刷物を作る時の意思決定が非常に早くなっています。逆にいえば,決定してから制作までの短縮化を要求することになります。例えば,翌週にイベントがある時には,そのイベントにどんな人を呼ぶか,どんな人にDMを送るかの制作会議が毎日のように開かれます。その会議を元に,封書かハガキかなどの形態を決め,その経費計算も行って注文を出しています。これに対応するには,印刷会社にはオンデマンド印刷の仕組みが必要です。
 高島屋のハウスエージェンシーであるATA(オールタカシマヤエージェンシー)は,オンデマンド印刷機を設置し,パソコンと連動して,注文当日に納品する体制を既にとっています。ここでは1枚単位で制作しています。注文が各売場から出てきた場合,それに対応して,元々あるフォーマットからピックアップしてDMを作り,その日のうちに納品します。

3.インターネット利用
インターネットの利点のひとつに,タイムリーな情報発信があります。百貨店のイベントは毎日のように開かれますし,イベントでは計画の変更も起きます。例えば,ウルトラマンが来店しますとか,3時の予定が突然2時に変更になったりなどです。そういう急な変更事項についても,インターネットでは情報を流していくことが可能になります。
 また,たくさんの商品情報の中から,インターネット向きの商品情報をピックアップして顧客に伝えています。例えば,ファービー人形という商品があります。99年の春にトミーが売り出し,非常に売れました。高島屋ではインターネット上で,どこの売場でこれを扱っているかの情報を載せました。この商品は店頭でも売れたのですが,インターネット上だけで1万4000個売れました。単価は約4000円ですが,この商品が1万4000個,つまり5000万円以上がインターネットで瞬時に売れました。店頭売りも合計すると,5万個以上が売れました。これは百貨店業界では驚くべき数字です。バイヤーの力によって,事前に情報をキャッチし,タイムリーな情報発信することで,必ず売り上げに結び付くのだと痛感しました。
 このほかに,インターネットには18店舗のイベント情報,商品情報を掲載しています。また,数量の少ない商品は,東京の店にしか置いていないなどマーチャンダイジング上で難しい問題があり,店頭で扱えないケースもあります。しかし,例えば3個しかないけれども,どうしても売りたい商品を,インターネット上で売ることも可能です。ある有名ブランド品の値引き販売をインターネット上で行いました。数は3個だけ,色も限定,ある意味ではデメリット表示をして掲載したところ瞬時に売れました。
 ほかにも,福袋をインターネットで販売しました。500個の福袋を,18時30分にインターネットに掲載したところ,翌日の朝10時の出社時には,完売していました。わずか500個ですが,1個1万円なので,500万円の売り上げになります。高島屋が営業していない時間に全部売れてしまいました。あまりにも売れたので,新しい福袋を,約2000個作り今日は200個,明日300個という形で毎日掲載し,その都度全部完売しています。インターネット上で約2000個,2000万円の売り上げとなったわけです。掲載写真は福袋の写真だけで,ずっと変更していません。数が少ない,もしくは半端な数しかなくて,店頭にはなかなか並ばないような商品も,インターネット上では売ることが可能で,逆にインターネットに向いているともいえます。
 また,在庫が日本にない商品の販売も可能になります。98年のクリスマスの例では,「本場のクリスマスのギフトはこういうものですよ」と紹介するつもりで,インターネット上に掲載しました。ところがこの商品が欲しいという注文が殺到しました。1万数千円のものですが,何十個という単位で売れました。幸いニューヨーク高島屋に在庫があり,ニューヨークからDHLで発送しました。
 このように,いったん仕入れて,売れるかどうかわからないのに在庫として抱えておくことなしに,売れたものだけを仕入れて売るという全く新しいビジネスができます。

4.環境
高島屋はISO14000シリーズの取得に踏み切りました。東京店が第一号店です。いずれ,全店舗でISO14000の基準に沿った環境設定をしていくつもりです。
 DM・カタログは紙で作っています。前述したようにそれが宣伝費の半分を占めているので,これが節約のポイントになります。また,通信販売費の50%は,実は紙代です。これが一番大きな課題で,通信販売部は,おそらく5年先ぐらいをめどに紙媒体をなくす方向に進んでいます。つまり,インターネットやCATVなどを利用して,顧客にデータを配布しようとしています。この傾向は,通信販売専業の会社でも同様でしょう。通販専業の関係者も,3年後には紙媒体は半分に減り,電子媒体に移行するだろうと語っています。高島屋は2007年をめどに半減しようという計画で進めていますが,各媒体の進展状況で前倒しになる可能性もあります。
 もうひとつ百貨店は,宣伝以外でも包装紙,ショッピング・バッグ,コピーペーパーと,大量の紙を使用しています。特に包装紙の使用量は多いため,最近は小さな短冊を用いて簡易包装にするなど,顧客の理解を得ながら紙の削減を進めています。
(「Printers Circle」2000年2月〜3月号特別企画より)
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マス媒体活用からOne to One、パーソナルメディアの活用・併用へ戦略をシフトし、通信販売の顧客と店舗顧客の融合を図ることに成功しているタカシマヤのメディア戦略の全貌とは?これは百貨店業界だけの話ではありません。御社のクライアントの状況と照らし合わせることによって、新たな提案、新たなパートナーシップに向けたヒントが見つかるはずです。
ご期待下さい!

■関連セミナー
クライアント動向2000シリーズ 第5弾
お客様はだれか?
タカシマヤのメディア戦略の変遷

〜マス媒体からパーソナル媒体へ。。。印刷とネットワークメディアで目指すモノ〜
開催/平成12年10月10日(火) 14:30〜16:30
講師/菅谷 秀明(株式会社高島屋 インターネット事業開発室)

2000/10/02 00:00:00


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