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印刷をカラーマネジメントするために

凸版印刷が考える印刷の標準化

印刷は基本的にトーンリプロダクションである。限られた濃度範囲のCMYKの掛け合わせで,ディレクションに沿った絵柄をいかに再現するかが印刷の技術である。
印刷の標準化がいつも同じ印刷物ができることを目指すとすれば,細かい部分の標準化も必要になるが,そのような標準化は実際には困難である。
一方,良い印刷物を作るには,得意先の意向に合う仕上がりになるよう管理しなければならない。従って印刷の標準化にはディレクションの標準化も必要であるが,これも簡単に実現できることではない。

印刷の品質要素
製版や印刷のオペレータは,非常に多くの品質要素に注意して印刷物を作成しているのが現状であるが,カラーマネジメントのプロファイルを作成する場合は,どういう点が本当に数値で管理できるようになっていなければいけないのだろうか。

(1)ベタ濃度管理
ベタの表現のうち,強さや濃度はベタ濃度で管理できるが,つぶれ具合やきれいさは濃度計では判定できない。量産化についても,濃度の均一性はある程度管理できるだろうが,細かい品質保証はできない。カラーマネジメントはあるレベルに達したといわれているが,印刷の品質面から見るとまだまだやることは多いのである。
凸版印刷でも数値化を進めているが,すべてを数値化できるわけもなく,従来のコントロールストリップを入れてベタ濃度管理をし,プロファイルを作っている状況である。

(2)面内ムラ
印刷機の特徴として面内ムラやバラツキは避けられない。カラーマネジメントを行うときは,面内ムラもゼロにはできないことを考慮しなければならない。面内ムラがどれくらいあり,それがどこまで影響するのかを試してみると,縦方向では印刷機のタイプによって凹凸が違うことがわかる。
現状ではCMYK25%の掛け合わせのグレーでΔE=2を超えるくらいの面内ムラは制御しきれないとみている。通常,横方向のバラツキはオペレータがインキキー操作によって均一にする。印刷機は1枚ごとのバラツキももっているのである。

(3)面内ムラとカラーマネジメント
まず,本当にコントロールストリップで必要な色を代表しているのかという疑問がある。
CMY100%の掛け合わせパッチのようなものは特にコントロールストリップとかなり違う再現がプロファイルのチャートの中で行われてしまうことがあるので注意する必要がある。

(4)校正刷りの安定化
濃度管理とグレー管理とをテストしてみたところ,グレー管理のほうが全体的に低い範囲で安定して収まった。しかし,単色のベタの部分は濃度管理に負けている。つまり,品質管理方法はそれぞれの特徴をよく理解して使うべきだということである。

本機数値管理のもたらすもの
カラーマネジメントは,本機の数値管理という現場の意識を高める意味でも非常に効果がある。ただ,現状のカラーマネジメントでは解決しなければならない問題点がまだあり,アナログのカラーマネジメントに取って代わるにはまだ時間がかかりそうであるが,今はそういう動きへの入り口にあると考えられる。
カラーマネジメントをするために避けて通れない本機数値管理がもたらす効果は2つある。1つは印刷の数値管理への布石である。機械の保守点検や材料メーカーや印刷機メーカーへの提案,製版,加工を含めて大きな意味での印刷全体を数値管理していくことへの布石になるということである。もう1つは,本機で印刷しやすい色見本が現場に流れてくるような環境が作れるという効果である。

今後の課題
(1)印刷側の課題
印刷側が考えなければならないのは,コントロールストリップを入れたベタ濃度管理だけで終わってはいけないということだ。印刷の品質要素はベタ濃度だけではなく,たくさんの点をチェックしながら印刷物を仕上げている。本当に印刷の標準化を行い,その標準から印刷の仕上がりが予測できるためには,ベタ濃度のほかにも最小点の再現性やグラデーション,グレーバランス,網点形状,網点の揃い,光沢,コントラスト,色再現性,見当精度,ゴースト,モアレ,ダブりの許容幅などをきちんと数値化し,必要なら標準化しなければならない。こういう部分の数値化は非常に難しいが,アナログのカラーマネジメントからデジタルのカラーマネジメントに本当の意味で移行するにはどうしても避けられないことである。さらに実際の印刷工程における管理方法としても,シャドウだけでなく,ライトから中間も同時に安定する印刷の品質管理方法を模索しなければならない。

(2)メーカーへの要望
いつ刷っても同じ印刷物が出てくるためには,印刷機や材料面の改良も必要である。面内ムラを抑えるにはどうすればよいか,ムラが抑えられるのはいつなのか。逆にそうならないのはなぜかを研究して,面内ムラの少ない印刷機のあり方を考えていきたい。
また,印刷の1枚の中や100枚の中でのロット内バラツキの低い印刷材料も必要である。温度の変動や水の変動に影響されない印刷材料の開発も一緒にやっていきたい。最終的には印刷の標準化において,印刷機や材料も,こういう状態にあるのが標準であるということも一緒に見つけていきたいと考えている。その上で,使っている印刷機が標準の状態にあるのかどうか,材料は標準に近い状態なのかどうかの判定方法についてもメーカーと協力して模索したい。

(3)標準化団体への要望
標準は,ある限られた条件でしか成り立たないものや,現在の印刷業界における一般的な条件とはかけはなれた条件のものでは,使う側も困るし意味のないことである。印刷物は大量生産の工業製品ではあるが,工芸的な部分も含んでいる。従って標準作りには発注側も含めた標準作りが大切だと思う。
例えばアメリカのSWOPは標準ではなく,推薦基準である。そもそもSWOPはコントロールストリップでのベタ濃度の管理幅が非常に広く,これに則っても良い印刷物が予測できるとはいえない。それにもかかわらずSWOPがアメリカで広く使われているのは,SWOPを決めた中には出版社も入っていて,発注側も納得した基準だからである。つまり,これに合わせて刷ればお互いに仕事が進められるという契約が成立するのである。こうした印刷発注者も含めた標準作りを心掛けてほしい。
テキスト&グラフィックス研究会:2000年7月28日Techセミナー「デジタル時代の印刷管理」より 文責編集)

2000/10/16 00:00:00


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