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PDFを利用した電子出版ソリューション

アドビシステムズ株式会社
マーケティング部 ePaperソリューショングループ
フィールドプロダクト・マネジャー 石原信義

電子書籍のマーケットは紙の書籍を侵食するか

 2000年春,Stephen Kingの「Riding the Bullet」がeBook(以下,電子書籍)という新しいジャンルに火をつけた。紙の本は出版せず,電子書籍のみで新作を発売するという,超人気作家の試みは大成功を収めた。少なくとも彼にとっては。  一部の大手出版社,オンライン書店を除いて,ほとんどの会社はもうかるかどうか確信のないまま,脅迫観念に駆られて,この業界に参入した,またはしつつあるのではないか。これはe-ビジネス全般にいえることだろう。
 Andersen Consulting社によると,アメリカでは,2005年に書籍マーケットの10%を電子書籍が占めると予測している。その額は23億ドル(約2500億円)。興味深いこととして,10%のうち30%(つまり全体の3%)のみが,紙の本からの置き換え,つまり侵食した分であり,70%(全体の7%)は新規の売り上げになるとのことである。これは,オフィス文書のデジタル化は進んだが,紙の消費量は減っていない,ということを思い出すと,納得できる推測だろう。
 まとめると,立ち上がり始めたばかりの市場のため,データが少なく,マーケット規模を算定・推測することは難しいが,市場規模は倍近い勢いで伸びていく,紙の書籍への侵食は少ない,ということはいえそうである。

電子書籍のメリットとは

 最小の投資と,最短の時間で出版できる意義は大きい。経費がかからないことで,知名度の低い作家,作家を志す人に門戸を開放できる。つまり,テスト販売である。紙の書籍であれば,採算のリスクがあるものも,電子ならそのハードルはかなり低くなる。評判が良よければ,紙で出版すれば良い。人気作家であれば,ハードカバー,文庫本の次に,電子で出せば,リーチできなかった読者をも刈り取れる。海外在住の邦人などは,その格好のターゲットだろう。
 マスターをデジタルでもつことになるので,廃刊の概念もなくなるし,バックナンバーのための倉庫も削減できる。旬が過ぎてから,紙の注文が来た場合は,オンデマンドで印刷すれば良い。
 読者側では,パソコンが軽量化し,電池寿命が延び,ディスプレイの解像度がもっと上がってくれば,数冊の本を携帯するよりも快適であろうし,辞書,インターネットと組み合わせることによって,付加価値は高まる。

電子書籍の改ざんをいかに防ぐか

 ある人気ミステリー作家が語る。「作家として何が許せないか。コピーも許せないが,改ざんだけは絶対に許せない,許さない」
 血を吐くような(その作家はそんな表現をしたわけではないが)苦労の末に生み出された作品であろう。それが勝手に表現を変えられ,読者にはわからないように販売などされたら,これは,愛しいわが子を傷つけられ,さらし者にされるのと同じぐらい許しがたいことなのであろう。これは,デジタル故の恐ろしさである。
 このような犯罪がいとも簡単に,もしかしたら犯罪だとの自覚なしに,行われてしまう可能性がある。そのような方法で,電子書籍が既に多数,販売されていることは憂慮すべき状況であろう。もちろん,違法コピーも,売り上げの機会損失につながる,大きな問題である。
 これらの問題を解決しないと,いいコンテンツは集まらず,電子書籍マーケットはしりすぼみになってしまう。
 Adobe PDF(Portable Document Format)は,そのフォーマット自体が最初からセキュリティを考慮した設計になっている。AcrobatでPDFを保存する時,セキュリティの内容を設定できる。ここで,文書の変更の項目に禁止としてチェックを入れておくと,改ざんを防止できる。
 また,Acrobatには電子署名を入れる機能もある。これにより,改ざんされていないことを証明することができる。ただし,違法コピーに関しては弱い。これは,パスワード設定により,ある程度防止できるが,読者の数・コンテンツの数が増えると,いちいちパスワードを連絡するのは手間であるし,正規購入読者がパスワードを漏えいさせる危険性もあり得る。
 アドビは電子書籍のために,違法コピーを防止するためのDRM(Digital Rights Management)ソリューションを提供する。この製品が,Adobe PDF MerchantとWeb Buyプラグインである。販売者が電子書籍をセキュアに販売するためのサーバ用ソフトがPDF Merchantであり,その書籍を購入する読者が使用するのが,Acrobat Reader用のWeb Buyプラグインである。

月刊プリンターズサークル11月号より

2000/10/28 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会