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あなたは業界再編成にどう臨むか

パラダイムシフトの真っ只中にある印刷業界は、崩れ始めた従来の経営の土台を新しく作り変えていかなければならない。事業の領域、顧客との関係、資金の調達など、経営基盤の再定義、再構築が求められているわけだが、それを独立独歩で行なうのか、業務提携やM&Aなどの企業結合の手法も使いながら行なうのかの判断をしなければならないのも、パラダイムシフトだからこそである。

日本の産業界は、ここ1〜2年、新たな業界再編成の動きに入っている。バブル崩壊直後には,メーカーを中心に売り上げ至上主義が否定され、リストラあるいはリエンジニアリングで縮小均衡もしくは効率化を目指した再編成が行なわれた。しかし、効率は良くなっても、マーケットシェアを確保しておかないと次の時代には繋がらない、ということに気付き始めたからである。つまり、この2年間のM&Aの増加は、リストラという後ろ向きの再編成から、次の時代に備えるための前向きの再編成が始まったことを意味している。

この動きは、一部の大企業だけの話しではない。小規模事業所が大勢を占める業界で、業界再編成が急速に進んでいる代表例として医薬品卸業界である。同業界では合併が次々と行なわれ、かつて1500社あった業者が900になり,900が今150と減少し,最大手企業の社長が,このペースでいけば2000何年かには自分の会社もなくなってしまうと冗談をいうくらい再編が進んでいる。医薬品卸が、メーカー系列のもとで顧客を見ずに顧客の開拓もせずにメーカーのほうばかり見ていたからで、結果として,メーカーの意向で統合せざるを得ずドラスチックな再編成が起こった。
印刷業界は、中小企業が多いといっても産業一般に見られるような「小規模企業=下請け」ということではなく、自立した商売をやってきた業界だから、医薬品卸業界のようなことは起きないだろう。

ただし、印刷業界であっても、業界再編成の要因がかなり揃いつつあるのも事実である。それは、以下のようなものである。
@ 先端技術への対応が非常に困難,
A 設備競争が激しく,連続的投資能力が不足,
B 多様性への対応が困難,
C 資金力対策,購買力強化対策,自己資本調達の問題,
D 人的資源,社員教育,
E 規模の利益が必要

日本の産業一般においてM&Aが受け入られ始めた背景として、日本人のメンタリティの変化は大きい。
一つは、起業の目的を「M&Aによる売却」とする若手経営者が増加している状況である。もう一つは、従業員側の意識変化である。大企業や中堅企業が中小企業を買ったときに、社員は心の中では実際には喜んでいる。日本の中小企業の従業員は,経営者に何かを求めているわけではない。インセンティブよりも安定を求めているから,買収されても安定が確保されれば,経営者は変わってもかまわない。また,日本の若い社員は中間管理職に対してかなり不満をもっているが,M&Aによって,いわば外圧によって変わっていくのではないかという期待も大きい。つまり,トップは自分が会社を放り出してしまったことで,社員が自分を責めるのではと考えているが,社員はそうは思わない。

また、株式交換制度,会社分割制度など、税制や法制度の整備が進み、さらに、東商M&Aサポートシステムのように、公的機関が公認会計士等の仲介者を斡旋するようなインフラが整ってきたこともM&Aが促進されてきた大きな要因である。東商M&Aサポートシステムは、1998年4月から業務を開始し、2000年8月現在210社の相談があり、印刷・出版関係でも、売りに関する相談があったという。

いずれにしても、自立的な性格を強く持ってきた印刷業界でも、パラダイムシフトを乗りきるためには、いままで身近に感じてこなかった経営手法も取り入れていくことを考える必要が出てきた。
新たな経営の土台を固めていくには何を考えなくてはいけないのかをテーマに、来る11月16日に経営シンポジュウム2000「提携・JV・企業統合」を開催する。

JAGAT経営シンポジウム2000

2000/11/10 00:00:00


公益社団法人日本印刷技術協会